ホンダらしいトールボーイの機能性と実力
初代ホンダ・シティのコンセプトは「新感覚FFニューコンセプトカーライフビークル」であった。そこでホンダが選んだのはホンダイズムの根底に流れる「マン・マキシマム/メカ・ミニマム」という思想。乗員の室内空間を最大限に確保しながら、エンジンやサスペンションはできるだけ小さな空間に納め、居住性や低燃費、動力性能などを追求したモデルとしてデビューした。
車両重量は635~675kg。室内もちょっと高めのシート位置&アイポイントの高さから運転がしやすく、乗用車のシビック、トラックのアクティの中間、トールボーイのシティという室内高1175mmというほかにはない高さが生み出す視認性や乗降性の高さが売りであった。
世界初の1.2L FFハイパーターボ
そして1981年10月の登場から1年、1982年9月に「やんちゃなホットハッチ」であるシティ・ターボが誕生した。
エンジン自体も大幅に設計が見直されて、新設計のピストンやクランクシャフト、チタニウム添加アルミ合金製シリンダーヘッドのほか、マグネシウム製ヘッドカバー(スチール製の3分の1の重量)を採用。また、国内初となるエンジン直接マウントの樹脂製エアクリーナーなども奢られ、シティ・ターボには新機軸が多数盛り込まれていた。
サスペンションはフロント、リヤともがストラット式で変更はないが、新設計のプログレッシブ・コイルスプリングや中空スタビライザーを採用。ブッシュ類の剛性を高めたほか、クラス初となるHR規格の175/70R12スチール・ラジアルタイヤを装着した。
ブレーキもクラス初となるベンチレーテッドディスク式を採用したほか、ブレーキパッドおよびリヤのシューには従来の石綿に代わっていち早くセミメタル・パッドを装着した。クラッチ荷重は30%の容量アップが図られたが、クラッチアシストのスプリングをやはりクラス初の採用としたことで、高性能でも軽い操作ができるようにしている。
国産車初のゼロリフトを実現
ボディはNAエンジン同様のフラッシュサーフェイス仕様に加えて、ターボ専用の大型フロントスカートや、左右非対称グリル、専用バルジなども空力効果の高い設計で、国産車初となるCL=0、揚力係数0を実現。燃費にかかわる抗力係数CD=0.40、ヨーイングモーメント係数CYM=0.02(ヨーアングル0.6度時)と、トールボーイであっても横風に強い、空力ボディに仕上げている。
また、チルト機構も備わるガラス・サンルーフも設定されたことで、開放感ある室内を実現。ちなみにカブリオレの発売は1984年まで待たれることとなる。
インテリアは専用グラフィックメーターや、370mmの小径3本スポークステアリング、専用バケットシートが備わりスポーツ性を高めた。
注目は世界初のボディソニック・シートで、オーディオの左右16㎝スピーカー(リヤスピーカーはオプション)とは別に、迫力を出したい重低音は20W×20Wのハイパーアンプがシートに組み込まれたトランスデューサーで振動に変えて、身体に直接伝える機能まで用意された。ホンダでは音楽体感シートと呼んでいたが、高性能カーオーディオの先駆けとして、ホンダは「若者文化を理解して牽引するメーカー」との認知に繋がった。
課題は現在も変わらない
初代シティは、現在でいう燃費スペシャルのモデルもあった。ターボと同時に登場したE2タイプは、マイナーチェンジ前のEタイプを上まわる10モード燃費で21.9㎞/L、60㎞定値燃費は25.0㎞/Lを達成。エンジンや軽量ボディと空力の効果で優れた燃費を実現した。
もっとも、当時はこうした環境性能が話題になることは少なくて、もっと走りのモデルが話となるのだが。それもまた、時代を彩る個性的なモデルとなる。
■ホンダ・シティターボ
〇全長×全幅×全高:3380mm×1570mm×1460mm
〇ホイールベース:2220mm
〇トレッド 前/後:1370mm/1370mm
〇車両重量:690kg(サンルーフ装着車700kg)
〇乗車定員:5名
〇最小回転半径:4.5m
〇室内長×室内幅×室内高:1615mm×1310mm×1175mm
〇エンジン型式・タイプ:ER型直列4気筒OHC12バルブ
〇総排気量:1231cc
〇最高出力:100ps/5500rpm
〇最大トルク:15.0kg-m/3000rpm
〇タイヤサイズ:175/7HR12
〇ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/LT油圧式
〇サスペンション:ストラット式
〇当時車両本体価格:76万円(東京地区販売価格)