コロナ禍が自動車文化にも変化をもたらしスポーツカー人気が再燃
コロナ禍において密を避ける移動手段として、自動車という存在がクローズアップされた2020年。なかでも単身で移動できる手段として選択する人が増えたのがスポーツカーでした。巣ごもりで浮いた遊興費などを、趣味としてのスポーツカーに注ぎ込む。そんなオーナーが増えてきたことにともない中古車相場もヒートアップしました。
第二世代GT-Rばかりじゃない! ネオクラスポーツモデルが軒並み高騰
現行型のスポーツカーの代表格といえば新型GR86&BRZですが、型落ちとなったトヨタ86&スバルBRZの中古車価格は、本来なら緩やかに下落していく中古車相場ですが高値安定が続いています。これに関しては識者の方々が様々な分析をしていますが、いまだ明確な理由はわかりません。
それに引っ張られるように、往年のスポーツカーの中古車相場も底上げされていきます。ダントツは北米での人気を背景とした第二世代スカイラインGT-Rがテッパンですが、80’sのネオクラ車全般についても、明らかな上昇傾向が見てとれます。
メディアなどでそんな話題が取り沙汰されると、それまでネオクラ車に興味のなかった層にまで響きました。なかでも80’sに青春時代を過ごした世代が敏感に反応しはじめました。
ネオクラ世代の個体が減少する中で信頼できるショップが貴重な存在に
「この機会を逃すと、もう二度と手に入らないかもしれない……」。あの頃の思い出をもう一度。かたわらにかつての愛車を置いておきたい甘酸っぱいムーブメントが巻き起こりました。そして少しずつ中古車が減っていき、それもまた相場に影響を及ぼすというサイクルが生まれています。
人気が高まったからといって市場に流通している絶対数は変わりませんから、価格が上昇するのは自明でした。
また、ネオクラ車を安心して楽しめる環境が整ってきたのも後押ししてくれる理由のひとつです。そもそも30年以上の時を経ている工業製品ですから、むしろ劣化していて当たり前と断言できます。そこをフォローしてくれるのがプロショップの存在です。当時の乗り味を忠実に再現し、たとえ壊れてもちゃんと面倒を見てくれる頼れる専門店。そんなお店があるかどうかはネオクラライフを送るうえでかなり重要です。
そんな80’sネオクラ車。人気上位を占めるのはご存知AE86レビン/トレノ、バラードスポーツCR-X、ランタボといった面々。80’sの現役時代から輝きを失わないこの3車を、令和の目線でチェックしてみましょう。
正式名より呼称が一人歩きするほど経年とともに人気が高まる「ハチロク」
1987年の生産終了から幾星霜。そんな35年以上という時間軸を忘れてしまうほどの現役感を放っているネオクラ車が、AE86カローラ・レビン/スプリンター・トレノです。
もはや、こうして正式の車名を記すほうが違和感あるくらい「ハチロク」の愛称が深く浸透している希有なスポーツモデルです。海の向こうでは「エイトシックス」と呼ばれ、全世界に熱狂的なファンが存在するのはご存知の通りです。
ちなみにグローバルで累計約31万5000台が生産され、日本仕様はそのうち約10万台といわれています。
しかしネオクラ車の傾向として、ハコスカやケンメリなど60-70’sのビンテージクラシックと違うところは、一度「底値」を経験していることです。入門スポーツというジャンルということもあって、思い切り酷使されたのちに、この世から消えてしまった物件はかなりにのぼるといわれています。
現在ほどしっかりと相場が形成されていれば棄てられることもなく再生されふたたび流通していたはずですが、峠ブームをはさんでいたこともあり二束三文で流通していた頃もありました。いま考えると夢のようですね。
クスコが3Dスキャンを駆使して「ハチロク」パーツを続々とリリース
そして現在の地位を支えているのがアフターメーカーの存在です。もう、AE86へ掛ける熱量はハンパないです。いまだにニューパーツが投入され、それがまた乗り続ける喜びを担保してくれています。
サスペンションや駆動系に関してのパーツの豊富さは言わずもがなです。4A-Gエンジン関連では、先日の2021 SEMA SHOWのCUSCOブースでお披露目された「TEC-ART’S AE86」のような美しき一体型サージタンクなど、3Dスキャン技術を駆使し最新の加工技術で続々とパーツがリリースされています。
オールドスタイルはもちろんUSなカスタムスタイルも一周回って再燃!
ボディ関連では、レストアパーツ.comから、フロントフェンダーやバンパーなど、純正同サイズのボディパネル各種が復刻されています。ネオクラ車に乗り続けるということは錆との戦いでもあるわけですから、こうしたパーツはとても心強いことです。
ソフト面では、近頃話題のブランド「シバタイヤ」のように、AE86の車重と走るスタイルに最適化されたコンパウンドとケース剛性のタイヤを作ることで、この時代にコースレコードを更新するという偉業を成し遂げているAE86もいます。
そして、最先端のカスタムとの相性がいいのがAE86です。エンジンルームを究極にすっきり魅せるワイヤータックやシェイプドベイといったUS由来のフィニッシュとも相当に良い相性を魅せています。
多様な補器類のない世代のシンプルなエンジンルームゆえ、作業もやりやすく完成した際の映え方も違います。もちろん、肉厚タイヤを履いた往年のオールドスタイルも、不動の美しさを放っています。軽自動車用の電動パワステ流用など、知恵と工夫の流用ワザも確立されています。
GRヘリテージパーツからハチロク用が復刻するも不安解消とはならず
そして2021年11月からは、TOYOTA GAZOO Racingの「GRヘリテージパーツプロジェクト」にAE86が新たに加わりました。トヨタ本体もいよいよ動き出したということで「今後はもう、パーツの心配をしなくていい」というムードが高まったかのようにも見えます。
ただしかし、現状ではまだ「あらゆるパーツが手に入る」環境ではありません。「AE86をこれからも美しく維持していくためには、もっと供給してほしいパーツがあるのです」とは、AE86専門ショップ「カーランド」(京都市)の得知雅人代表です。
現在でも、トヨタモビリティパーツ扱いのAE86純正パーツの製廃される傾向は変わらず、TRD製パーツですらどんどん絶版になっているというのです。
ハチロク人気を押し上げた劇中車両レプリカ熱が最高潮に熱い!
AE86人気を支えているのは、前述したチューニング&カスタム文化だけでなく、もうひとつの大きな潮流があります。それが「頭文字D」(イニシャルD)劇中に登場する車両のレプリカです。
カーランドは、主人公・藤原拓海の乗る3ドアトレノを忠実に再現することについては、究極の品質を提供するファクトリーです。拓海のマシンの仕様がステップアップする様を克明に再現し「まさに原作から飛び出したような」AE86を数多く繰り出しています。世界にもその名が轟いています。
2020年は、「頭文字D」連載開始から25周年でした。それを記念してさまざまなグッズが売り出されましたが瞬殺で完売。いまだ衰えぬ人気の高さを証明しています。
「拓海仕様のトレノに乗りたい」ニーズを満たし続けているカーランドですが、近年の相場高騰によりオーナーに渡る価格も上昇の一途です。「レンズ類や、内装のパネルも新品がもう手に入りません。お客さんの思いに応えていくためにも、このあたりのパーツの供給を強く強く切望します」(得知代表)
待つだけでは現状は変わらない、と得知代表はオリジナルでダッシュボードを含めた復刻版の内装パーツの製作にも取り掛かっているそうです。数度の念入りな試作を経て精度を上げ、誰もが納得できる最高の仕上がりの内装パーツがそろそろ世に送り出されるかもしれません。
フレームなどの基本構造は、先代のTE71に準じているのがAE86です。最新の強度解析・耐久性を考慮された素材を使った現代車とは比べるべくもありませんが、それが特有の味を醸していることもまた事実です。それだけに、パーツのことを心配せず乗り続けられる時代が来ること望んで止みません。
日本が誇るカルチャー「頭文字D」レプリカ車両の内装が欠品したままでは、世界のファンががっかりします。不当なプレミア価格で流通しているネットオークションを頼らざるを得ない現状を、ぜひ打開してほしいと思っているのがAE86のファンなのです。
令和になったいまも輝き続けるネオクラのエース「ハチロク」
ちなみにAE86トレノのCMキャラクターは古谷一行さん、レビンのCMキャラクターは郷ひろみさんでした。郷ひろみさんはセダンのCMソング「素敵にシンデレラ・コンプレックス」も歌っていました。これが自身47枚目のシングルでした。
それ以降「二億四千万の瞳」(1984年)や「言えないよ」(1994年)「GOLD FINGER’99」(1999年)といったキラ星のようなヒット曲を紡ぎ、2021年には何と106枚目のシングルをリリースしています
昭和~平成~令和と時代は移ろうともエンタメの第一線に活躍し続けているその姿は、まさにAE86とオーバーラップしますね。
「よろしくメカドッグ」で一世を風靡したバラードスポーツCR-X
同じく、コミック&アニメの中で存在感を放っていたネオクラ車がホンダCR-Xです。サブネームは「バラードスポーツ」略して「バラスポ」です。
登場していた作品は「よろしくメカドッグ」です。デビュー間もないバラスポが何と劇中ではミッドシップに改造されていました。しかしのちに、実際にミッドシップ化を手掛けるチューニングショップが登場しました。たんなるファンタジーだけでなくリアルにも影響を与えていたのです。
樹脂を多用し800kg前後というライト級の車重に加え、シリーズ途中で追加されたホンダとして14年ぶりのDOHCエンジンが話題となり、同極のシビックとともに一時代を築きました。シュッとした面構成と、一部グレードに採用されていたデジタルメーターの背伸び加減も、当時の空気を反映しています。
そんなバラスポを愛し抜く有名人、B.B伊藤嘉啓さんにお話を伺いました。
伊藤さんのバラスポの走行距離は2021年11月現在で、何と76万km。プロカメラマンという職業柄、全国各地へ移動するため距離はいまでもどんどん伸びています。それでもしっかりと完調を保っています。
伊藤さんは1.6LのDOHCエンジンを搭載するSiですが、燃費はふだん乗りで15~16km/Lで、エコランに気を遣えば20km/Lを記録することもしばしばだそうです。
しかしどうやら、安心して乗り続けられる状況ではないそうです。「純正パーツの供給は、ほぼ絶えています。エンジンをオーバーホールするためのパーツもほぼ皆無ですし、ドライブシャフトなど駆動系パーツもとっくに製廃になっています」(伊藤さん)
安全に止まるために欠かせないブレーキまわりは唯一、ローターが同径の社外品が存在するだけで、キャリパーやマスターは、適合する他車種用を探すしか道がないそうです。ドライブシャフトは、ブーツの供給すらないので、形状の似た他車種用を流用しています。北米では互換パーツがあるらしいですが、品質にバラつきがあり安易に手を出さないほうがいいそうです。このように、涙ぐましい努力が必要のようです。
外装パーツについては、純正から型取りしたFRP製の復刻パーツが、オーナー間で出回っているということです。経年でどうしても割れが発生するだけに、ここは重宝しているとのことです。
サスなどはO/Hでリフレッシュできるもパーツ供給に不安が募るホンダ車
足回りに関しては、純正形状ならKYBからリリースされているので救われる部分ではあります。好みの減衰でオーダーできるエナペタルやオーリンズもあり、こちらも装着オーナーは多いとのこと。伊藤さんの足はエナペタルで、もう4回もオーバーホールをしているそうです。
「もともとパーツ供給については不安のあったホンダですが、2019年あたりからのホンダ系サプライヤー再編がトドメになりましたね。ケーヒン、ショーワ、ニッシンのパーツについては、ほぼ復刻の可能性は絶たれたカタチです」(伊藤さん)
そして残念ながら、バラスポを含めた当時のホンダ車に精通したプロショップはめぼしいところが無いのが現状です。仲間同士の横のつながりと、創意工夫で乗り越えるしかなさそうです。
また、正式には後継をうたっていませんが、バラスポの幻影を色濃く残すCR-Zが世に出たのは2010年でした。往年のファンは色めき立ちましたが、ふた回りは大きいボディサイズ、ハイブリッド化などに起因する1100kgという車重は、ファンの心を射ることなく静かに生涯を終えました。リ・エンジニアリングの難しさもまた、体現したモデルがバラスポなのです。
登場時の衝撃はランエボ以上!? ラリーシーンで存在感を示した「ランタボ」
その響きも懐かしい「フルラインターボ」。かつて三菱が打ち出していた、すべての車種にターボエンジンを揃えていたマーケティング策です。軽自動車のミニカからフラッグシップスポーツのスタリオンまで、もれなくターボを搭載しアピールしていました。
その高性能を見せつける格好の場がラリーでした。そこで活躍したのがランサーEXです。実戦に投入されたのは欧州仕様の4G63型2Lターボエンジンでしたが、日本仕様はG62型1.8Lターボ。このため外観だけでも欧州仕様に近づけようと、レプリカバンパーへの換装も往時は流行しました。
ランサーEXターボ、略して「ランタボ」。この略した愛称は90年代の「ランサー・エボリューション=ランエボ」に受け継がれていきます。
「ランタボ」などネオクラ世代を悩ますのは機関系よりも「錆」がネックに!
ランタボも、根強いファンに支えられています。乗り続けるためにネックとなるのは機関系トラブルよりもボディの錆です。前期モデルではその発生箇所は多岐におよび、Aピラー、ルーフにはじまり、雨漏りによりフロアやトランク内のクサリなど、全方位にわたってチェックが必要になるといわれています。
1985~1986年あたりの最終型ではそのあたりを踏まえての防錆対策が施されたようですが、ただでさえ流通量が少ないランタボ。最終型に絞って探すのは至難の業でしょう。
専門ショップの代表に挙げられるのが「ECI-TURBOプロショップ シリウス」(埼玉県草加市)。ネオクラ車の鉄則として、頼れるショップと二人三脚はマストです。
いずれにせよ、40年近く前のクラシックカーを愛でるというのは、ある程度の覚悟とそれなりの財力が必要ということがわかります。ただ、リペアやレストアに関しての技術力は日進月歩です。SNS等でのパーツ供給に関しての情報共有もやりやすくなりました。旧いクルマを乗り続けることのできる環境は、昔よりも格段に整っています。
たとえば80年代に、50年代のクルマがこれほどまでに街を走っていたでしょうか。トラブルを抱えた車両は自然淘汰されて行き、現存する車両は一定以上の程度を保った車両、という見方もできます。ネオクラ車を愛で続けること。これぞSDGsといえるのではないでしょうか。そう考えると、つくづく自動車税・重量税の重課税が悔しく感じられますね。