インテグラの後継でもある尖った4ドアセダンの3代目【FD2型】
2007年には初代(EK9型)から数えて3代目モデルとなる、FD2型がデビューした。シビックタイプRとしては初の4ドアセダンとなり、これまでのモデル以上に一段と硬派なモデルであった。実用性のあるボディスタイルながら、とにかく硬くて鋭くて本気。サーキットを本拠地とする開発がなされており、一般道の気持ちよさよりも運動性能を徹底的に突き詰めたモデルであった。 外観は4ドアセダンながら、空力を追求している。専用エアロパーツは街に溶け込むことはせずに空力性能に特化。大型のリヤスポイラーやディフューザーなど、機能を強化して先代モデル(EP3型)の凡庸なスタイリングとは一線を画すスポーティさを備えていた。
ボディはDC5型インテグラタイプR比で50%の剛性アップを実現。リヤに専用ダブルウィッシュボーンサスペンションやヘリカルLSD、ブレンボ製のアルミ合金製4ポッドブレーキキャリパー、軽量ホイールと組み合わされる225/40R18のBS製ポテンザRE070が奢られ、とてもスパルタンな仕上がりとなっていた。 エンジンはK20A型DOHC i-VTECを搭載し、225ps/8000rpm、21.9kg-m/6100rpmのスペックを誇りながら、クロスレシオの6速MTはトランスミッションケースにアルミ合金製を採用。2L自然吸気の上限とまで言える驚異の性能を発揮させていた。 ホンダはタイプR発売の以前から高性能DOHCエンジンのモデルを「Si」、それを上まわるモデルを「SiR」、さらに走りに特化したモデルを「タイプR」とし差別化。タイプRクラスだが一般道での乗り心地を犠牲にしないモデルを「タイプS」や「ユーロR」としてきたが、このFD2型は歴代シビックタイプRのなかでも、紛れもないスパルタンな「タイプR」だったと言える。 それこそ箱根の峠道ではめちゃくちゃ気持ち良く、素晴らしく楽しい。ところが都内に帰ってくると「これはきつい……」「後席には乗りたくない……」などの声も。4ドアセダンだが普段はファミリーカーとして使え、たまにひとりで走りたいときは痛快な相棒になります、という二兎追ったマシンではなく、あくまでもサーキット専用車のイメージに近い仕上がりだった。 それゆえにモデューロから専用ダンパーが設定されており、純正ダンパーから交換することでしなやかでファミリーカーとしても使える快適性を確保。普段のファミリーカーユースから「たまには本気で走りたい!」というお父さんの相反するニーズを両立させてくれた。 個人的なエピソードだが、当時、懇意にしていたホンダのセールス氏から「自動車雑誌がモデューロの足が良いって書いてあるから、みんなオプションパーツを買ってくれるんです」と言ってもらえたことを思い出す。つまり、FD2を購入したオーナーの多くが、足の硬さが気になるほどスパルタンであったという訳だ。
■FD2型シビックタイプR 主要諸元
○全長×全幅×全高:4540mm×1770mm×1430mm
○ホイールベース:2700mm
○トレッド:前/後 1505mm/1515mm
○車両重量:1270kg(※エアコン非装着車は1250kg)
○乗車定員:4名
○最小回転半径:5.9m
○室内長×室内幅×室内高:1900mm×1470mm×1170mm
○エンジン: K20A型直列4気筒DOHC
○総排気量:1998cc
○最高出力:225ps/8000rpm
○最大トルク:21.9kg-m/6100rpm
○タイヤサイズ:前/後 225/40R18 (前後とも)
○ブレーキ:前/後 ベンチレーテッド・ディスク/ディスク
○サスペンション:前/後 ストラット式/ダブルウィッシュボーン式
○車両本体価格:283万5000円(税込)
プレミアム性も兼ね備えた英国生産の異色「R」【FN2型】
2009年に異色のタイプRが発売された。それは英国で生産された現地仕様のシビックで「欧州ばかりずるいぞ!」というユーザーの声が届いたのか、2010台限定で「シビックタイプRユーロ」の名で日本国内でも販売された。 外観はホンダがアスリートボディと称する、塊感のある力強くもスタイリッシュな造形。EK9の後継モデルと言われても信じてしまいそうな、美しいハッチバックフォルムが採用された。そこへ専用エアロパーツやボディ下面をカバーで覆うことで空力性を向上。欧州仕様の高い剛性ボディや、フィット同様のセンタータンクレイアウトによる室内の広さと低重心を両立させた。 エンジンはスペックこそ先代モデル(EP3型)に劣るものの、K20A型2L直4DOHCは201ps/7800rpm、19.7kg-m/5600rpmの実力を持ち、ドライブバイワイヤのセッティングと2次バランサーによって洗練された回転フィールを獲得。一段と進化したVSA(ABS+TCS+横滑り防止制御)と、225/40R18を履きこなすボディ&サスペンションもあり、プレミアムスポーツに仕立てられていた。 走らせるとまず感じるのがボディの素晴らしさ。プレミアム感たっぷりのボディの強さとしなりを感じることができ、走り出してすぐに上質であるとわかるほどであった。そして高精度で操舵の気持ち良さに加え、6速MTを駆使して全域でトルクフルなエンジンを操れば、近所へのお買い物でもファン・トゥ・ドライブが楽しむことができた。 また、専用のホンダRスペックシートはホールド性と長時間の快適性を両立している。さらに専用メーターパネル(自発光/レッド照明/REVインジケーター)は視線移動が少ない仕立てで、ロングドライブの疲労を軽減。市街地でも高速道路移動でも快適で、スポーツドライブも楽しいプレミアムスポーツとなっていた。 それだけに手に入らなかったファンは納得いかなかっただろう。最初の2010台は即完売でホンダの社員でも買えない人が続出。2010年には車体色を変えて1500台を追加したのだが、こちらも完売となった。
■FN2型シビックタイプR 主要諸元
○全長×全幅×全高:4270mm×1785mm×1445mm
○ホイールベース:2635mm
○トレッド 前/後:1505mm/1530mm
○車両重量:1320kg
○乗車定員:4名
○最小回転半径:5.6m
○室内長×室内幅×室内高:2230mm×1445mm×1195mm
○エンジン: K20A型直列4気筒DOHC
○総排気量:1998cc
○最高出力:201ps/7800rpm
○最大トルク:19.7kg-m/5600rpm
○タイヤサイズ 前後:225/40R18
○ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
○サスペンション 前/後:ストラット式/車軸式
○当時車両本体価格:300万円(税込)
高性能NAエンジンを味わい尽くすにはいまがラストチャンス!?
現在のシビックタイプRはターボエンジンを搭載するが、ホンダ同様に高回転NAエンジンで一世を風靡したBMWのMモデルも昨今はターボ化されている。多くの人がNAのあのころはよかったなぁ、などと思っている方も少なくはないに違いないはずで、筆者もそのひとりだ。 しかし、年々、厳しい環境性能が求められるようになり、高性能NAエンジンでは排ガスの基準値をクリアするのは難しく、同時にMT車自体も激減している。昨今のターボ化されたスポーツモデルも、数年後にはあのころはよかったなぁなんて懐かしんでいても、不思議ではない。 そう考えると、シビックタイプRに限らず気になる車種がある方は今すぐに試乗して、購入できるのであれば買うべきだ。ターボだろうがNAだろうが、内燃機関のMT車に残されている時間はあまりないのかもしれない。