「上手くなりたい」意欲は抑えられずトライアルの道へ
しかし、私の「あのコーナリング」が出来るようになりたいという気持ちが消えることはなかった。そんな私をバイク業界の大先輩が、トライアルの体験スクールに誘ってくれたことが、トライアル競技と出会うきっかけとなる。
それまでトライアルと言えば、大きなバイクイベントやレース会場などにある、イベント広場などで見かけることの多い、バイクでウイリーをしたままその場をグルグル回ったり、地面に人間を寝かせてそこを飛び越えて見せるというようなサーカスみたいなイメージで、競技というよりは出し物。自分でやってみるという選択肢はなく、ブルーインパルスのセレモニー飛行とか、そういう特別な訓練を受けた特別な人がやっている、一種の曲芸のように思い込んでいた。
しかし実際にやってみると、スタンドを払ったバイクの上に、バランスを取りながら立ち続ける「スタンディング」や、クラッチを切りながらゆっくり正確にマシンをコントロールしてクリアしていく「セクション」など、バイクを操る上でのすべてが詰まっていると言っても過言ではない、正真正銘の競技だったのだ。
トライアルってどんな競技?
トライアル競技で競うのは速さではなく正確さ。コースの途中に設けられた採点区間(セクション)を、減点されることなく走り抜けられるかを競い合うため、一番重要なのは、セクション中に足を着くなどのミスをしないことなのだ。 と言っても、私はまだまだ競技に出れるようなレベルではない……。だが、例えば小さな丸太を越えられた次は、地面に埋められているドラム缶を越えていくなど、いちいち小さな達成感が感じられるという楽しさがあった。
また、アクセルやブレーキ、クラッチのシビアな操作が要求されるため、私が一番上達させたい「ロードコースでのライディング」に絶対に役立つと感じられることや、速さを追求する競技ではない点も、私が求めていた内容にピッタリだったのである。
私は最初から速くなりたかった訳ではなく、上手くなりたかったのだ。「速さと上手さ」、一体何が違うのかと思う人もいるかもしれないが、私がMotoGPを初めて見たときに憧れたのは「速さ」ではない。あの1列に並んで走るライダー達が、同じところでバイクをバンクさせて、同じところで立ち上がっていく一糸乱れぬコーナリング。あの美しさに憧れて、サーキット練習をスタートさせたのだ。
「これだ!」。リーズナブルにライディングを上達させるため、私にピッタリな方法はモトクロスではなくトライアルだと確信し、トライアルを始めることを決断。探してもらった中古のトライアルバイクが、現在の愛車であるGASGAS「TX200」。私のトライアル用練習機であり、オフロード遊びもできる、お気に入りの1台だ。