おなじみNATSの渾身ワンオフショーカー
1989年に開校して以来、自動車業界へ多くの人材を輩出してきたNATS(日本自動車大学校)。多くの人の印象に残っているのは何といっても東京オートサロンでの、生徒の手作りカスタマイズカーの披露だろう。出展し続けて四半世紀近く。2020年の同イベントに展示された1台を紹介していこう。
初出:XaCAR 86&BRZ MAGAZINE Vol.28(一部加筆)
学生がピュアに抱く「こんなクルマがあったらいいな」を現実に
十代の若者が放つクルマへの熱き思い。ときには前のめり過ぎて大人の目線から見ると幼稚に見えるコンセプトの車両もあったかもしれない。しかし、それは誰しもが通った道。冷やかすのは簡単だ。
荒削りで上等、会場でインパクトを与えるだけの車両なら、こんなにも継続して話題になることもないだろう。学生がピュアに抱く「こんなクルマがあったらいいな」という芯が根底にあるからこそ、来場者は感動するのだ。
この「NATS LS86」も、86ファンなら素通りできないだろう。4つのドアを開いた写真を見ただけでギョッとするが、見れば見るほど「これ、アリかも……」と思わせてしまう不思議な感じが漂う。そのコンセプトは真っ当で「5人で広々乗れるスポーツセダン」。 かつてはアルテッツァ、現在ならレクサスISといったところにミートさせている。しかし前後の外観はしっかりと86。そう、ファンにとっては代替えの別ブランドのセダンではなく「86のセダンが欲しい」のだ。その心を直球で打ち抜いたのが「NATS LS86」だった。 ベースとなったのは、トヨタカローラ千葉から提供されたカムリ。これを学生8名で86へとフェイスチェンジ。違和感ないレベルまでまとめ上げた。といっても作業をするのは、4月に入学するまでは板金作業のイロハも知らないまっさらな学生たち。この車両を製作しながら、FRPの成形、板金塗装、溶接など技術を学んでいったのだ。
企画書片手にスポンサー巡りも学生みずから行う
じつはオートサロン出展車両の製作がスタートするのは例年、7月ごろからとのこと。それまでには概要を固めておくのはもちろん、予算(1台およそ100万円)が足りなかったり、装着したいパーツがあるなら企画書片手にスポンサー巡りも学生みずから行う。社会に出てからも同様の事例は嫌と言うほど遭遇するだろうから、早めの実地研修というわけだ。 4月に入学し、まだアイスブレイクもままならないなかスタートするはずだった企画。しかしご存知のとおりコロナ禍で始業のスケジュールに大きな遅れが出たNATS。果たして無事、例年のように幕張メッセに作品を並べることができるのか。これは応援するしかないだろう。
家電や半導体など、かつて花形だった日本のプロダクトの衰退が叫ばれて久しい。NATSの学生さんの何者にも縛られない自由奔放な発想を見ていると、モノづくりの分野は、スピリット次第で形勢逆転できるのではないかとすら思う。自動車メーカーへも続々とNATS卒業生が送り込まれている。ぜひ柔軟な発想で未来を変えるエンジニアとして羽ばたいていってほしい。