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パラリンピック・ブラジル代表の愛車は「ビートル」! 手だけで3ペダルMTを操る「福祉旧車」ライフの衝撃

車いすユーザーもクラシックカーのドライブを楽しむ!

 この夏開催された「東京2020パラリンピック」に世界中から来日したパラアスリートたち。そのなかのひとり、アーチェリーのブラジル代表であるアンドレイ・デ カストロさんはクルマ好きで、1968年式「フォルクスワーゲン・ビートル」を愛車としている。

 下半身不随でも手だけでクルマを操作できる「運転補助装置」はさまざまな種類があるが、クラシックカー、それも3ペダルのMT車をどのようにドライブしているのか?

 アンドレイさんへのリモート・インタビューを通じて、地球の反対側・ブラジルの「福祉車両」事情をご紹介しよう。

19歳で下半身不随に。32歳で始めたアーチェリーで才能を開花

 アンドレイ・ムニス・デ カストロ(Andrey Muniz de Castro)さんは、1976年生まれで現在45歳。ブラジルの首都・ブラジリアの南西にあるゴイアニアという都市に住んでいる。

 彼は19歳のときに交通事故で下半身不随になった。人口が2億人にのぼるブラジルでは、手だけでクルマを運転できる「運転補助装置」を取りつけるカスタム業者も当時から存在していたため、「自操式」の「福祉車両」をずっと乗り継いできたという。

 アンドレイさんが32歳のときの2008年、オンラインRPGゲーム「リネージュII」にハマった勢いで「パラアーチェリー」を始めてみたところ、コーチに恵まれたことと、彼の天性の才能だろうか、同年のブラジル国内選手権で優勝してしまい、翌年にはブラジル代表チームに加えられたのだった。

 母国のリオデジャネイロで行われた、2016年のパラリンピックにはブラジル代表として出場。そして2021年夏、「東京2020パラリンピック」にも「アーチェリー男子個人コンパウンドオープン」の代表として参加した。

 あいにくコロナ禍での開催ということで、選手村と会場の外を出歩くことはできなかったものの、移動のバスの車内から東京の風景を楽しんだようだ。通りすがりの「フォルクスワーゲン・バス」を撮影してSNSにアップしたりしている。

 そう、アンドレイさんは大の「フォルクスワーゲン」好きでもあるのだ。

幼いころから好きだった「ビートル」に乗りたい!

 じつはフォルクスワーゲン・タイプ1、通称「ビートル」はドイツ本国だけでなく、メキシコやブラジル、オーストラリアなどいくつかの国でも製造されていた。「ビートル」を最後まで作っていたのはメキシコで2003年までであるが、ブラジルでも1996年までずっと生産し続けていて、ほとんど「国民車」のようになじみ深い存在なのだ。

 なおブラジルでは「ビートル」のことをポルトガル語で「フスカ(fusca)」と呼ぶ。これも「甲虫」のことで、日本で「カブトムシ」と呼ぶのと同じノリだ(以下、便宜上「ビートル」で統一)。

「小さいころからビートルが好きだったんですが、数年前から街のビートル乗りや派生車種など、クラシック・フォルクスワーゲンのオーナーたちと交流するようになって、自分でもビートルに乗りたい! と思いました。そこで障がい者のためのクルマの改造をしている友だちに相談したら、“ビートルでもできるよ”と言ってくれたので、さっそく物件を探し、この1968年式のホワイトのビートルを見つけたんです」とアンドレイさんは語る。

クラシックカーの雰囲気に合わせて旧式の運転補助装置をチョイス

 2017年に購入したビートルに取り付けられた運転補助装置は、アクセル、ブレーキ、クラッチの3系統をレバー1本で操作する仕組み。手元のグリップをバイクのようにひねることで加速し、レバーを前に押すとブレーキ、レバーを下げるとギヤボックスに直結したクラッチケーブルが作動する。

「この運転補助装置は“AFE Mutant”という古いモデルで、MT車用に作られています。ブラジルではAT車は高級車にしかなく高価なものでしたから、MT用の運転補助装置が普及しているんです。もっと現代的で自動化された運転補助装置もありますが、私は、古くて手動の、ビートルの時代と雰囲気にマッチしたこの運転補助装置を選びました」

 アンドレイさんは20年以上も運転補助装置つきのクルマに乗ってきたこともあり、このビートルの運転は数時間の練習で慣れてしまったという。

 なお、ブラジルではこの種の改造にあたって、交通当局と「インメトロ(INMETRO=改造車の安全性をチェックする機関)」の検査をパスする必要があるそうだ。

街のドライブからカスタムまでカーライフを満喫

「ビートルで街のなかや郊外をドライブするのが楽しいですし、フォルクスワーゲンのミーティングやイベントにも参加しています」というアンドレイさん。

 白いビートルは購入時から少しずつ手を加えて、内装をリフレッシュしシート生地も新調。車高もローダウンしている。それらのカスタムも、可能な作業はすべて自分で行っている。

 また、同じくフォルクスワーゲンながら新しい世代の「ジェッタ・ヴァリアント」も所有して、こちらは19インチのBBSホイールを履かせてエアサスを入れてと、より過激なカスタムを楽しんでいるのだった。

「パラアスリート」といっても体の物理的な条件が少し異なるだけで、基本は「普通」のクルマ好き。彼らがカーライフを楽しむことをサポートする技術や環境は、確実に進化してきている。

 夏のパラリンピックではお会いすることができず、今回はSNSのメッセンジャー経由でインタビューした次第だが、また全世界が自由に行き来できるようになり、アンドレイさんと直接お会いできる日を楽しみにしたい。

 なおアンドレイさんがビートルでドライブしている様子はYouTubeに動画がアップされているので、そちらで彼のスムースな動作をぜひご覧いただきたい。

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