「バンライフ」という言葉は最初、自虐のつもりだった
ちょうど写真SNSのインスタグラムがスタートしたばかりの時期で、まだこのころはみんなラテの写真などを投稿していた。だが、フォスターはここに、自分のライフスタイルの写真をアップして発信していくことにしたのだ。
やがてそんな自分の車上生活をハッシュタグ「#vanlife」で表現するようになる。とはいえ当初のフォスターの意図としては、見栄えのしない=「バエない」写真という、なかば自虐のようなニュアンスだったという。
「“バンライフ”は、2Pac(ヒップホップ界のレジェンド)のユニット“サグ・ライフ”(Thug Life=チンピラ人生)をもじったもので、完全にジョークでしたね。だってトイレがないから水差しにオシッコするような“バンライフ”だったんですから」
あっという間に「バンライフ」が拡散してカリスマに
フォスターはアメリカ中をヴァナゴンで旅してキャンプやサーフィンを楽しみながら、魅力的なバンに出会うと写真を撮り、似たようなバンライフをしている人々と交流して、その様子を記録していった。
インスタグラム以外にも、自分のバンライフをつづったブログ「A Restless Transplant」や、バンライフな人々の交流サイト「van-life.net」を運営し、インターネットを通じてコミュニティが拡大していった。
もはや、冗談交じりのハッシュタグ「#vanlife」は、発明した本人の想像すらこえて流行し、ひとり歩きしはじめたのだ。
3年間で約20万kmを移動して数百台のバンを撮影し、ヴァナゴンでの旅を終えたフォスター。その後クラウドファンディングサービス「Kickstarter」を使って資金を集め、バンライフをテーマにした写真集「Home Is Where You Park It(クルマを停めているところが住み家)」を2014年に自費出版した。この本は飛ぶように売れて、バンライフのムーブメントに具体的な形を与えるとともに、彼を不動のカリスマへと押し上げた。
さらに2017年にバンライフの集大成といえる本「Van Life: Your Home on the Road(バンライフ:路上の住み家)」を出版している。日本のバンライフ愛好家たちの間でも持っている人が多いベストセラーだ。
今はツリーハウスで自然との共生を実践
バンライフの「教祖」のような存在になっているフォスター・ハンティントンだが、じつは本人にとってはもう、バンライフは過去のものだ。
ヴァナゴンでの3年にわたる旅を終えたあと、クルマはさまざまなタイプのキャンプ仕様を経て、今年に入ってからは1994年式トヨタ・ランドクルーザーにルーフテントを取り付けて乗っている。
そして2014年から、新たなプロジェクトに取りかかっている。生まれ故郷のポートランドの郊外の森に、仲間たちとツリーハウスをセルフビルドし、自給自足してシンプルに暮らすコミュニティをつくったのだ。文明社会に縛られない、自由でミニマムな生き方として、バンライフから自然に発展したスタイルというわけだ。
新たなライフスタイルと表現にチャレンジし続けているフォスター。現在は「Movie Mountain」という映画スタジオを設立して、ストップモーション・アニメの制作に熱中しているようだ。