味わい深い操縦性だったFRの名車たち
FR車の魅力をひと言でいうと、4~5人が乗れるパッケージでありながら、アクセルオンでヨーを加えることができて、より積極的にアクセルを踏んで、ハンドルを切り足していける操縦性の自由度にある。
しかし1980年代の前半になると、乗用車の駆動方式は室内が広くとれて部品点数が少なくて済むFFに主流が移っていってしまった……。そうしたなかで、90年代になってもコントロール性に優れ、素直なハンドリングが高評価された珠玉のFRスポーツを振り返ってみよう。
ポルシェ944ターボ
ポルシェが924と911 SCの中間(サイズ、価格、パフォーマンス)を埋めるモデルとして、1983年に登場したのがポルシェ944シリーズ。 エンジンはフロントにあるが、ミッションはリヤデフと一体の“トランスアクスル”を採用し、理想的な前後重量バランスを追求。直列4気筒(928のV型8気筒SOHCの半分=片バンクを流用)のコンパクトなエンジンだったこともあり、ミッドシップ並の回頭性の良さを実現していた。
とくに1986年に追加された944ターボは、「世界一ハンドリングが良いクルマ」と評され、日産の901活動においてR32スカイラインの具体的なターゲットモデルに選ばれたことでも知られている。ポルシェ944は1992年に後継車の968にバトンタッチし、販売終了となった。
日産スカイライン(R32GTS-t/R34 25GT TURBO)
上掲のポルシェ944ターボをお手本に、「走りのスカイライン」を復活させたのが、日産のR32スカイラインだ。
R32スカイラインの開発主管を務めた伊藤修令氏は、「ポルシェ944ターボは、しっくりくる操縦性と確かなステアリングインフォメーション、路面をしっかり捉えるフラットライドのサスペンションなどで優れており、運転の楽しさと奥深さが亜ある大人のスポーツカーである。われわれはFRの(R32)GTS-tタイプMの目標として944ターボを選定した」と語っていて、たしかにそのシャーシ性能とハンドリングは上々だった。 R32では16年ぶりに復活したGT-Rの存在が大きすぎて、FRのGTS-tは影が薄まってしまったが、80年代FRの名車の1台といって間違いない。
同じ系譜で1998年デビューのR34スカイラインのFRクーペ、25GT TURBOも隠れた名車。可変バルタイのNVCSがついたRB25ターボエンジンは、トルクバンドが広く、ストリートでのドライバビリティは、RB26DETT以上! ボディもR34になって劇的に良くなり、国産FRスポーツの傑作車だ。
BMW Z3Mクーペ(E36/8)
1990年代のFRスポーツで、気持ちいいハンドリングの筆頭といえるのは、1997年に発売されたBMWのZ3Mクーペだろう。 エンジンはM3(E36後期)の3.2L直6エンジンを流用。ボディ剛性は申し分なく、伝統のセミトレーリングアームのリヤサスペンション(このクルマが最後のセミトレーリングアームのリヤサスペンションだった)は、固さでごまかさずに、ストロークに余裕がありしなやかでありながらしっかりした味付けで、驚くほどニュートラルステア。
着座位置の関係で、ドライバーを中心に旋回する他車にはない感覚があり、ハンドリング マニアのための究極のFRスポーツだ。