バブル時代のRV人気で街にはパジェロ&デリカスターワゴンが溢れていた
「デリカスターワゴン」と聞いてみなさんはどんな姿を思い浮かべるだろうか? 筆者にとってのスターワゴンは上下2トーンのボディに、角目4灯ヘッドライト、パイプ製グリルガードにフォグランプといったイメージだ。1BOXカーをそのままリフトアップさせたような腰高なスタイルは、それまでにも一部欧州の軍用車やアメリカの改造車には見受けられたものの、乗用車としては世界的に見ても類を見ないもの。当時でも初見ではかなり特殊なクルマに見えたことを覚えている。
とはいえ1991年に発売され、売れに売れまくった2代目パジェロ同様、デリカスターワゴンもまた週末の高速道路で多くの台数を目撃するようになる。とりわけスキーブームとRVブームが重なった1990年代前半には、スキー場の駐車場でデリカを見かけないことなどあり得ないほどの人気となった。
混在するデリカとスターワゴンの系譜を整理してみよう!
このころの三菱自動車は初代RVR(1991年)やパジェロミニ(1994年)、4代目デリカスペースギア(1994年)にパジェロジュニア(1995年)など、流行のRVを次々と登場させ、第一次キャンプブームの隆盛と相まって国内市場で大きな存在感を放っていた。そんななか、今回の主役「デリカスターワゴン」がどんなモデルだったのか、4WDモデルをメインに振り返っていくことにしよう。
じつは、冒頭で挙げた筆者のイメージは、1986年に登場した2代目スターワゴンのもの。角目4灯は前期型の証で、1990年以降の中・後期型ではプロジェクターランプを備えた異形4灯となっており、現在中古車市場に出回っているスターワゴンの多くはこの中・後期型だ。 ここで注意してほしいのは「2代目スターワゴン」は「3代目デリカ」であるという点。つまり「初代スターワゴンは2代目デリカだった」ワケだが、文章で書くとややこしいので箇条書きにしてみよう。
■1BOX乗用デリカの歴史
・初代 デリカ コーチ(1969~1975年)
・2代目 初代デリカ スターワゴン(1979~1986年)
・3代目 2代目デリカ スターワゴン(1986~1999年)
・4代目 デリカ スペースギア(1994~2007年)
・5代目 デリカ D:5(2007年~)
※デリカ(トラック)の誕生は1968年
こうしてみると、2世代のスターワゴンが20年の長きにわたって生産されたことがご理解いただけるだろう。モデル末期でもその存在感と需要は大きく、4代目スペースギアが発売されたあとも、しばらく併売されていたことも覚えておいてほしい。そして上記表のD:5が正しく5回目のフルモデルチェンジであることも読み取れるはずだ。 本記事中ではこのあと「デリカ」の名を省き、スターワゴンの話だけをしていくので、「初代」と「2代目」がいずれもスターワゴンのモデル違いを指していることに注意して読み進めてほしい。
1982年に4WDモデルを追加! お馴染みリフトアップスタイルで登場
さて、デリカに4WDが登場するのは1982年のこと。初代スターワゴンの発売後3年目にして初めてあのリフトアップスタイルが生まれたわけだが、これがモデル初期の2WD仕様とどのように違うのか、発売当時の写真で比べてみよう。 いかがだろうか? このときのマイナーチェンジによってヘッドライトが丸目から角目に変わってはいるものの、同じボディパネルでありながら、まったく別のクルマのように車高が変化していることがおわかりいただけるだろうか。まるで、1BOX車をリフトアップして大径タイヤを履かせた、ショーモデルのような迫力だ。
このあと、トヨタ・ライトエースやタウンエース、マツダ・ボンゴ、いすゞ・ファーゴなど、ミドルクラスの1BOX車にも相次いで4WDモデルが追加されていったが、このスターワゴンほどアグレッシブで腰高なスタイルを与えられたモデルは存在しない。それもそのはず、ライバル達は低いシルエットや安定性、日常の使いやすさを目指して「当たり前の車高に4WDを組み込む」ことを主眼に開発されていったのに対し、三菱だけが異なるアプローチで4WD化に取り組んだからだ。
ではいったい三菱は何を行ったのか? そしてなぜ他社のミドルクラス1BOXは同じようなスタイルにならなかったのか? その答えはシャーシにある。
ラダーフレームの採用に加えてフォルテの本格派4WDシステムを搭載
じつは初代スターワゴンの4WD仕様には、それまでの2WD仕様とはまったく異なるシャーシが与えられたのだ。いや、上っ面のボディだけを残し、ラダーフレームと駆動系、つまり四輪駆動システムのすべてをごっそり入れ替えて造ったと考えてほしい。 当時、乗用デリカはトラックとシャーシを併用する商用バンと共通のプラットフォームを持ち、当たり前のようにラダーフレームを採用していた。だがこれを4WD化するにあたり、ピックアップトラック「フォルテ4WD」の下まわりをそのまま移植する改修工事を受けたのだ。
もちろん車型が違うだけにそっくりそのまま移植できたわけではなかったが、ほとんど同じ構造に仕立てられた。
まずは下の写真を見てほしい。頑丈そうなラダーフレーム(銀色)に、縦置きエンジンから連なる前後4WDの駆動系(赤色)、前後に駆動力を分配するトランスファーとハイ/ロー2速の副変速機(黄色)、前後のサスペンション(青色)など、初代スターワゴンはほぼすべての構造を「フォルテ4WD」から受け継いでいる。
ライバルの1BOX勢とは異なるアプローチで本格派4WDモデルの地位を確立
ご存じのように本格4WD車の駆動系は頑丈で大きく、それを支えるフレームも太く厚く、必然的に車高は高くなる。最新鋭のランクル300がどんなに優れた設計思想を持っていたとしてもラダーフレームである限り、その乗降性や車室スペース、3列目シートの使い勝手が同クラスのモノコックSUVに歯が立たないことは火を見るより明らか。
だが、これら腹下に収まる重くて頑丈な構造物が、いかに本格4WD車の設計を難しくしているかおわかりいただけると思う。 筆者はもちろん、そんな不便を差し引いても本格4WD車が好きなのだが、初代スターワゴンのすごさは車室の容積や室内はそのままに、後付けのフレームと4WD機構を、すべて車高を上げることでインストールしてしまったところにある。これは、さすがに強引と言わざるを得ない。
ではほかのミドルクラス1BOXはどう対応したのか? この場合、ライバルとなるのはトヨタのライトエースやマスターエース、タウンエースのほか、マツダ・ボンゴ、いすゞ・ファーゴだったが、これらは低いシルエットによる安定性や使いやすさを優先し、4WD車をも「当たり前の車高」で製品化させるためにモノコックボディ採用した。
より正しく言えば「ビルトインモノコック」。サブフレーム付きのセミ・モノコックボディを使うことで頑丈さを担保させながら、より自然な車高と使い勝手を実現したのだ。 ところが、これが運命の分かれ道になるのだからクルマの歴史は面白い。高くなった車高を活かし、グリルガードの採用などマッチョなイメージに変身した初代スターワゴンの4WDモデルはオフロードを得意とし、それ以外の1BOX系4WDはある程度以上のオフロードには不向き、というレッテルを貼られていくことになるのだ。