チューニング好きなら一度は聞いたことのある名前
チューニングカーが好きな人やターボ車を所有している人なら、一度は『ブローオフバルブ』なる言葉を聞いたことがあるだろう。果たしてどんな役割を持つパーツなのか、構造や純正品と社外品の違いなどを解説したい。
ブローオフバルブってそもそも何?
ブローオフバルブとは?
ブローオフバルブとはタービンで過給し圧縮された空気を、圧力の許容範囲が超えたときに解放するためのパーツ。クルマ好きにとっては社外品のイメージが強いが、ターボ車であればほぼ純正で装着されている。まずはブローオフバルブの役割から説明していこう。ターボチャージャーとはエキゾーストマニホールドから排出したガスがタービンの羽根を回し、その力で吸気側にあるコンプレッサーを回転させて空気を強制的に圧縮する仕組み。
アクセルを踏んでいる限りタービンは過給圧を発生させるが、急にオフにしても慣性が働き回転はすぐには止まらない。ただしアクセルがオフなのでスロットルは閉じており、タービンで圧縮された空気は行き場を失ってしまうのだ。空気の流れが阻害されることでサージングと呼ばれる逆流が発生し、結果として再びアクセルを開けたときのレスポンス低下を招くことになる。
またサージングはタービンのコンプレッサーブレードに大きな負荷を与え、破損つまりタービンブローに直結しかねない非常に危険な現象。サージングを防ぐには余分な圧力を開放する必要があり、その役割を担っているのが『ブローオフバルブ』だ。
ブローオフバルブの構造
通常ブローオフバルブはスプリングによって弁が閉じており、過給圧が一定の値に達するとスプリングを抑える力を上まわって、弁が開くことで圧力を逃がしてサージングの発生を防ぐというワケ。以上のようにターボチャージャーを備えたエンジンの仕組みを理解すれば、ブローオフバルブはスポーツ走行に限らず絶対に必要なパーツといっていい。
なお近年のEGR(排気再循環)を採用したエンジンは別として、スロットルバルブが存在しない従来のディーゼルにブローオフバルブはない。ではエンジンのどこに装着されているのだろうか。スロットルが閉じてエンジンに送り込めない圧縮空気を開放するので、当然ながらブローオフバルブの位置はスロットルより手前になる。要するにインテークパイプと呼ばれる部分なので、機会があれば自分のクルマで確かめてみてはいかがだろうか。
ブローオフバルブは大きく分けて2種類
1:リサーキュレーションバルブ
上では『ブローオフバルブ』とまとめて説明したが、その種類はリサーキュレーションバルブと、大気開放式バルブのふたつに大別できる。リサーキュレーションは再循環という意味で、開放した空気をコンプレッサーの手前にある吸気管へ戻すタイプ。またの名をサクションリターンとも呼ばれており、自動車メーカーが純正で採用するのはコチラの方式だ。ブローオフバルブによって開放される空気には、エンジンの燃焼室で発生した有害な物質が含まれている。
通常それらは触媒で浄化したうえでマフラーから排出するが、ブローオフバルブの位置は触媒よりも手前。なので吸気管へリターンし大気汚染を防ぐのだ。
2:大気開放式バルブ
いっぽうの大気開放式バルブは名前から想像できるとおり、吸気管に戻さず空気中へ放出するタイプで、リリース式という名称が使われる場合もある。コチラは後述するチューニングにおける数々のメリットがあり、いわゆるアフターパーツとして販売されている製品は大気開放式がほとんど。
しかし純正でリサーキュレーションバルブが使われる理由は、有害ガスを放出しないためであったはずだ。この理屈でいえば大気開放式バルブは、車検をパスできなかったり違反になるのではないだろうか。次はそのあたりの事情を説明したい。
ブローオフバルブと車検
大気開放式では基本的に車検に通らない
クルマに乗っている以上は絶対に避けて通れない車検。とくにカスタムが好きな人にとって合法かどうかの線引きは、否が応でも意識せざるを得ない話題だろう。ではブローオフバルブは車検のときどう扱われるのか。
リサーキュレーションバルブは純正で採用されるだけあり、何ひとつ問題なく車検も取り締まりも心配ない。いっぽうで有害な物質を含んだガスを空気中へ放出する大気開放式バルブは、当然ながらそのままじゃ車検をクリアできず公道では違反になる。法令でいうと道路運送車両法の第41条12項「ばい煙、悪臭のあるガス、有毒なガス等の発散防止装置」に該当してしまう。ブーストを上げず街乗りがメインなら機能的には純正のブローオフバルブで十分だし、そもそも地球環境の保護が世界中で叫ばれるなか大気汚染に加担するのはいかがなものか。
車検を通すためのチェックポイント
チューニングパーツを開発するメーカーも当然ながらそこは考慮しており、有名どころのブローオフバルブはリサーキュレーション式の車種があったり、吸気管へ戻すためのアタッチメントが用意されている製品も少なくない。それらの対策がしてあれば社外品のブローオフバルブも車検は通せるし、環境に悪影響を与えているという心理的な『後ろめたさ』も感じずに済む。すでに使っている人は合法にするための手段があるか確認、購入を考えている人はリサーキュレーション式を選ぶのが無難だ。
なお昔から純正ブローオフバルブを改造し大気開放にするカスタムも知られているが、いくら本体が純正であろうと車検はアウトだしメリットは少ないので注意しよう。ブローオフバルブの大気開放はNG、ということを覚えておいてほしい。
社外品にはどんなメリットがあるの?
純正品にはないメリットとは
ブローオフバルブの仕組みやタイプ、車検の可否は知ってもらえたと思う。では最後に多くの人が気になるであろう、社外品のメリットについて説明しよう。
メリット1:ブースト圧を上げられる
純正と比べて最大のメリットは、高いブーストに対応できること。純正ブローオフバルブの設計は当然ながらエンジンがノーマルであることを前提としており、弁を開閉させるスプリングのレートもさほど高くない。対してチューニングカーに向けた社外品はスプリングが強化、すなわち高いブーストに対応できかつ安定するというワケだ。純正ブローオフバルブがどれくらいのブーストに耐えうるかは車種により異なるが、有名メーカーの製品であれば入念なテストを重ねて最適なレートに設定されているはず。
ほかにもブローオフバルブ自体の容量が少ないことや、バルブ径が小さいなどブーストを上げると純正では役不足となる部分も多くなる。ブーストアップするならその効果を最大限に引き出すため、社外のブローオフバルブに交換してもいいだろう。
メリット2:ノーマルにはない作動音がカッコいい
もうひとつのメリットは迫力ある大気開放のサウンドで、機能よりコチラを魅力と感じる人も多いに違いない。発端となったのは30年に迫る歴史を持つ、ブリッツの『スーパーサウンドブローオフバルブ』だ。以前から社外のブローオフバルブは存在していたが、この製品は機能だけじゃなく『音』を大々的にアピールした。
アクセルオフで発する「パシューン」という作動音は、チューニングカーらしい雰囲気が満点で大ヒット商品に。ブーストアップしているかしてないかに関わらず、多くのターボ車オーナーから熱狂的な支持を受けた。それまでは地味なイメージだったブローオフバルブを、一躍メジャーな存在に押し上げた功労者といって過言ではない。
メリット3:エンジンルームのドレスアップ効果
3つ目のメリットはエンジンルームのドレスアップ効果。多くのブローオフバルブはボンネットを開けたとき目に付きやすい場所にあり、それだけに各メーカーとも外観のカッコよさにも力を入れている。高級感あるアルミダイキャストのボディや腐食に強いアルマイトのコーティングなど、本来の目的であるブースト制御だけにとどまらない魅力を備えた製品も少なくない。
ほかにもアイドリング不調の防止やブーストの立ち上がり改善、純正より優れた耐久性などアフターパーツならではの利点は数多くある。ノーマルやブーストを上げない車両や街乗りならリサーキュレーション式、サーキットのようなクローズドコースに行ったら大気開放式にチェンジする、というのが多少の手間はあれどベストな使い方かもしれない。
まとめ
サウンドやビジュアルばかりが注目されるが、タービンを保護する重要な役割を担っているのがブローオフバルブ。純正品と社外品それぞれの特徴をシッカリ理解したうえで、ルールやモラルを守りつつカーライフに役立ててほしい。