世界最大級のカスタムカーショー、すべてを見るには最低でも3日必要
今年も11月2日から、アメリカ・ラスベガスで「SEMAショー」が開催された。さっそく現地に乗り込み、事前に申し込んでおいたパスを受け取ろうにも、会場が巨大すぎて、なかなか受付に辿り着けない。
それもそのはずで、会場となる「ラスベガス・コンベンション・センター」は、新たに巨大な西館が完成したことで、その広さは460万平方フィート(約42.7万平米)に達した。ざっとではあるが、東京ドーム(建築面積)の約9個分、幕張メッセ(全敷地面積)の約2倍強という広さになったのだ。
必死の思いで受付を済ませて体勢を立て直す。まずはどんな展示があるのか確認しようと、会場全体を俯瞰するように歩き回ったのだが、それだけでもゆうに2万歩。距離にすると15kmを軽く超えた計算になる。出発前に現地をよく知る仲間から「丁寧に見るのなら3日は必要ですよ」と言われたのは本当だった。
6つのカテゴリーの共演は見ごたえたっぷり
世界の三大カスタムカーショーのひとつと言われる「SEMAショー」なので、カスタムカー中心の展示が多いのだろうと思っていた。だが、実際には新旧織り交ぜた展示となっており、アメリカのクルマ社会の多様性を反映している。
今回の「SEMAショー」は、大きく6つのジャンルに大別されるだろう。まずは、「SEMAショー」の本来の姿であろうアメリカン・マッスル系、次にいまだ人気の高いドリフト・チューニング系、そして世界的な流れでもあるEV系。ここは個人的に興味のあるクラッシック&リビルト系、さらには、アメリカン・ライフを象徴するSUV&アウトドア系と、カーケア&ツール系だ。
それでは個々の写真を観ながら、今年の「SEMA」のいくつかのハイライトを紹介しよう。
メーカーによるパーツ供給が盛んなアメリカン・マッスル系
ショーのメインストリームである、アメリカンV8エンジンを搭載するマッスルカー向けチューニング関連も、定番から新作まで幅広く紹介され、そのバリエーションも豊富だ。
とくに驚いたのはメーカー系の提案で、シボレーは、「The Big-Block is Back!」というキャッチフレーズのもと、クラシックV8関連の完全復刻&再発売を行うようだ。しかもこれらには、今の時代に欠かせない環境対策と高性能を両立させている。エンジンだけでなく、トランスミッション、足まわりなどもすべて「Performance Series」として、ふたたび販売するというのだから羨ましい。
さらに、傍らに展示されていた1988年製の「シボレー・カマロZZ632 HONIGAN CONCEPT」なるコンセプトカーには、「新開発」して来年から単体で供給スタートする同社製のV8「ZZ632/1000」エンジンを搭載。このV8エンジン、このご時世に排気量は驚きの10.35Lで、出力はなんと1004ps/1188N・m! というのだから開いた口が塞がらない。
このほかにもフォードでは、マスタングとギャラクシー500をメインに、ジープも同様にレストア&パフォーマンス・パーツなど、各社それぞれのヘリテージに対する敬愛とアピールに余念がなかった。いやはや、アメ車の未来は恐ろしいほど安泰だ。
「EV化」にもヘリテージを尊重するアメリカ流、旧車コンバートの提案も多彩
「SEMAショー」でもEV関連の出展が目立ったのは時代の流れか。もっともアメリカはEVに関してはパーツなどをはじめ先進国で、根底にあるDIY文化も奏功して、メーカー以外のチューナー系も魅力的なEVを提案をしていた。
フォードは、昨年発表した「マスタング・マッハE GTパフォーマンスエディション」のユニットを流用した1978年型のピックアップトラック「F-100」のEVコンバート仕様。さらに、来年発売予定のフルEV「F-150ライトニング」、そして、「シェルビー・マスタング・マッハE GTコンセプト」など多彩なEVラインアップを披露した。
ジープは未来のガソリン・スタンドならぬ給電スタンド(屋根にソーラーパネルが載っている)に、PHEVとフルEV仕様のジープを展示していた。
一方、チューナー系はふたつの方向性があって、ひとつは旧車のEVコンバート。もうひとつは、新しいEVメーカー&システム系の提案だ。
前者に該当する「ウェル・モーターワークス」の提案はユニークで、V8やV12など本来のエンジンに似せたケースのなかにEVユニットを収めようという、洒落の効いたドレスアップ型の提案をしていた。パッと見ではEVと気づかないその出来は見事だった。また、旧車をターゲットにしたEVコンバートの多くが、トランスミッションをそのまま活かしたファン・トゥ・ドライブ志向だったのは、クルマ好きにとっては歓迎すべき点ではないだろうか。
さらに後者の新しいEVメーカー&システム系もユニークで、フランスから出展していた「Ve Zero」社は、オープンホイール型のEVを提案。すでに自社のスイス工場で2万台以上を製造、世界中に販売しているという。
また、システム系では、「エレクトリックGT」社の格好いいデザインのEVユニットが目を引いた。題材にした空冷ポルシェへのオマージュだろうか、ユニットに「フラット6」エンジンのようなエアフィンをあしらうなど、EVでも遊び心を忘れてないよ、というメッセージだと受け取った。
そのほかのメーカーもEVコンバート用のベース・システムやチューニング・システムなど、汎用性の高い独自技術を披露。今後の楽しいEVの可能性をアピールしていたのが印象的だった。
クラシック、SUVなども積極的に展開
このほかにもクラシックカー関連のパーツ、チューニング、レストレーション系や、SUV関連、アウトドア関連、空冷フォルクスワーゲンに関するものなど、多くの展示で賑わっていた。いずれもアメリカンならではのカーライフ・スタイルをベースにした提案が多く、ことごとくアメリカの豊かさを感じるものであった。
とくにSUVに関しては、さすがトラックの国といってもいいような具体的な提案が多く、そのいずれもがサイズ感としては、もはや日本では3t車に匹敵するような大型SUVなのだから、実際のその迫力は半端ない。しかしながら、それが高価かというとそれほどでもないのだから、アメリカという国はそもそもカーファンも商売も、すべてその分母が違うことを目の当たりしたのでした。
アウトドア関連で、筆者が目を留めたのは、「ヒッチホテル」という折り畳み式のキャンピング・トレーラー。牽引時や収納時はコンパクトなサイズに収めることができるので、これなら日本の狭い自宅の駐車スペースにも置けるだろうし、はたまた狭い道での移動も面倒にならないはずだ。
いざ目的地に着いたらさっと引き延ばすだけで、ふたり、あるいは子ども連れの家族でも仲良く添い寝するには十分な空間が出現するのだから、これは便利だ。
最後に、今年の「SEMAショー」も盛大にとり行われた。事情通の話ではここ数年、いわゆる「SEMAらしい」クルマが減り、コロナ禍もあって中国・東南アジア系の来場者が減ったのだそうだ。
とはいえ、むしろ会場内は適度な混みぐあい(それでも結構な来場者数だったが)で見やすく、さらに、想像をはるかに超える会場の規模と出展数、展示内容に圧倒されっぱなしで、実態経済の活況を伴なった今のアメリカの勢いを感じたのだった。