ベレット・ジェミニから本命ジェミニへの経緯
1974年、いすゞ自動車から個性的な小型乗用車が発売された。車名はベレット・ジェミニ。1963年からいすゞの1.5〜1.6Lクラスを担ってきたベレットの後継車で、ベレット・ジェミニの車名は、その名残でもあり後継車であることを示すものだった。
大きな特徴は、ドイツ・オペル社のカデットをベースとするモデルだったこと。カデット自体もGMの世界戦略に基づく車両として企画されていたため、いすゞ・ジェミニ以外にもボクスホール(英)、シボレー(米他)のブランドで、それぞれ独自に製品化される足取りを見せたモデルだった。
ベレット・ジェミニは、1975年に車名からベレットが外され、いすゞ・ジェミニに名称を変更。ヨーロピアンナイズされたスマートなデザインを持ち、表立って爆発的な売れ行きを見せることはなかったが、隠れた名車としてクルマ通、自動車ファンから厚い支持を集めるモデルだった。搭載エンジンは、当初1.6L SOHCのみだったが、1977年から1.8L SOHCエンジンも加わり、優れた走行性能のモデルとして高い評価を得ていた。
スポーティ時代を席巻したジェミニZZのエンジン
このジェミニ・シリーズに、大きな変化が生じたのは1979年のマイナーチェンジ直後のことだった。特徴的だった逆スラントノーズのボディデザインをスラントノーズに変更し、新たな商品魅力を備えて市場にアピールしていた時期のことだったが、このタイミングで1.8L G181W型DOHCエンジン搭載の「ZZ(ダブルズィー)」シリーズを新たに追加した。
ちなみに、当時このクラスのスポーツモデルといえば、排ガス対策下でもDOHCエンジンを守り切ったトヨタのカローラ/スプリンター・シリーズにラインアップされた一連の1.6L 2T-G型エンジン搭載車(TE71系)。高性能モデルのファンに支持される傑作車として存在感を示していた。
全日本ラリー選手権でドライバーチャンピオンを生む
また、ZZ-Rはその優れた動力性能を武器に、当時、無改造規定(エンジンノーマル)とした全日本ラリー選手権に参入。TE71カローラ/スプリンター勢が王国を築く時代だったが、1980年シーズン途中から単独参戦を開始した金子繁夫のジェミニZZは、その圧倒的なスピードで驚異の5連勝を記録してシリーズチャンピオンを奪取。
なお、ZZ-Rシリーズには、生産車の状態でエンジン吸排気ポートの研磨やフライホイールの軽量化を施した(ともに全日本ラリー選手権では事後の改造禁止項目)、ファインチューンエンジン搭載のZZ-Rラリースペシャルを限定仕様車として販売。ランサーEXターボ(A175)が登場するまで、ラリーのベース車両として主役の座を務めていたのだ。