全世界のSNSでハッシュタグ「#vanlife」が増殖中
日本でも「車中泊」がブームとして近年とくに盛り上がっているのは、SNSの影響が大きいだろう。合い言葉は「バンライフ(Van Life)」。この10年間で世界的に盛り上がっているムーブメントで、今やインスタグラムでハッシュタグ「#vanlife」を検索すれば1100万件以上がヒットする。
バンライフを簡単に説明すると、決まったところに住まず、クルマ1台で好きなときに好きなところへ移動しながら暮らす、ミニマムでノマドな生き方のこと。インターネットとスマートフォンの普及によって、大きなキャンピングトレーラーではなく、もっと小さな「バン」だけで生活も仕事も可能になったのが背景だ。
すべての始まりは2011年、アメリカでひとりの若者が仕事を辞めて旅に出たことだった。弱冠23歳のフォスター・ハンティントンが生み出した「バンライフ」という言葉が、世界を変えたのだ。
NYでラルフ・ローレン勤務のエリートがキャリアを捨てるまで
バンライフの始祖として世界的な有名人であるフォスター・ハンティントンは、1988年オレゴン州ポートランド生まれ。ニューヨークでラルフ・ローレンのコンセプト・デザイナーに就職して、一般的には順風満帆なキャリアを歩んでいた。
しかし東海岸のエリート層にお約束の、仕事中毒のようなライフスタイルに疑問を感じるようになる。あるインタビューでフォスターはこう語っている。
「週に70時間も働いていたんですよ。8時に出勤して19時に帰る、その繰り返し。30代までがむしゃらに稼いで、そのあとにつまらない人生を送ることに何の意味があるんだろうと思ったんです」
そんななか、彼は2010年に「The Burning House(燃えている家)」と題した写真ブログを始めた。家が火事になったら人は何を持ち出すのか? というテーマで撮影したものだ。この時期に「わび・さび」についての本を読んだりして、ミニマムな暮らしへの憧れをつのらせていたようだ。
そして、「The Burning House」のプロジェクトがまさかの大ヒット! 名門出版社の「ハーパーコリンズ」から出版のオファーがきて、年収以上という金額の前金を受け取ってしまう(本は2012年に刊行)。その瞬間に「もう仕事を辞めよう」と決めたのだった。
フォルクスワーゲン・ヴァナゴンに乗って放浪の旅へ
さて、仕事を辞めて次の写真プロジェクトに取りかかることにしたフォスターは、バンを買って旅をしながら多くの人たちを撮影したいと考えた。そこで「TheSamba.com」という古いフォルクスワーゲン専門のコミュニティサイトで売り物件の情報を小まめにチェックして、自身のイメージにマッチする1987年式のT3ヴァナゴン・シンクロ(4輪駆動)に巡りあった。
ヴァナゴンの売り手である前オーナーと電話で話がまとまると、すぐさま会社に辞表を出して、バカげた家賃のマンハッタンのアパートを引き払った。ダッフルバッグと登山用バックパックにすべての荷物をまとめ、飛行機でネバダ州リノに行ってVWヴァナゴンを受け取り、そのまま放浪の旅に出たのである。2011年、フォスターは23歳だった。