初代「フィアット・パンダ」のポテンシャルを「ラリーレイド」で解放!
大自然の道なき道をひた走るモータースポーツ「ラリーレイド」というと「ダカールラリー」や「バハ1000」などが有名で、「パジェロ」に代表される本格的なオフロード車のイメージが強いだろう。
ところが40年以上も前に設計された初代「フィアット・パンダ」で、サハラ砂漠を1週間近く走り抜けるという、誰も考えてもムチャクチャなイベントがある。懲りずに(?)今年で12回目が開催された「パンダ・レイド」だ。スペインのパンダ愛好家たちが企画して、ジブラルタル海峡を渡ったモロッコをステージとしているのだ。
名匠ジウジアーロが生み出したコンパクトカーの傑作「パンダ」
イタリアのコンパクトカーの名作「ヌォーヴァ500」で知られるフィアットが、1970年代末、次世代の小型ベーシックカーとして企画したのが初代「パンダ」。イタルデザインの名匠ジョルジェット・ジウジアーロが設計したハッチバックカーで、1979年に発表、1980年から生産を開始した。
最小限のパーツで構成したシンプルきわまる構造でありながら実用性と機能性を両立し、コスパよし、デザインよしで大ヒット。細かな改良を加えながら、2003年まで生産されるロングセラーとなった。
フロントエンジン・フロント駆動のFF車が基本だったが、1983年には4輪駆動の「パンダ4×4」も追加。とはいえエンジンのパワーは、最初期型が650cc水平対向2気筒の30psと900cc直列4気筒45psで、以降、搭載エンジンはいろいろ変わるも、もっともハイパワーな仕様で1100cc直4「FIRE」エンジンの54ps。それでも車両重量が750kg~800kgと軽量なため、キビキビした走りを楽しめる。
また、スペインの自動車メーカー「セアト」は1980年までフィアットと提携していたため、現地で「セアト・パンダ」としてライセンス生産を開始した。その後セアトはフィアットとの縁が切れてフォルクスワーゲンと提携することになり、1986年からは「パンダ」ではなく「セアト・マルベーリャ」と名前を変え、フロントフェイスも少し変えて、1998年まで製造されていた。
こういった縁もあって、スペインでは「パンダ」のファンが多いというわけだ。
コロナ禍につき今年は南仏からフェリーでモロッコへ
スペインのパンダファンたちが2009年から開催している「パンダ・レイド」は、例年は春の開催である。まず最初にマドリードで集合してから陸路を南下し、フェリーでモロッコ北岸へ渡るのが通例だった。
しかし世界的なコロナ禍の影響で、2020年は中止となり、今年2021年は10月末の開催となった。さらにスペインとモロッコをつなぐフェリーはコロナ禍の関係で運航停止中のため、南フランスのセートの港からフェリーに乗って、モロッコ北岸「ナドール」まで渡る行程だ。
そのため、前回は400台近いパンダがエントリーしていたが、今年は約100台にとどまっている。といっても、このご時世でアツいパンダ馬鹿(誉め言葉)がよくぞここまで集まった、といえるだろう。
Wi-Fiなし、GPSなし! 1週間でモロッコ約1800kmを走る
エントリー可能なモデルは、「フィアット/セアト・パンダ」、「セアト・マルベーリャ」、それに4WDの「フィアット・パンダ4×4」で、2003年までの「初代パンダ」ファミリー。
欧州ではパンダの中古車は300ユーロ(3万8400円/11月28日のレートである1ユーロ128円で計算。以下同)から1300ユーロ(16万6400円)程度で買うことができ、「4×4」だけ少し高い。「パンダ・レイド」の競技レギュレーションはきわめて大らかで、FFでも4WDでもいいし、無改造のノーマル仕様でもOK。ホイールは13インチ限定だが、それ以外は、エンジンチューンしようがロールバーを付けようが、公道走行可能な「ストリート・リーガル」であれば、なんでも自由だ!
エントリーフィーは1チーム(1台)あたり2450ユーロ(31万3600円)で、雑費や付随費用を加えても3000ユーロ(38万4000円)程度で収まる。時間と気合いさえあれば、参加への敷居はかなり低いのだ。
スペインを中心に、フランス、イタリアなどヨーロッパ各地から集まった「パンダ・レイド」の参加者は、モロッコ北岸のナドールに上陸してから6泊7日の日程で、モロッコ東部、アルジェリアとの国境寄りのサハラ砂漠エリアを中心にして、総計およそ1800kmを走ることになる。
これでも今年はコロナ禍での短縮バージョンで、モロッコ中西部の「ワルザザート」がゴールとなっている。例年だとスペイン国内での移動と、さらにワルザザートからマラケシュまでもコースに含まれていて、総計3000kmに及ぶことになるのだから……。
「文明を離れて、シンプルなパンダでアドベンチャーを!」との趣旨により、GPSやWi-Fiは使わないで、「コマ図」と地図とコンパスだけを頼りに、ラリーは展開されていく。
ステージ0~2:湖から谷間を抜けてサハラ砂漠を南下
初日の「ステージ0」ではモロッコ北岸「ナドール」に朝に上陸してから、通関手続きと新型コロナウイルスの検査を終えて、街で最後のお買い物をすませたら80km南下。「モハメド5世湖」という人口湖のほとりで車検をして野営する。
なお「パンダ・レイド」の参加者たちのテントは、ワンタッチのポップアップ式。食事やトイレ、サービスカーは主催者側で用意しているので、寝床はササっと設営&撤収できればいいというわけだ。
ステージ1はいきなり414kmというロングステージで、そのうち半分は舗装路だが、岩場や砂丘も挟みつつ南下して「ブアルファ」郊外の野営地へ。ステージ後半では谷間を縫うような下り坂が続いていく。
続くステージ2では西の「メスキ」まで357kmの道のりで、石の粒の大きい道と砂地が連続するようになってきて、走行環境はいよいよ過酷さを増す。
ステージ3~4:砂漠でパンダとラクダが交流
ステージ3は距離こそ178kmのみだが、100%砂漠なのでテクニカルなコース。ドライバーのテクニックはもちろんだが、目標物がほとんどないため、コ・ドライバーのナビゲーションも大変だ。
サハラの砂丘は写真で見る分には美しいが、旧車のパンダにとっては言うまでもなく鬼門。スタックしたときは、通りすがりのほかのエントラントたちも手伝ってリカバリーする。
有名な観光地「メルズーガ」で1泊したのち、ステージ4は西へ向かって248km。ガレ場や砂漠が複合したコースだ。
途中、60kmほどただひたすら直進するエリアもあり気持ちよさそう。しかしその後にはまたシビアなコースが続き、とくに4WDではないFFパンダはスタックする車両が続出した。
ステージ5~6:砂まみれの果て、パンダたちが見たものは?
モロッコ南部の砂漠地帯を走り抜けるステージ5は318km。ひと口に「砂漠」といっても地形や路面状況はさまざまだが、このステージはすべてが複合したコースとなり、最後まで気を抜けない。
最終日のステージ6は184kmでそれほど長くはないものの、パンダに蓄積したダメージがピークに達しているため、最後はフラフラでゴールするクルマも少なくなかったという。
「ワルザザート」のゴール地点では、感きわまって号泣する人もいれば、抱き合うカップルもあり、ここでプロポーズしたエントラントもいたそうだ!
その日はディナーパーティーをし、翌日から「マラケシュ」に移動して帰国したわけだが、そこまでクルマで約200kmある。エントラントたちはもうひと冒険したはず……。
すでに2022年の「パンダ・レイド」は3月25日~4月2日で開催する旨がアナウンスされている。来春の時点でコロナ禍の情勢がどうなっているかまだ予測しにくいところだが、さらに再来年もおそらく開催されるはず。
日本から参加しようと思ったら、スペインかヨーロッパの知人に現地でパンダを調達してもらう手もあるが、事務局でも相談を受け付けているとのこと。「Panda Raid」の公式HPやFacebookをチェックしてみてほしい。
事務局のご厚意で写真を多く提供してもらったので、画像ギャラリーにて「パンダ・レイド」の雰囲気をじっくり味わっていただきたい。