良くも悪くもホンダファンを裏切った奇想天外の「2代目シティ」
「シティはニュースに溢れている」で話題を集めた初代ホンダ・シティは大成功を経て、1986年にフルモデルチェンジ。
というのも、初代シティは異例の背高コンパクトで、瞬く間に話題の中心となって大ヒット。途中にターボモデルの追加、個性的なペットネーム「ブルドック」もあって、モータースポーツのホンダと直結する個性派として、いまでも燦然と輝くモデルである。そしてトゥデイは、1985年に久しぶりにホンダが参入した軽自動車であり、当時のホンダらしく、走りよしのスポーティで愛らしいスタイリングも魅力の軽自動車であった。
環境性能を優先! ロースタンスに変貌してデビュー
初代シティと初代トゥデイをミックスしたような2代目シティは、モデルチェンジといえば「先代よりもココが良くなりました」「新型はこういう進化をしました」といった、当時は正常進化型のモデルチェンジが定番だった僕らに、驚きを持って受け取られた。
こういう大転換がホンダの魅力なのだが、とにかく衝撃は大きくて大変貌を遂げ、その実力は非常に高いものを持っていた。
当時のリリースを読み返すと、初代シティからよりパーソナルなコンパクトながら高品質が追及された結果、ボディサイズは全長3560mm×全幅1620mm×全高1335mm、ホイールベースが2400mmとなっている。初代シティが全長3380mm×全幅1570mm×全高1460mm、ホイールベース2220mmであったことを考えると、全長+180mm/全幅+50mm/全高−125mm/ホイールベース+180mmと、長さや幅、ホイールベースは拡大され、対して全高だけが低くなった。これは当時のホンダがヒットしたプレリュードやシビック、インテグラなどと同じ流儀で開発に至ったことが伺える。
つまりホンダの戦略はヒットモデルの定石を踏み、シティはそれに倣った形。普段は一人乗りのパーソナルカーだろうから背高で重いクルマは環境面で優しくないと、これからの時代のコンパクト車に求める性能を追求したのだ。
エンジン屋が作った革新技術を惜しみなく投入したエンジンを搭載
搭載されるエンジンは新開発の1カム16バルブ、直列4気筒のD12A型1.2L。ホンダ独自の1気筒あたり4バルブでペントルーフ型燃焼室を持つセンタープラグ方式は、DOHC並みの出力が得られるエンジンであった。そしてカムシャフトが1本少ない分だけ重量も部品も少なく、経済的というメリットも。
もちろんアルミ合金製のシリンダーブロックや高強度バルブスプリング、軽量高剛性ロッカーアームや細い軸のバルブ、クラスを超えたステンレスプレス溶接の排気マニホールド一体の直下型キャタライザーなどはコストこそかさむが、全車同一とする大量生産でコストを抑制。
空燃比の最適化を追求する、ホンダならではのPGM-CARB(電子制御キャブレター)を採用して出力と低燃費を確保。長年キャブレターを手掛けてきたホンダならではの頭脳の蓄積でコスト面をカバーしながら、最高出力76ps/6500rpm、最大トルク10.0kg-m/4000rpmのパフォーマンスを発揮させた。
またトランスミッションは5速MTに加えて、クラス初の新開発電子制御ロックアップ機構付き4速ATを採用。当時話題のフラッシュサーフェイスなどで徹底した空力性能の追及もあって、優れた走行性能と燃費を実現している。空力追求やボディ剛性のアップは室内騒音の低減をもたらしたうえ、後席乗員の快適性もしっかり確保されていた。
走りはもちろん内外装の居住性も上質さにこだわった
インテリアにはアームレスト一体型ドアライニングやピラーガーニッシュで上質感を高めたうえで、視認性に優れた大型2眼メーター、外径370mmという小径で衝撃吸収機能を備えた2本スポークステアリングの採用など、使い勝手と操作性をしっかり確保。グリップ径は縦が29mm横が25mmの小径太グリップとこだわったことで、スポーティに走りたいとき、後席に人を乗せているとき、さまざまな場面で多面的に運転者の操作に寄り添えるようになっているのが素晴らしい。
シートも初代シティよりも進化しており、表皮はグレードによりトリコットとファブリックを用意。新素材のポリエステル製布バネを使ったシートは、快適性と軽量化に貢献して縦が840mm、横が1245mmという広いフロントウインドウによる優れた視界もあってドライビングの快適性も確保されていた。
エントリーコンパクトカーでありながら、ベンチレーションシステムは、前方と側面の曇りを取ることを重視した空調システムであるマルチユースサイドベント付きを搭載。このサイドベントも備えて、サイドウインドウや後席にも風が循環できて、他社のエントリーカーのほとんどがビジネスユースとの両立を図るなか、ホンダのコンパクトカーは乗用車だという主張に溢れていた。
もっとも全仕様が鉄チンホイールだったり(ホイールキャップは最上級の「GG」のみ装着)、最廉価グレードである「BB」ではテールゲートオープナーや時計&ラジオ、昼夜切り替え式ルームミラーも備わらないため商用的ともいえた。だが、ドアポケットやシガーライター、電熱線入りリヤウインドウデフォッガーもないので、営業車として導入しても嫌がられたに違いない。
サスペンションは前輪がストラット式、リヤがトレーリングアーム+パナールロッド+トーショナルアクセルビームからなる3リンク式ながら、スタビライザーとホンダらしいプログレッシブ・コイル式スプリングの採用もあって、前輪にはアンチダイブ、後輪にはアンチリフトのジオメトリーを採用。
またホンダ独自のトリボード型等速ジョイント+一体中空ドライブシャフトを採用して、175/70R12タイヤ(オプションで175/6013も用意)と相まって、ひとり乗りでも、荷物満載でも扱いやすさに重点が置かれた開発がなされていた。
バブル期真っ只中にも関わらず環境&経済性にもこだわる
この2代目シティは、当時のコンパクトカー(エントリーカー)としては珍しく、高性能と人間の感性の領域を高次元で融合させる「ヒューマンフィッティングテクノロジー」を採用。これによりシート設計では着座フィーリングを向上させるほか、軽量化と快適な乗り心地を実現することで最適なドライビングポジションが取れるつくりとなっていた。
現在のような電子デバイスがない時代に、クルマからの情報を運転者に適切に伝えるような直感性や広い視界、低重心の優れたハンドリングがある種、安全性に寄与していたとも言える。
振り返ると初代シティから燃費への追及は行われていて、あらためて振り返るとハンドリングも魅力的かつ、エコロジー&エコノミーを念頭に開発されていた。
初代ほど話題にはならなかったかもしれないが、コマーシャルには都会派ロック・バンド(?)のトーキング・ヘッズの楽曲を用いている。登場するキャラクターは男性ふたりと女性ひとりで、「男女の区別なく、豊かな才能を感じさせる新しい世代の代表」をアピールするなど、若者世代に訴求していた。
クリオ店専売が販売につながらず!? 1993年に国内では絶版に
こうした意欲作であったが、初代はプリモ店とクリオ店での併売からクリオ店専売としたことと、あまりに初代との見た目の印象の違いが大きかったのか、バブル期の日本では初代ほどのヒットとはならず。
1988年10月にはマイナーチェンジが行われて1.3LのD13C型エンジンを搭載。電子制御燃料噴射のPGM-FI仕様が追加されるなど、商品力を向上した。1989年から1993年の間に6回の特別仕様車が設定されたが、大きなテコ入れとはならず。余談ながらモデル末期にはFitという意味深なグレードも登場したが、ホンダの公式によると1993年に販売を終了している。
面白いのは、2代目シティはモータースポーツの世界ではほかにいない、唯一無二であったことだ。とにかく軽量ボディにパワフルなエンジンで低重心。モータースポーツの世界ではありがたい性能が備わっており、販売終了後も長年にわたってミニサーキットやジムカーナで活躍を続けていた。また、2代目シティはライバル不在で、後継のロゴではなしえない走りが魅力。
本来であれば、ガラスルーフで重くなるサンルーフモデルは嫌われるはずなのに、シティのサンルーフ付きはAピラーに補強が入っていることからサンルーフ付きが逆に好まれた。モータースポーツでは現在でも2代目シティ愛好派は一定数存在する。
つまり新型コンパクトのロゴが誕生してもシティが愛好されたのだ。なんともホンダらしいモデルで、それが2代目シティの愛すべき特徴だったと言える。ちなみにシティの名称は現在もアジアの国々などでは使われており、現在もシティというホンダ車はアジア圏を中心にいまも販売され続けているのだ。
■ホンダ・シティGG(GA1)
〇全長×全幅×全高:3560mm×1620mm×1335mm
〇ホイールベース:2400mm
〇トレッド 前/後:1400mm/1410mm
〇車両重量:700kg(ATモデルは720kg)
〇乗車定員:5名
〇最小回転半径:4.6m
〇室内長×室内幅×室内高:1675mm×1315mm×1105mm
〇エンジン:D12A型SOHC直列4気筒16バルブ
〇総排気量:1237cc
〇最高出力:76ps/6500rpm
〇最大トルク:10.0kg-m/4000rpm
〇トランスミッション:5速MT
〇サスペンション 前/後:ストラット式/ 3リンク式(車軸式)
〇ブレーキ 前/後:ディスク/LTドラム
〇タイヤサイズ 前後:165/70SR12(前後175/60R13仕様もあり)