電気自動車にコンバートしたフィアット500を販売
現行型フィアット 500のモチーフとなっている“フィアット ヌォーヴァ 500”は、イタリアのベーシック・トランスポーターの傑出として名高い初代フィアット 500(トポリーノという名で親しまれている)の後継モデルとして1957年に登場した。
そのように各方面で注目度が高いヒストリックカーのひとつだと言えるフィアット ヌォーヴァ 500を所蔵、展示するとともに、文化的な遺産として保護、保存にも尽力していることで知られるのがチンクエチェント博物館(愛知県名古屋市)だ。
同施設では、フィアット ヌォーヴァ 500を現役のクルマとして後世に残していくスキームの一環として、博物館プロデュース車両を電気自動車にコンバートした「500ev」を販売している。熱心なフィアット ヌォーヴァ 500好きやポルシェをはじめとする高性能スポーツカー好きに、都市部などにおける近距離移動の足として提案しているのだ。
チンクエチェント博物館では、イタリアに現存する旧い車両を、提携するカロッツェリア(イタリアでも有数のチンクエチェント・スペシャリスト)にて日本での走行環境に配慮しメカニカルな部分にもこだわり、現代の道路状況にマッチしたクオリティに仕上げてユーザーにデリバリーしている。今回紹介するチンクエチェント・クラシケ(クラシケ=イタリア語でクラシック・カーの意味)を電気自動車にコンバートした500evのほかに、ガソリンエンジン仕様もラインアップする。
2種類のレストアプランを用意
これから先、30年、50年と乗り継がれる“現役のクルマ”として後世に残していくことは、フィアット ヌォーヴァ 500の保護、保存と持続可能な社会づくりにもつながるとチンクエチェント博物館では考えている。
同施設がプランニングしているのは「スタンダード」と「レストア」のふたつのプラン。スタンダードは日常的に走行している車両で、ボディの状態が良好な個体のみを使用する。内外装パーツの多くを新品に交換もしくはリペアし、エンジン、トランスミッション、足まわり、ブレーキなども熟練メカニックが時間をかけて丁寧にメンテナンスしている。
レストアプランは、ボディ全体を取り外し、新たに鈑金塗装を行い、エンジン、トランスミッション、足まわり、ブレーキなども熟練メカニックが時間をかけて丁寧にメンテナンスやオーバーホールを行い仕上げるというもの。
またオーダーの場合、ベースモデル(Dタイプ、Fタイプ、Lタイプ、Rタイプ、G(ジャルディニエラ)タイプ)が選べ、さらにボディカラー、インテリアカラーまでチョイスできる“レストア”も用意している。
FIAT 500evには旧車の概念にとらわれない新しい愉しさがある
500evは、レストアされたチンクエチェント・クラシケを電気自動車にコンバートした車両である。
キャンバストップ、ヘッドライト、ポジションランプ、ウインカーランプ、フロント/リヤエンブレム、フロント/リヤバンパー、左右ドアミラー、ホイールキャップ、ワイパーブレード、バックランプなどは新品パーツに交換している。
インテリアは、不具合のある部分を新品パーツに交換もしくはリペアしており、内外装が仕上げられたボディにニュータイヤ4本がセットされる。在庫車両以外はカスタムオーダーとなるので、オーダーから納車までの納期が約12カ月となる。
オーダーの場合、ベースのモデルはFタイプとLタイプ(充電用のソケットを挿す関係から2グレードのみ)から選ぶことができ、ボディカラー、インテリアカラーも自分好みにすることが可能。ロングサンルーフ化やオーバーフェンダー化といったボディカスタムにも対応してくれる。
機関は、イタリアのニュートロン社製EVコンバージョンキットを組み込む。リヤにモーター、コントロールユニット、補器類用バッテリーなどを搭載。フロントにモーター駆動用のバッテリーを搭載している。
電気自動車にコンバートされた500evもチンクエチェント・クラシケのトランスミッションをそのまま使用しているが、クラッチペダルおよびシフトレバーの操作が不要で、3速もしくは4速に入れたまま走ることができる。
これまでの輸入車、旧車の概念にとらわれない新しい楽しさがあり、初めて電気自動車やヒストリックカーに乗るビギナーにも扱いやすいので、万人にオススメできる1台だ。
乗ってわかった500evの実力
今回試乗させてもらった500evは、これ以上新品パーツを取り付けるところがないぐらいまで各部を仕上げており、なおかつオプションもたくさん装着されていた。
オプションは、Fタイプ TFTメーター(税込:16万5000円)、デジタルオーディオシステム(税込:33万円)、キーレスエントリー&セキュリティ(税込:22万円)、イルミネーション付プッシュスイッチ(税込:7万7000円)、USBポート(税込:1万1000円)というラインアップとなる。税込車両本体価格は660万円(TWO BATTERY)で、Fタイプ/Lタイプ共通となる。
スペックも記しておくと、500evは13.5hp(10kW)のモーターを搭載しており、航続距離は約100km。駆動用バッテリーの種類は、リチウムイオン電池。充電時間は、家庭用200V(16A)使用時で約9時間となる。発進加速は0~50km/hが7.0秒、最高速度は85km/h、車両重量は750kg、乗車定員は4人だ。
実際に乗ってみると、そのまま使用されているチンクエチェント・
ノーマルのフィアット ヌォーヴァ 500を運転したことがある方はよくご存じだと思うが、
販売やアフターメンテナンスも全国展開
車両の展示および販売協力、アフターメンテナンスまでを幅広く対応してくれるクラシケディーラー(パートナー拠点)は、ガレーヂ伊太利屋(東京都江東区有明)、フィアット岐阜(岐阜県岐阜市)、フィアット京都(京都府京都市)の3拠点。アフターメンテナンスを中心に、きめ細かくサポートをしてくれるクラシケサービス(同じくパートナー拠点)として、ロッソカーズ(山形県鶴岡市)、トゥルッコ川口(埼玉県川口市)、トライ フォー ポイント(静岡県伊豆の国市)、スティルベーシック(静岡県静岡市)、アクト オート サロン(愛知県蒲郡市)、トゥルッコ名古屋(愛知県名古屋市)、ガレージ プレアデス(愛知県名古屋市)、ベーシックベーネニワ(岐阜県可児市)、レッドポイント(岐阜県各務原市)、オートマイスター(大阪府大阪市)、カーショップトリミ(佐賀県三養基郡みやき町)がある。
いまでも外装新品パーツがあるヌォーヴァ 500
これだけのサービス体制が整っていれば、安心して購入できるだろう。 チンクエチェント博物館代表の伊藤精朗さんは、取材当日に、このように話してくれた。
「博物館の構想は30年前から考え、10年かかって準備し、20年前にオープンしました。ここ最近は、オンライン博物館としてYouTubeで配信しています。皆さん、SNSも熱意を持って見てくださっているので、博物館プロデュース車両のことをよくご存じです」
「いま、博物館プロデュース車両を買うということは、ペットを飼って、大切にするのと同じことだと言えます。パートナー拠点が各地にあるので、地元のペットショップや動物病院に行くのと同じような感覚で博物館プロデュース車両を購入、維持し、長く付き合っていただければと思います」
「どこで買っても同じですが、やはり、フィアットのディーラーで買うというのは安心感がありますね。その一方で、博物館のブランドや、ユーザー側に博物館から買うべきという気持ちもありますので、600ムルティプラとかにも力を入れているチンクエチェント博物館では、初期モデルをはじめとするマニアックなモデルも扱っています。500evの乗り方の指南もしていますよ」
「2年前にチンクエチェント博物館を山形から戻したわけですが、そのタイミングは日本でフィアット ヌォーヴァ 500が欲しくても売り物がない、イタリアではフィアット ヌォーヴァ 500が朽ちていくという話が耳に入ってきました。それで保存活動を開始し、フィアット ヌォーヴァ 500を買い始めました。現在、毎月4台ペースで博物館プロデュース車両がコンスタントに日本に入ってきています」
「カワイイし、エコだし、クラシックのわりには安いし、いまの世の中にもマッチしているし、というフィアット ヌォーヴァ 500は、構造がシンプルなのでDIYに対応可能です。そして、いまでもパーツがあるので、お金をかければキレイになります。キレイにしていく、ということは5年10年20年スパンでクルマをみるか、みないかという話になりますけどね」
「フィアット ヌォーヴァ 500は、量産効果でまだ外装の新品パーツが出るんですよ。例えば、フロントマスクもDタイプ用とか、そういった細かいものまで出てきます。当時のファブリックと同じ生地も作っています。機関系のパーツも出ます。フィアットの色(純正カラー)で塗ることも可能です」
「250~300万円のガソリンエンジン仕様車も500evもクルマとしての楽しさは変わりません。どのクルマを選ぶか、という選択時に介在するのは、ユーザーさんと博物館プロデュース車両とのマッチングだけですね」
「皆さん、まず、ボディカラーから選びます。丸メーターが人気で、いまでもルパン三世の影響が大きいですね。博物館プロデュース車両をチェックしてみたら、しょぼかった……って言われないように、つねに品質をアップしています」
「チンクエチェントは、新旧で揃える人が多いですね。博物館プロデュース車両とともに現行型フィアット 500を所有している方が複数います。博物館プロデュース車両とインフラを取り巻くさまざまなものが、今後、この国で自動車趣味を楽しむ際に必要となる要素と合致していると言えます。とりあえず、乗ってみたら? とお伝えしたいですね」
ここでしか見られない稀少なモデルを展示中
最後に事前予約制となるチンクエチェント博物館の展示車両ついて列記しておきたい。
FIAT 500 A(TOPOLINO)/1936年
FIAT NUOVA 500(PRIMA SERIE)/1957年(最初期モノ、窓が開かないふたり乗り)
FIAT NUOVA 500 USA/1959年(アメリカにあった個体をイタリアにてレストア)
FIAT 500 GHIA JOLLY/1959年
FIAT NUOVA 500 SPORT/1959年
FIAT 500 GIARDINIERA/1960年
FIAT ABARTH 695 SS ASSETTO CORSA/1966年
CHOCOLATE COATED FIAT 500/2005年
注目はCHOCOLATE COATED FIAT 500で、愛・地球博にて展示された個体。トリノで有名なものはチョコレートとフィアットということで、それを融合させたチョコチンクとなっている。ホワイトチョコ&ヘーゼルナッツにてボディがコーティングされている、イタリア政府から進呈された特別なモデルだ。
博物館プロデュース車両をゲットするために訪問しつつ、貴重な展示車両をチェックし、歴史の重みを感じるといいだろう。