女子ジャーナリストがなぜ「競技用バイク」を手に入れたのか?
今回は、私が所有する3台のバイクのうちの1台に、GASGAS「TX200」を選んだ理由を紹介したいと思う。TX200は愛車といっても少し特殊で、公道を走ることはできない競技用車両だ。厳密にいえば軽自動車届済証はあるので、ナンバーを取得すれば公道走行自体は可能なのだが、「トライアルバイク」という特殊なカテゴリの車両。
座るためのシートはなく、タンクも約4L。さらに2ストモデルであるため、燃料は混合ガソリンだったり、公道を走るにはかなり不便なバイクである。
ロードレースの「あの列に入りたい」と憧れてバイクの練習をスタート
モータースポーツの世界にまったく関わりのなかった私が、初めてツインリンクもてぎで見た、MotoGP 日本グランプリ。その一糸乱れぬコーナリングの美しさに魅了され、水泳のシンクロ競技のような「あの列」に入りたいと憧れて、バイクでのサーキット練習をスタートさせた私だったが、ロードコースでのサーキット練習には、かなりお金がかかるのだ。
それは、サーキットのライセンス費用だったり、装備、走行費用、タイヤなどの消耗品……。そして転倒すれば、またさらに追加で体とマシン両方の修理費用など。モータースポーツ全般に言えることだが、20代前半の若者が本格的に趣味で始めるには、コストがかかりすぎるのが実情である。
それでも、どうしてもサーキットを上手く走れるようになりたいと悩む私に、バイク業界の先輩方が勧めてくれたのが、ロードレースのように舗装されたサーキットを走るのではなく、土の上に作られたコースを走る「モトクロス」だった。
その理由は、ロードコースでの練習に比べて費用が格段に安いことと、それでいてロードでのライディングの上達に役立つというもの。私は「安く、ライディング練習ができるなら」と、まずはモトクロスの練習をスタートさせた。
始めたばかりのモトクロスで大怪我
モトクロスの練習にかかる費用は、ロードに比べて確かに安い。基本的に、コースを走行するためのサーキットライセンスが必要なコースも少ない上に、コース脇の広場などがあれば簡単な基礎練習も可能。バイクも丈夫で、多少こけた程度ならほとんど壊れることもなく、修理費も最小限。マシンを操る感覚などはロードコースで使える技術が満載だ。私は「絶対上手くなってやる」と、ロードのためのモトクロスを開始した。
そんな矢先に、大きなアクシデントが発生する。始めたばかりのモトクロスで、大怪我をしてしまったのだ。バイク仲間に誘われて参加した、初心者でも楽しめるというコンセプトのモトクロスの耐久レースでのこと。転倒した私を後続車が避け切れず、右腕を跳ね飛ばされて上腕骨を粉砕骨折してしまったのだ。それは、今なお右腕の可動域に後遺症を残すほどの大怪我だった。
「やってしまった」
モータースポーツ競技のほとんどがそうなのだが、「後ろの人が上手に抜いてくれるから、初心者は後ろを気にせず、自分の走れるラインを走っていればいい」と教えられる。確かにコース上では、おかしな動きをしないことが安全に走る第1条件ではある。しかし、それは上手な人のなかで、少数の初心者が走る場合の話ではないだろうか。たくさんの初心者が走っているなかで、初心者が後ろを気にせず走っていても、誰も上手く抜いてはくれないのだ。それどころか、何度も接触の恐怖を体験させられた。
私は、そんな違和感に少し怖いと感じながらも、ライディングを上達させたい一心で、周りに誘われるがままに、さまざまな「練習ができる機会」に参加し続けていた。そのため「やっぱり、そうだよね」と、薄々予想はできていた事故だった。ロードコースで走るより安く練習できるからという理由で始めたモトクロスだったが、始めて早々に、逆に高くつく結果に終わってしまう。
「上手くなりたい」意欲は抑えられずトライアルの道へ
しかし、私の「あのコーナリング」が出来るようになりたいという気持ちが消えることはなかった。そんな私をバイク業界の大先輩が、トライアルの体験スクールに誘ってくれたことが、トライアル競技と出会うきっかけとなる。
それまでトライアルと言えば、大きなバイクイベントやレース会場などにある、イベント広場などで見かけることの多い、バイクでウイリーをしたままその場をグルグル回ったり、地面に人間を寝かせてそこを飛び越えて見せるというようなサーカスみたいなイメージで、競技というよりは出し物。自分でやってみるという選択肢はなく、ブルーインパルスのセレモニー飛行とか、そういう特別な訓練を受けた特別な人がやっている、一種の曲芸のように思い込んでいた。
しかし実際にやってみると、スタンドを払ったバイクの上に、バランスを取りながら立ち続ける「スタンディング」や、クラッチを切りながらゆっくり正確にマシンをコントロールしてクリアしていく「セクション」など、バイクを操る上でのすべてが詰まっていると言っても過言ではない、正真正銘の競技だったのだ。
トライアルってどんな競技?
トライアル競技で競うのは速さではなく正確さ。コースの途中に設けられた採点区間(セクション)を、減点されることなく走り抜けられるかを競い合うため、一番重要なのは、セクション中に足を着くなどのミスをしないことなのだ。
また、アクセルやブレーキ、クラッチのシビアな操作が要求されるため、私が一番上達させたい「ロードコースでのライディング」に絶対に役立つと感じられることや、速さを追求する競技ではない点も、私が求めていた内容にピッタリだったのである。
私は最初から速くなりたかった訳ではなく、上手くなりたかったのだ。「速さと上手さ」、一体何が違うのかと思う人もいるかもしれないが、私がMotoGPを初めて見たときに憧れたのは「速さ」ではない。あの1列に並んで走るライダー達が、同じところでバイクをバンクさせて、同じところで立ち上がっていく一糸乱れぬコーナリング。あの美しさに憧れて、サーキット練習をスタートさせたのだ。
「これだ!」。リーズナブルにライディングを上達させるため、私にピッタリな方法はモトクロスではなくトライアルだと確信し、トライアルを始めることを決断。探してもらった中古のトライアルバイクが、現在の愛車であるGASGAS「TX200」。私のトライアル用練習機であり、オフロード遊びもできる、お気に入りの1台だ。