サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

史上もっとも贅沢な「ロータリー」だった! 空前絶後の贅沢クーペ「ユーノスコスモ」

車両価格もセンスも大人のためのクーペだった

 今どきの感覚で言うと、スマホに入れた音楽をワイヤレスイヤフォンで気軽に楽しむというより、自宅の応接間(!)のソファに身体を沈め、ハイエンドのオーディオシステムでアナログレコードをレコードプレーヤーで味わう……そんな感じ、それほどの差と言えばよいか。ともかく、1990年4月に登場したユーノス・コスモは、今からほんの31年前のクルマだが、とにかく合理性や効率、環境性能ありきといった昨今のクルマと較べると、較べるべくもない豊かさに溢れていたクルマに思える。

ユーノスの専売車種だったコスモ

 コスモとしては、初代のコスモスポーツ(1967年)、2代目コスモAP(1975年)、ロータリーターボを登場させた3代目(1981年)の流れを受け継いだ4代目だった。とはいえ特別だったのは、このクルマが当時発足したばかりのマツダの新チャネルのひとつ、ユーノスの専売車種として設定されていた点。

 ご存知のとおりユーノスというと、初代NAロードスターはいうまでもなく、マツダの専売車種だけでなくシトロエンを扱うなど、ユニーク(でプレミアムな)ラインアップを揃える販売チャネルが打ち出しだった。そのフラッグシップとして設定されたのが、このユーノス・コスモなのだ。

ダイナミックでエレガントなスタイリングが印象的だった

 まず何といってもインパクトがあったのがスタイリング。ボディサイズは全長4815mm、全幅1795mm、全高1305mm、ホイールベース2750mmと、じつに堂々としたプロポーションをもっていた。それはイメージリーダーカーらしい流麗で美しいスタイルであることを狙いに、ダイナミックでエレガントな姿が求められた結果、ほかに似たクルマが思い浮かばないユニークで存在感のある形が生み出されたもの。

 ボディには国産車では初めて酸化チタニウム含有塗料(コバートグレー)を採用。酸化チタニウムの粉が光を透過しながら反射させる複雑な働きで、独特の深みや透明感を表現した。アルミホイール(タイプS用の16インチ)の粉体塗装処理などにもこだわりがみられた。

質感にこだわった内装も魅力的だった

 一方でインテリアも、エクステリアに負けず劣らない見せ場だった。2ドアクーペであり2+2のレイアウトとしながらも、乗員を包み込むような流れるようなデザインはそのままドアトリム、センターコンソールへと連続。

 仕様(タイプE)によりシート、内装にはオーストリア製天然牛皮が使用された。本革本来の風合いを活かすためにコーティングも可能な限り薄いものとされたほか、インパネガーニッシュには、フランス・リヨン産の楡材をイタリア・ミラノの工房で丹念に磨き上げたものを使用。

 メーターパネルは、イグニッションキーをオンにすると浮かび上がるようになっており、インパネ上には無用にスイッチ類を並べておかない配慮は、スッキリと上質なインテリアのムードを保っていた。

 さらにユーノス・コスモでは、当時としては世界初のGPSS、自動車用サテライト・ナビゲーションシステムを投入。これは自立推測航法と衛生航法の技術を組み合わせた複合ナビゲーションシステムで、高精度かつ実用性の高さが特徴だった。ルーフにはこのシステムのためのGPSSアンテナを備えていた。

2機種のロータリーエンジンが設定されていた

 一方でパワーユニットには、3ローターの20B-REW(280ps/41.0kg−m)と、2ローターの13B-REW(230ps/30.0kg−m)の2機種のロータリーエンジンが設定された。いずれも世界初だったシーケンシャルツインターボを作用することで、3ローターの20B-REWでは、わずか1500rpmで35.0kg−m、2000〜4000rpmで40.0kg−mを超えるビッグトルクを発生するなどし、ユーノス・コスモに余裕の走りをもたらした。

 サスペンションにフロントがダブルウイッシュボーン、リヤにはツインダンパー付きのマルチリンク式を採用。リヤサスペンションについては、すべてのコントロールリンク支持部に採用したピローボールおよびピローボール付ブッシュが、後輪のバンプ〜リバウンドに伴って生じがちな、角リンク支持部のネジレやコジレを解消(カタログより)することで、なめらかな乗り心地を実現していた。 

 ほかに操作時以外はセンターコンソールのリッドで隠せるオーディオシステム(チューナーデッキはNAロードスターと共通のようだったが、パネル面の最下段のボタンは上向きの専用になっていた)は、カセットモードからでもチューナーやCDの電源を入れれば自動的に切り替わった。アナログだが、今のタッチパネル式でしかも階層を追っていかないと求める機能になかなかたどり着けないような操作ロジックよりも、遥かに操作性がよかった……とつくづく思う。余談だが。

 今とはクルマに求められる(あるいは求めることが許される)要素がまったく違った時代。ユーノス・コスモは価格もセンスも大人のためのクーペだったが、それでもピュアに夢を求めて実現していた、そんな姿勢が目にまばゆいクルマだったように思う。 

モバイルバージョンを終了