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クルマのエンジン制御用のECUとは何? その役割とチューニングとの関係性とは

クルマはエンジン付きの電子機器

 運転支援システムや予防安全技術を装備する現在のクルマには、最新の旅客機に匹敵するくらいの数の電子機器が搭載され、それらを制御するECUも100の単位で積まれている。また、機器同士は車載ネットワークで通信しあっているなど、いまのクルマは人や荷物を載せて動くエンジン付きの電子機器とも思えるモノだ。

 そこで今回は今どきのクルマに使われているECUの種類からカスタマイズの世界に大きく関わるECUチューニングについて紹介していこう。

車載ECUとは?

 クルマに搭載されているECUはエレクトロニック・コントロール・ユニットの略語である。ECUといえばエンジン制御コンピュータを指していた時期もあったが、いまではエンジンのほか、ミッションやブレーキ、カメラやライトなどそれぞれでECUが使用されているので、ひと言で「ECU」と呼ぶのはややこしい面もある。

 そこで本稿ではエンジンを制御するECUを「エンジン制御用のECU」と表記する。運転支援システムなどを制御するECUは先進運転支援システム 「ADAS用ECU」と表記。なお、先進運転支援システム ADASに関しては後述する。

 ちなみにクルマ用の技術に関わる各種の評価などを行う自動車技術者協会(SAE)では、エンジン制御用のECUのことを「エンジンコントロールモジュール(ECM)」と、ほかのECUとは分けて呼んでいる。

 チューニングの世界では「イジる対象はエンジン制御用のECUのみ」なので、現在もECUといえばエンジン制御用のECUのことである。

ECUの歴史

 エンジン制御用ECUは排ガス規制への対応や運転性の向上を目的に生まれた電子制御ガソリン噴射技術を主体とするもので、市販車に本格採用されてからまだ30年未満と意外に歴史が浅いものである。

 ただ、その内容の進化は早く、処理能力の高速化や記憶媒体の大容量化などが進み、90年台後半には吸気排気の連続可変バルブタイミング機構や電子制御スロットルといった現在でも使用される技術に対応。同時にセンシング機器の高性能化や情報伝達のための車載ネットワークの高速化も進んだ。その結果、エンジンは従来の機械的な作りだけでは実現できない性能を引き出せるようになった。

 また、クルマが高性能化していくにつれミッションやブレーキ、電装など車体各部に制御用のECUが付きはじめた。そしてエンジン制御ECUを含めて各ECUは通信しあうことでさまざまな機能の協調制御を行っている。

ECUの役割

 エンジン制御用のECUの仕事は、おもに電子制御ガソリン噴射と点火時期制御を行うことだ。

 エンジンは燃焼室内で燃やした混合気の熱を動力に換える機械なので、効率よく熱を作り出すことが必要。そこでECUは吸い込んだ空気の量を吸入空気量センサーや圧力センサーから計算をして導き出し、その量に見合った燃料を噴射するようインジェクターに指示を出す。これをECUチューンの用語では燃調(燃料調量の略)という。

 同時にピストンの動き(位置)をカムやクランクの角度を、見るセンサーによって監視して最適な点火時期を選びだし、イグナイターに点火信号を送っている。これを点火時期という。

 燃調も点火時期もエンジン回転数や負荷の状態ごとに最適な値が変わるので、ECU内には燃調、点火ともエンジンの動作状況ごとに対応できるきめ細かい制御データ(マップとも言われる)が数パターン入っている。

 なお、今どきのクルマのエンジン制御において主要な構成部品をあげると、ECU、吸気センサー、空燃比センサー、O₂センサー、ノックセンサー、インジェクタードライバー、フューエルポンプコントローラー、アクセルセンサー、スロットルボディ、カムシャフト&クランクポジションセンサー、可変バルブタイミング制御ユニット、コンビネーションメーターといったあたりが代表的なものになる。

ECUチューニングとは 

 ECUチューニングとは、ECU内の記憶媒体に書き込まれているエンジン制御のデータの数値(データの範囲をマップと呼ぶ)をパワーやトルクの向上、レスポンスアップなどスポーティな特性へ変更していくことだ。ECUチューニングが本格的に始まったのは、日産のS13シルビアやR32スカイラインの時代。

 そして90年代のチューニング競争によりECUデータの解析や理解が進み、さらに従来のチューニング業界にはあまりいなかった「理系の人材や企業」の参入や、空燃比計やデータロガーなどのセッティングツールの充実という段階を経て急激に進化をした。

 現在は「書き込みツール」と呼ばれる機材を使用して、ECUごとに設定されてるコネクト部へ直接(通信ポート経由もある)書き込む方法が取られている。

ECUチューニングするとどうなる 

 ECUチューニングはイマドキのエンジンで重要視されている省燃費性、低排出ガス性能を重視した特性をスポーティな方向に味つけし直すものである。

 そのために行っているのが、エンジン特性に大きな影響がある可変バルブタイミングの動作を変えること。吸気と掃気の関係性を出力重視に変更するのだ。

 こうした機械的動作の変更に加えて、空燃比(燃調)や点火時期、さらにそのデータと連動する補正マップを変更することでエンジンの「いいところ」のポイントを変えていく。

 とはいえ過給器付きエンジンのように強制的に吸入空気量を増やせないNAエンジンでは、ECUチューニングをしてもターボエンジンほどの効果は出ない。

 では、やる価値がないかというとそんなことはない。86&BRZに搭載しているFA20のようにポテンシャルが高く、解析が進んでいるエンジンであれば、NAエンジンでも体感できる効果は得られる。さらに、効率のいいエキゾーストマニホールドやマフラーを装着してECUチューニングを合わせれば、20~30psアップという効果を得られるケースもある。

 対して現在のターボエンジンは、ブースト制御もECUで行っているのでECUチューニングでブーストアップを行うことが多い。ブーストが上がれば吸入する空気量が増えるので、ECUチューニングではそれに応じた空燃比と点火時期の設定を同時に行っている。ターボエンジンのECUチューニングではパワー、トルクとも大幅に向上するのだ。

 また、ECUには電子制御スロットルの動作を設定するマップもあるが、スロットルの開き方や閉じ方は、走行フィーリングへの影響だけでなく、排ガスのクリーン化などにも関わるものなのでノーマルではここも「抑え気味」の設定だ。そこでECUチューニングではスロットル制御マップも一緒に変更して、アクセルレスポンスもスポーティに仕上げるケースが多い。

ECUチューニングするメリット

 ECUチューニングはエンジンの効率を高めるもの。しかもノーマルエンジンの場合、効果が出るのはふだん街なかで使用する回転域が中心だ。この理由は前でも触れたがエンジン特性を決めているハード面に変更がないからだ。

 とはいえ街なかの常用域でトルクが増えれば、ちょっとした加速がスムースに感じられるので乗っていて「軽快さ」が味わえる。また、敏感な人ならスロットル特性の変更によるアクセルのツキのよさなども感じ取れるだろう。

 ターボ車の場合は燃調や点火時期、可変バルブタイミングの動作などの変更によって、ターボの立ち上がりを早めたり、高回転域でのブーストの落ち込み(街乗りにあわせているターボの容量不足によるものでこれは正常な状況)を多少抑えたりしている。そのため、「下から加速して上もそこそこ伸びる」というフィーリングが手に入るので、元からハイパワーなターボ車であれば「コワイ」と感じるくらいの非日常的な加速が味わえるようになるだろう。

ECUチューニング後の注意点

 ECUチューニングはエンジンの効率を高めるものだが、もともとの位置から「高める」ということはシンプルに言えば「無理をさせている」とも言える。

 そこでECUチューニングをした場合、レギュラーガソリン指定車であっても、チューニング後の給油ではノッキング対策として「ハイオク」を入れること。街乗りしかしないという場合でもこれは必須と思ってほしい。

 これについて「ノックセンサーや補正マップがあるから、ふだんはレギュラーでも大丈夫」という意見もあるが、例えば坂道を延々登るようなシーンなど、普段の走行とエンジンに掛かる負荷が大幅に違う場面に出くわしたときでも「大丈夫と言いきれる」データがあるのであれば「レギュラーガソリンでいい」と言えるが、それがないならハイオクにすべきである。

 また、ECU=コンピュータということで、いろいろ便利にやってくれそうなイメージを持たれることもあるが、書き込まれている数値以上の働きは「絶対にしない」。例えば吸気の効率が変わるようなパーツを「ECUチューニング後」に付けた場合は、ECUチューニングを施工したところに「そのまま乗っていても大丈夫か?」という確認をしたい。場合によってはリセッティングが必要になることもあるのだ。

 以前と比べてエンジン側の制御が高度になったり、ECUチューニング自体の完成度も高くなっているから、ECUチューニングが原因のトラブルは減っている。だが、やはりエンジンに掛かる負担が増したり、異常事態が起きたときの安全マージンが減った部分はあるので、普段のメンテナンスを含めて今まで以上にクルマに気を使うことがなにより大事だ。

ECU書き換えに掛かる費用

 ECUチューニングの値段を検索すると6万円くらいから見つかるが、ECUチューニングは「変更しているマップの数」によって価格が違ってくるので、安価なものはスピードやレブリミッターの変更や電動ファンの作動設定の変更だけということもある。

 でも、特性を変えたい、速くしたいという理由からECUチューニングをする場合は、変更すべきマップが増えるのでそのぶん費用は上がる。

 また、使用する機材、ECUの脱着工賃の有無など車種ごとで違うし、変更できるマップの数も車種ごとに違うので、費用は約8万円~19万円くらいと幅広いが、一般的な車種では約9~12万円が多いようだ。

 一般的に販売されているチューニングECUでは対応できないエンジンのチューニング内容の場合は、現車に対して各種計測器や計測機材を用いた「個別のセッティング」を行うこともある。そのときは別途、現車セッティング代という作業料が発生する。こちらの目安としては約5~10万円といったところだ。

 また、現車セッティングではないが、データ書き込み方法の都合上、ECUの通販では対応できないデータの書き換えというものもある。これをやる際にはECUチューニング代に別途料金が掛かることもある。

 このように変更内容によって費用は変わるため、ECUチューニングを販売する側は、対象のクルマの仕様や使い方を聞いてそれにあったメニューを勧めてくれるはず。もし、そういった説明がなかったとしたら「どんな仕様に対応しているか?」を質問したい。

そのほかの車載ECU 

 冒頭で触れたように運転支援システムや予防安全技術を採用しているクルマは電子装備の塊となっているので、車体の各所にそれぞれの動作を受け持つECUを搭載し、運転の自動化を実現しているのだ。

 ただ、自動化と言ってもドライバーがなにもしないでも目的地に着くというのはまた別のレベルの話で、現在ユーザーが体験できるのは駐車支援や高速道路での各種ハンズフリー走行、渋滞追尾などだ。とはいえこれらの機能が公道で使用できることはすごいことである。

 なお、こちらの制御に関わるECUにはデータ書き換えなどのECUチューニングは存在しないし、必要ではない。

先進運転支援システム ADASとは 

 後半はこうした先進運転支援システム用の車載ECUのことも紹介していこう。

 先進運転支援システムのことは「アドバンスト・ドライバー・アシスタンス・システム」と呼び、略称がADAS(エーダス)という。日本では内閣府が主導する「SPI(エスピーアイ)」という技術革新プログラム内では「SPI-ADAS」という名称の国家プロジェクトとして研究、開発が進められている。

 なお、衝突被害軽減ブレーキや誤発進抑制制御装置、車間距離制御装置などを装備したクルマは「先進安全自動車」という区分けになり、これを「ASV(エーエスブイ: Advanced Safety Vehicle)」と呼ぶ。

 さて、予防安全技術や運転支援システムに関わるECUだが、エンジン制御用のECUと区別するためここではADAS用ECUと呼んでみる。

 ADASの機能はクルマ各部に付けられた各種のセンシング機器の信号を各ADAS用ECUが処理。その結果を車載ネットワークで繋がるエンジンや電動パワーステアリングユニットなどのECUに指示を出しすことで、人の操作なしでクルマを制御するものだ。

 ここでセンシング機器やECUと同様に重要になるのが車載ネットワーク。伝達速度が速いだけでなく、数多いデータのなかから重要度が高いものを優先して流せるネットワークシステムが必要になる。

 現在では「CAN(コントローラー・エリア・ネットワーク。キャンと読む)」という通信システムを使うクルマが多い。クルマの高性能化につれてデータ伝達(速度だけでなく優先順位の選別など含む)もより高度なものが要求されてきたので、CANより高速で信頼性も優れる「Flex Ray(フレックスレイ)」という通信法も使われてきた。車載ネットワークの分野もどんどん進化していきそうだ。

ADAS用ECUを紹介 

 現在市販されているクルマに使われているADAS用ECUを紹介しよう。まずはフロントガラス中央上部に付けられているカメラだ。

 カメラは情報を画角という面で捉えらることができるのが特徴で、単眼とステレオのタイプがある。

 もちろんステレオのタイプのほうが性能は優れるが、画像データはそもそも容量が多いので画像を処理するには高性能なCPUなどが必要になるため、ある程度の車格以上でないと装備しにくい。そこで単眼カメラを使うクルマではソナーセンサーやミリ波レーダーといった別のセンシング機器を併用することで精度を高めている。

 新しいところでは「LiDAR(ライダー)」という逆光など光の条件が厳しいなかで優位性を発揮でき、センシングの精度もソナーやミリ波より高いデバイスがある。

 ただ、ほかのセンサーと比べて計測できる「幅」がまだ狭いので用途は限定されている。とはいえこの分野の進歩は早いので後に主流になるかもしれない。

まとめ 

 ECUやセンシング機器をたくさん積むASV(アドバンスド・セイフティ・ビークル/先進安全自動車)、それにHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)、BEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル)などは従来のクルマ好きからはちょっと敬遠されたりもする。だが、クルマとはその時代の技術の象徴であり、技術は進化する方向にしかいかないものなので、クルマ好きを自認するなら、以前のクルマもいいけど「新しいのもすごいね」というスタンスでいてほしい。

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