1950年代後半、アヴァンギャルドすぎた幻のプロジェクト
第二次世界大戦のあと国営企業となったルノーは、1947年にRR(リヤエンジン・リヤ駆動)のコンパクト乗用車「4CV」を発売し、戦後復興の波に乗って成長していった。そして1961年には日本でも愛好家の多いFF(フロントエンジン・フロント駆動)ハッチバックの名作「4(キャトル)」を世に送って、ルノーは大衆車ブランドとして不動の地位を築いたわけだ。
ここでご紹介する、ステーションワゴンの前後が逆になっているとしか思えないユニークすぎる形のクルマは、「ルノー・900コンセプト」。4CVと4のはざまで、ルノーがクルマの新たなスタイルを試行錯誤するなかで生み出された幻のプロジェクトである。
広くて快適な乗用車のカタチを試行錯誤した時代
1950年代後半、ルノーは乗用車として4CV(RR)、コロラール(FR)、フレガート(FR)ドーフィン(RR)といったラインアップを抱えていた。そんななか、乗用車の可能性をさらに広げようと、クルマのサイズはコンパクトなまま、室内空間をもっと拡大できないか? とのテーマの一環として、エンジンをリヤに配置し、前席をフロントアクスル上まで前進させたクルマのレイアウトが研究された。
まず1957年、ドーフィンをベースにした「ルノー600コンセプト」が試作される。この時点ではタクシーとしての使用を想定していたようだ。この写真は1958年に製作された試作2号車。
RRレイアウトで広さを求めたら、こうなった
1959年にはV8エンジンを搭載した「900コンセプト」が2台試作された。そのうちの1台は、ドーフィンやフロリードと同様にエンジンがリヤアクスルの後ろに配置されていたが、重量配分がひどく悪くなったことと、後席とエンジンの間に位置するラゲッジスペースへのアクセスが不便だったため、すぐにNGとなった。
そのため、900コンセプトの2号車ではエンジンをリヤアクスルの直前に配置することとなった。それが、ここで紹介するグリーンの個体だ。
コンセプトカーのボディはアルミパネルで製作されていて、ボディサイズは全長4.30m×全幅1.80m×全高1.55m、車両重量1020kgとなっている。
独自のV8エンジンを搭載して上級モデルを志向
ルノー900コンセプトの2号車では、エンジンをリヤミドに配置することで重量配分と運動性能が向上しているのはもちろん、リヤのラゲッジスペースが広く使いやすくなっている。
さらに足まわりには4輪ディスクブレーキを備え、当時ルノーの最上位モデルだったフレガートの後継モデルとなることを目指していた。
スペースの快適さはまさしくラグジュアリーカー
インテリアも凝ったつくりだ。この900コンセプト2号車ではステアリングコラムを折り畳んで乗り降りしやすくする機構を備えているし、当時流行していた大型のスピードメーターやステアリングホイール内側のホーンリングもおごられ、シートやドアパネルの内装は洒落たチェック柄となっている。
1950年代後半の中~上級サルーンとして、ルノーの開発陣が車内空間について極めてマジメに追求していたことが伺える。