「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の名車に3輪車の計画があった?
SF映画の傑作「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で「タイムマシン」として登場した「デロリアンDMC-12」は、1981年から82年までのわずか2年弱、約9000台しか生産されなかったクルマ。ジウジアーロのデザインによる未来的なデザインは際立っていて、今なおファンが多い名車である。
今年の8月、イギリスの自動車イベントに「デロリアンDMC-21」と名づけられた3輪車が登場して、あまりに意表をついたスタイルが好事家の間で話題を呼んだ。
これだけなら「マニアのお遊びカスタム」で終わるところなのだが、作った本人が「デロリアン創業者の息子」を名乗り、これを販売すると言い出したことから、「本家」DMC社と裁判になろうとしている。当人は法廷で勝つつもりだ。
「リライアント・リアルト」をベースにガルウィング化
イギリスはイングランドの南西の端、コーンウォールに「タイラー・デロリアン」なる青年が住んでいる。本人いわく、デロリアン創業者のアメリカ人「ジョン・Z・デロリアン」が北アイルランドの工場に滞在していた1981年に、彼の母がジョンと関係を持ち、彼が生まれたのだそうだ。パスポートにも「タイラー・デロリアン」と記されているという。
そして「1981年のデロリアンの計画」に基づいて3輪車をつくることにしたとタイラーは言っているが、その証拠は公表していない……。
ともあれ、タイラー・デロリアンが「DMC-21」プロジェクトのベースにしたのは、イギリスの小さな自動車メーカー「リライアント」が製造していた前1輪・後2輪の3輪車「リアルト」だった。
かつてイギリスでは3輪車が税制で優遇されていて、多くの3輪車が作られていた。リライアント社は1973年に3輪車「ロビン」を発売し、モデルチェンジしながら2002年まで生産されたロングセラーとなった。
「リアルト」は「ロビン」の後継として1982年~1998年に生産されていた3輪車で、セダン、ステーションワゴン、バン、ハッチバック、ピックアップなど、多彩なボディバリエーションを誇っていたモデルなのである。
時速88マイルで発光する「次元転移装置」も搭載
この「デロリアン・ジュニア」は2年にわたって「リライアント・リアルト」を研究し、試作車を5台製作したそうだ。彼は地元メディアのインタビューにこう語っている。
「ガルウイングのドアを完成させるために4種類のヒンジを試作しています。もし1981年当時この“DMC-21”が計画通りに発売されていれば、デロリアンの工場はつぶれなかったでしょう。当時も何百万台も売れたはずですし、現代でもそれくらい売れると信じています」
完成した「DMC-21」のボディはアルミ製のピックアップ・スタイルで、ガルウイングはリモコンで開閉。パワートレインは3気筒の850ccエンジンを搭載していて、最高速度は100マイル(約160km/h)を達成したとタイラー・デロリアンは主張している。
シートの後ろには映画でおなじみ「次元転移装置(フラックス・キャパシター)」を搭載している。映画の「タイムマシン」にちなんで、「時速88マイル(約142km/h)になると何かが起こりますよ(笑)」とタイラーは笑って言っているが、このカタチの3輪車でそんなスピードを出したい人はいないはずだ……。
予約販売受付中! ただし本家DMCとの裁判に勝てれば
タイラー・デロリアンは渾身の3輪車「DMC-21」を販売すべく、自分のウェブサイトで予約を受け付けている。価格はおよそ300万円で全世界へ発送OK。EV仕様やハイブリッド仕様も用意しているという。
しかし事前にSNSで宣伝し、満を持して今年8月にイギリスのモーターショーに出展したタイラーのもとに、すぐに本家「デロリアン・モーター・カンパニー(DMC)」の弁護士がやってきた。
じつはDMC社は1982年に倒産したあと、しばらくしてからリバプール出身のメカニック、スティーブン・ウィンという人物がDMCの在庫と商標を買い取って、アメリカのテキサスに拠点を置いて活動している。ここが創業者ジョン・デロリアンの妻との裁判で2015年に和解して、正式な「DMC」社となっているのだ。
伝説の「DMC-12」を新たに復刻しようとしているDMC社が、3輪車の「DMC-21」などというビジネスを見逃してくれるわけもなく、商標権侵害と「パッシング・オフ(詐称通用)」でタイラー・デロリアンは訴えられることに。
裁判では、彼が「ジョン・デロリアンの息子」であるかどうかは争点にならないが、ともあれ本人は「商標権を勝ち取るつもりです。裁判のあとに、自分の出自を証明するためにDNA検査も受けるつもりです」と意気軒高だ。
もし、「DMC-21」を買いたいという奇特な方がおられたとしても、すべては裁判のあとになる。この騒動の行方を、気長に見守っていただきたい。