好調なスタートを切った平成シルビアの場合
同様にシルビアなども、S13が1.8~2Lサイズで価格が手ごろなFR、そしてターボモデルもラインアップ。「アートフォース・シルビア」のコピーにふさわしいきれいなスタイリングもあって、大ヒットを記録した。 しかし、3ナンバー化したS14では人気が失速……。 S15では、5ナンバーサイズに戻りボディデザインも洗練され、ボディ剛性も大進歩。走りの面では素晴らしくなったが、クーペやスポーツカーの人気自体が陰っていて、ラストシルビアになってしまった。 このシルビアも世間の評価はS13が↗、S14が↘、S15が↗という流れになっている。
スカイラインと並ぶ金看板フェアレディZの場合
もう一台、フェアレディZはどうか。 初代のS30は文句なしの存在だが、昭和末期のZ31はスポーツカーとしては印象が薄い。V6ターボになって、直線は速かったが……。ただ中古車市場では、いまだに230万円ぐらいが相場。 1989年に登場したZ32は、国産車初の280psで、空力に優れた低く完成度の高いボディが特徴。4輪マルチリンクサス、リヤビスカスLSD、アルミキャリパー&対向ピストンタイプのブレーキなど備えていて、スポーツカーらしさ、Zらしさに溢れたモデルだ。11年間も生産され現役が長いZでもあった(中古車は200万円前後)。 Z32の生産中止から2年後に復活したZ33は、FR用に新たに開発されたFMプラットフォームを採用した2シーター専用モデル。エンジンも新設計の3.5LのV6 VQ型エンジンで、前後重量配分に優れ、空力面でもゼロリフトを達成した。 ハンドリングもよく、大排気量NAのスポーツカーとして、またZらしさもあって評価できる一台。
2008年に登場したZ34は、Z33よりもホイールベースを100mm短縮、およそ100kgもの軽量化が施されているが、価格帯が大幅に上がってしまったこともあり、存在感が薄い存在に……。 来春登場する新しいZは、日産の100%ガソリン車では最後のスポーツカーになるかもしれないので大注目だろう。
日産はファン心理をもっとよく理解して欲しい
こうして振り返って見ていると、日産の場合、ブランドイメージを守りつつ、ファンの期待に応える製品を出し続けるのがあまり得意ではなかったようだ。
なぜこうなってしまうのかといえば、作り手側が飽きるというか、「同じものを求めるファンなんてうんざり」と思っているところがあるからではないのだろうか。
しかし、どの分野でも、ファンとは同じものの反復作用に快感を覚える人たちのことだ。
かつてミュージシャンの大滝詠一が、比較的同じタイプの楽曲を作り続ける山下達郎に対し、「山下君は偉い! それは同じものを求めてやまないファンに対する、大いなる愛情だ」と評したそうだが、日産に足りなかったのも、まさにそのファンに対する愛情だったのではないか。腹腰を据えて、キープオン! そうすればファンは必ずついてくると思う。 販売台数で見れば、R34GT-RはR33GT-Rよりも売れていないし、S15もS14より売れてはいない。でも、それは間にR33、S14があったからで、R32の次がR34で、S13の次がS15だったら、かなりの台数が売れたはず。オーナーには怒られるかもしれないが、R33とS14でユーザーの時間とお金と使わせてしまったのが惜しかった……。
同じ傾向は、ホンダにもあるように思えてならない。F1への参戦と撤退を繰り返すのもそうではないだろうか。2代目NSXや、S2000、S660の幕引きの仕方、シビックタイプRなどを見ていると、ファン心理がわかっていないのではとも。
その点偉いと思うのは、トヨタのクラウンやマツダのロードスター。そしてポルシェ911。これらのクルマはファン心理の呪縛に縛られながらも健闘していて、メーカーの大いなる愛情を感じられる存在である。