「ひとりでできる」ことの可能性を広げるコンセプトカー
11月10日~12日に東京で開催された「国際福祉機器展」において、ホンダの軽自動車「N-VAN」をベースにカスタムした福祉車両のコンセプトカーが出展された。車いすの人が単独で乗り降りして運転することができ、しかも車内で寝ることも可能とした、アイデアと工夫が詰めこまれたモデルだ。
キャンプや災害時の一時避難などにも活躍し、車いすでの活動範囲を大きく拡大してくれる可能性を示してくれているのである。
リモコン操作の電動昇降リフトを軽自動車用に開発
身体に障がいのある人のための自動車運転補助装置「フジコン」と、福祉車両を長年にわたり手がけている「フジオート」。同社が今回、新たに開発して出展したコンセプトカーが、「N-VAN車いす移動車」だ。
車いすの人がひとりで乗降から運転までを行い、生活の足にできるように、狭い道が多いエリアでも活躍できるコンパクトな軽バン「ホンダN-VAN」をベース車両としている。
今回のために特別に開発された小型リフトは、プラットフォームの有効幅622mmで全長は1000mmを確保。耐荷重も150kgあり、リモコン操作で昇降可能な電動リフトだ。参考までに、この小型リフトの搭載費用は改造費80万円~とのこと。
リヤゲートの乗降口の開口部は高さ1280mmあり、乗りこんだあとはベルトを使ってリヤゲートをクローズ。内側からゲートをオープンできるようにスイッチとレバーが追加されている。
車内のフロアはフラットで、車いすに乗ったまま運転席の近くまで移動、そのままシートに移乗して運転できる仕様になっている。シートのスライドやリクライニングは、助手席側からレバーで操作できる。
なお、この「N-VAN車いす移動車」は構造変更が必要な8ナンバーとなり、乗車定員は4名(運転席、助手席、右セカンドシート、車いす)。ただし実際に車いすの人が利用するときは3名となる。
足元のスペースが広いコラムタイプの手動運転装置を装備
両手だけでクルマを操作するための手動運転装置は、フジオートの得意とするところで多彩な製品をラインアップしている。今回のコンセプトカーでは助手席側から運転席に移動するアクセス性を考慮し、「コラムタイプ」の手動運転装置を取り付け、その下にはサイドブレーキのペダルを手で操作できるレバーも備えている。
このコラムタイプの手動運転装置は左手で操作して、前方に押すとブレーキ、手前に少し引き上げるように引くとアクセル、という仕組み。ステアリングホイールは旋回装置の助けを借りながら右手で操作することになるため、左手の手元にブレーキロック、ホーン、ウインカーのスイッチが用意されている。
「車中泊」も可能な「避難時仕様」なので活用法は幅広い
そして「N-VAN車いす移動車」の最大のトピックとなるのが、キャンピングカーをヒントにして「避難時仕様」としている点だ。
上記のように車いすの人が単独でクルマに乗り降りして移動が可能となるだけでなく、フロアを平らにしてマットを敷きやすくし、車内で寝ることもできるようになっているのである。さらに簡易なシンクを置いて、車内で手洗いなどもできるし、テントと簡易トイレも搭載している。
これは、災害などで一時的に家から避難するとき、体育館や公民館といった避難所の中では車いすの人にとって不便なことやプライバシーの確保など問題が多いという現状から、キャンピングカーをヒントにして生まれたアイデアだという。
車内で少しの間なら生活ができるようにすることで、車いすユーザーが「自分でできることは自分で」独立して行い、自身も周囲も、負荷を最小限に抑えてストレス少なく過ごすことができるというわけだ。
さらに、「車中泊」OKということは、家族や仲間とキャンプなどアウトドア遊びに出かけるのも、これまでよりずっと気軽になりそうだ。
テント泊には物理的なネックが多いものだが、この「N-VAN車いす移動車」なら現地に自分でドライブして行って、寝るときや着替えるときなど、生活活動の大半を車内で完結することができそうだ。
現在のところ「N-VAN車いす移動車」はコンセプトカーであって、小型電動リフト以外、パッケージとしての販売計画はないが、個別のカスタムは相談できるとのこと。反響が大きければ、将来的に市販を検討していきたいとのことだ。