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「乗る」というより「着る」感覚! 軽ミッドシップの大傑作「ビート」が今でも色褪せないワケ

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TEXT: 佐藤幹郎  PHOTO: ホンダ/Auto Messe web

ミッドシップらしいハンドリングを実現

 サスペンションは前輪がストラット式、リヤが新開発のデュアルリンク・ストラット式を採用。前輪はロアアームの剛性確保のために左右の取り付け点を結ぶロアアーム・ロッドを用いて高水準を確保。リヤもストラット式をベースとしながらもロアアームとラジアスアームを分離して、ロアアームの後ろの上部にコントロールアームを平行に設置。加減速やコーナーリングで後輪が常に安定方向の弱インになるようにこだわったことで、前輪が155/65R13、後輪が165/60R14という前後異径のタイヤと相まって。ミッドシップから想像される気難しさを排除。多くのユーザーが乗って楽しい、欲しい、という走りを実現した。ホンダ・ビートの透視図 ブレーキも軽自動車初となる四輪ディスクブレーキを採用。ホンダはビートを「決して背伸びはしません、豪華さも競いません。いわば気楽に永くつき合える、友達のような存在です」と紹介しているが、市街地でもスポーツ走行でも楽しめる一台だといえるだろう。

完全にスポーツカーだった乗り味

 当時ビートに試乗した際に思ったのは、これが「ミズスマシか!」という感嘆だった。それこそ教習所ではもっと大きなクルマばかりに乗り、マイカーも仕事に使うクルマも普通車がほとんどだったこともあり、軽自動車でこれほどピュアなスポーツカー(これはドライビングマシンでありシティコミューターであり、スポーツカーだ)には乗ったことがなかった。ホンダ・ビートの外観だがビートは軽自動車でありながら、いや軽自動車の小さくて軽量を最大限に活かして、まるでクルマ全体が自分の体の延長線上のような、ドライバーとしてクルマと一体感を感じさせてくれたことを記憶している。

 幸いなことに友人が所有していたことから何度も何度も運転席にも助手席にも乗った。運転席は特等席だが、助手席だって負けていない。風は巻き込む、だけどそれの何が困るのだろうか。これからドレスコードがある場に行くのであれば、他のオープンカーがある。ホンダ・ビートの外観 ビートのように巻き込むクルマで走るのは、目的地へと行く移動ではない。運転席も助手席もクルマで走るという他では得られない経験と時間が大事なのだ。ジャージ素材のシマウマ柄のヘッドレスト一体型のシートは難燃加工と撥水処理がなされており、ほどよいホールド性を確保。運転席は180mmのスライドと前5度、後10度のリクライニングが可能で、助手席側は130mmのスライドのみ。空間を含めてすべて運転席優先がビートなのだ。ホンダ・ビートのインテリア 走りの楽しさを支える一つのトランスミッションは、ショートストロークの5速MTを採用。フリクションの少ないワイヤーチェンジ式で、シフトストロークはNSX同様の40mmに設定。エンジンのフライホイールは軽量設計のうえに、実は1.6LのDOHC VTECと同じバランスウェイト付きダイヤフラム・スプリングをおごったことで、フィーリングと強度を確保。

 すでにAT限定免許こそないがすっかりATが全盛の時代であったが、ビートはMTの楽しさ、面白さを追求しており、かりに免許を取り立てのドライバーが初めての愛車として購入しても、街中を走るだけでも十分に楽しめただろう。

ビートは「着る」と言う表現がぴったり

 ミズスマシとはかつて自動車雑誌で用いられた誉め言葉で、おそらく意のままにステアリング操作に反応する小気味良いレスポンスを表しているのだと思うのだが、今以上に経験のない筆者はこんなにすいすいと動くのか、と感嘆したのだ。ホンダ・ビートの走り

 それまで自動車雑誌には、ミッドシップはスポーツカーの理想だが、限界を超えると危ないとか、物理法則的には正しいが、自然界には風や路面の状態、タイヤや気候も絡んでくるので、一部の選ばれた方が乗れるのがミッドシップという記載があったと思う。

 だがビートはエンジンの搭載位置がどこであろうと、エンジン性能やサスペンションの形式、そんなことは「そんなの関係ねぇ!」と言わんばかりの扱いやすさで、誰にでも楽しめる一台にまとめ上げられていた。ちょっとその気になって走っても安心安全のミッドシップだった。ホンダ・ビートの走り

 

 最後に付け加えると、ビートは周囲から見ても愛らしい、シンプル&スムーズなスタイリングと一人でも開閉できるソフトトップを持ち、手軽にオープンドライブが味わえる。運転席には軽初となるエアバッグの設定。インテリアも専用オーディオが必要となるセンターコンソールと運転席優先のスペースなために助手席が狭いことは狭いが、それをビートの味わいだ。

 インパネ上部と下部、ドアライニングなど上下で室内をツートーンで統一されたデザインは素晴らしいし、ゼブラ柄のあしらいも個性的で、バイクを意識して作られたメーター・パネルは視認性に優れてエアコンはオープンでも対応できるように大容量の性能を採用。

 とにもかくにも、屋根を開けなければ2人乗りの軽自動車であり、軽のスポーツカー。オープンで走ればオープンカー。そして一人で屋根を開けて走りを望めば、一級品のミッドシップ・スポーツ。相棒だ。

 わかる方にしかわからない。わかる方だけが満悦できる。エッジが効いた本質。ホンダの軽四輪車のビートは。あの時代のホンダの挑戦状だった。

 

■ホンダ・ビート(PP1)

全長×全幅×全高:3295×1395×1175mm

ホイールベース:2280mm

トレッド:前/後 1210mm/1210mm

車両重量:760kg

乗車定員:4名

室内寸法:長×幅×高=915×1215×1075mm

エンジン: E07A 直列3気筒SOHC

総排気量:656cc

最高出力:64ps/8100rpm

最大トルク:6.1kg-m/7000rpm

タイヤサイズ:前/後 155/65R13:165/60R14

ブレーキ:前/後 ディスク/ディスク

サスペンション:前/後 ストラット式/ストラット式

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