アペとともに育って15歳でレースデビュー
そんなアペ・レースの世界にどっぷりハマった若者が、1992年生まれのロリス・ロサーティさんだ。アドリア海沿いの街・ファーノで生まれ育ち、父がバイクレースを趣味としていたため、小さいころから週末は一緒にさまざまなレースを見ていたそうだ。
4歳で初めてポケットバイクを手に入れ、10歳ころから「モペッド」(ペダルつきバイク)を分解して組み立てるようになりったロリスさんは、11歳のときに「アペ」に出会う。
「2004年に祖父の家の近所で、壊れたアぺが捨てられていたのを持ち帰ったのが始まりでした。さらに、イタリア北部では1991年から改造アぺのレースが行われていたことを知ってビックリしたんです。次の年には私の家の近所でレースが行われたので両親に連れて行ってもらい、そこでアぺに対する情熱が爆発しました!」
田舎住まいなので毎日のように古いアぺで野原を走り回り、たまに捨てられていたアぺを見るとすべて家に持ち帰った結果、最終的に16台のアペを所有するほどになったロリスさん。
15歳のときに父と一緒にレース用のアペをつくって102ccクラスでレースにデビューし、その後140ccクラスに移ってアペ・レースを続けていった。
そして2010年の夏から、上位カテゴリーに進出するべくよりパワフルなマシンを製作することに。自宅の庭でおよそ3カ月かけてつくったマシンは、お気に入りの映画にちなんで「サエッタ」(イタリア語で“ライトニング”の意味)と名づけたのだった。
レースを4連覇してヨーロッパ中の有名人に
ちょうどこの時期、イタリアではアペのレースが盛り上がってきたことで、2012年に本格的な選手権「アペ・プロト・エボリューション選手権(Ape Proto Evolution Championship)」が設立され、もちろんロリスさんも参戦。
この年の経験から、駆動系を変更してさらに「サエッタ」号の信頼性を高めたロリスさんは、なんと2013年から2016年まで、4年連続でイタリア王者の座に輝いたのだ!
愛車サエッタ号のインパクトのあるルックスと、ロリスさんのドラテク、派手なパフォーマンスはファンを増やしていった。そんななかで知り合ったイタリアのラリードライバー、パオロ・ディアナ氏が、ロリスさんを海外イベントに連れて行ってくれた。
それがきっかけとなって、ギリシャ、ベルギー、オーストリアなどなど、ヨーロッパ各地のイベントに参加するようになり、またイベントから招待されもする、有名人になったのだった。
ホンダ製600ccエンジンを搭載してパワーアップ
「いまは年間20~30回、ヨーロッパ各地のイベントに行っていますが、ふだんは毎晩、仕事が終わってから2~3時間以上、アペの微調整をしています。大変ではありますけど、運転を楽しんで、人々にも楽しんでもらえればすべて報われますね」
そう語るロリスさん。愛車サエッタ号のエンジンは今では「ホンダCB600F(ホーネット600)」の直列4気筒600ccを積んでいて、最高出力は約100psに達している。ちなみに「ホーネット」は英語で「スズメバチ」の意味で、イタリア語の「ベスパ」と同じだ。
「4輪のクルマでラリーやサーキットのレースもしたいと思っていますが、アペをおろそかにすることはありません。いつか世界中を旅してアペ・レースというスポーツを知ってもらい、大人も子どもも熱狂させることができるようになりたいと思います」
ロリスさんのアペ「サエッタ」号の迫力ある走りは本人のYouTubeチャンネルで見ることができる。ぜひチャンネル登録しておこう。