日産ラシーン(1994~2000)
本格クロカン4WDが隆盛を極めていた時代に、まったく新しい都会的なライトカジュアルなSUVを提案。1980年代後半から1990年代前半に性能ではなく、デザインで時代を切り開いたパイクカーの最後を飾るラシーンもデビューが早すぎた1台だ。
デビューは1994年。ベースになったのは7代目のサニーの4WDで、製作は歴代パイクカーを製造してきた高田工業が請け負った。スクエアな5ドアハッチバックボディのフロント部にグリルガード、リヤ部に背面タイヤを組み込み、若干車高を上げることでSUV感を演出。クロスオーバーSUVの先駆けといえる要素が盛り込まれていた。
エンジンも発売当時は1.5L(105ps)のみだったが、車重に対して非力だったため、のちに1.8L(125ps)、2L(フォルザ/145ps)が追加されている。当時はヒットとは言えなかったが、デビュー当初はイメージキャラクターにドラえもんを起用して話題を呼び、生産終了後にもTVやドラマで活躍。最近ではアウトドアを軸とした女子高校生の日常を描くマンガ、アニメ、TVドラマの「ゆるキャン△」に登場したことで注目を集めるなど、生産中止から20年以上が経過した今もそのデザイン力は健在だ。
現在、コンパクトクラスのSUVが人気だが、残念ながら日産にはラインアップなし。日本でのサイズ感もよく、ほかにはないボクシーなオフ系デザインで人気の高いラシーン。アウトドアブームな今、デザインをしっかりと受け継いだ現代版はウケるのではないだろうか。
いすゞ・ビークロス(1997~1999)
2011年に登場すると高級スポーツSUVとして大ヒットし、ジャガー/レンジローバーの再起のきっかけとなったレンジローバー・イヴォーグ。そのイヴォーグよりも14年前に同様のコンセプトで1997年にデビューしたのがいすゞビークロスだ。
コンセプトカーは市販化の4年前となる1993年にお披露目。伸びやかで、丸みを帯びたスタイリッシュなデザインは、ゴツゴツのクロカンが主流だった時代に異彩に写った。市販車はビッグホーン・ショートボディがベースとなったが、コンセプトカーはジェミニの車体を使用し、乗り心地/高速安定性/悪路走破性を高次元で融合させることを目指したクロスオーバーSUVだった。
デザインを担当したのは、のちに日産のデザイン本部長に抜擢された中村史郎氏。いすゞのコンセプトは時代の先端を走っていたのだ。車体がクロカン用のラダーフレームとなったため、コンセプトカーが目指した洗練された乗り味とはいかなかった。だが、定評のある3.2Lエンジン(215ps)と最新の電子制御トルクスプリット4WDを組み合わせ、レカロシート&モモのステアリングを標準装備するなど、外装だけでなく、全体的にスポーティテイストに溢れていた(後方視界が悪いのでバックカメラを標準装備も画期的だった)。
スポーツSUVという新たなジャンルを打ち出したものの、上述したとおり、時代はクロカン全盛期。流麗なスタイリングのSUVは受け入れられず、意欲作であったが商売的には失敗してしまう。コンセプトカーとして5ドアバージョンも製作するものの、乗用車からの撤退の流れは止められず、市販化は幻に終わった。もし、ビークロスが当初の企画どおり、クロスオーバーSUVとしてデビューしていたら、ハリアーと双璧をなすヒット作になっていたかもしれない。