手だけで運転できる「ホンダ・テックマチックシステム」
一方、こちらは両足の不自由なユーザーが手だけでクルマを運転できる手動運転補助装置「ホンダ・テックマチックシステム」で、2020年2月に最新仕様が「フィット」のガソリン車とe:HEVの両方に設定された。
左手側の「コントロールグリップ」でアクセルとブレーキを操作する仕組みで、前方に押しこむとブレーキ、手前に引くとアクセル。走行中はステアリングを右手だけで操作することになるため、ステアリングホイールには「ハンドル旋回ノブ」が取り付けられる。
コントロールグリップにはウインカー、ハザードランプ、ランプ、ホーン、ブレーキロックといった各種スイッチも配置される。
テックマチックシステムはこのほかにも、右足の不自由な人のための「左足用アクセルペダル」、片手の不自由な人むけの「左手用ウインカーレバー」、さらに運転中にアクセルペダルやブレーキペダルを誤って踏むのを防止する「ペダル誤操作防止プレート」など、多彩な選択肢が用意されている。
選択肢の多彩な「介護車両」は「オレンジディーラー」がサポート
車いすユーザーや体の不自由な方、高齢者を快適に運ぶための介護車両についても、ホンダは軽自動車からミニバンまで幅広くラインナップしている。
軽の「N-BOX」車いす仕様は2018年の登場以降、車いす移動車としての販売台数1位を6回も獲得している売れ筋で、折り畳み式スロープと電動ウインチを装備。車いすを使わないときは大人4人が乗車可能なので、普段の暮らしでもなんら問題なく使用できる。
ミニバン「フリード」には、「助手席リフトアップシート車」を用意していて、リモコン操作で助手席が車外の低い位置まで下がり、そのまま搭乗位置まで移動可能。シート脇のスイッチで自ら操作することもできる。高齢者も身体に負担なく一緒に出かけられる装備だ。
これらの福祉車両は、ユーザーごとにニーズや条件が異なり、カタログだけで買うことは難しい。ホンダは福祉車両を見て試して相談できる「オレンジディーラー」を設定していて、福祉車両の展示・試乗車を配備していて「サービス介助士」が在籍しているディーラーが全国に約400拠点も展開しているという。福祉車両について相談したい人は、「オレンジディーラー」で検索してみるといいだろう。
「移動」に関わるあらゆる分野でバリアフリーを目指す
企画展ではこのほかにも、ホンダ、ホンダ太陽、八千代工業の3社で開発したフルカーボンの陸上競技用車いす「翔(KAKERU)」と、カーボンメインフレーム×アルミシートレームの「挑(IDOMI)」を展示。
1999年にホンダ太陽の社内で障がい者スポーツの公式クラブ「ホンダアスリートクラブ」が発足して以来、ホンダ本体とともに陸上競技用の車いすレーサーを開発し続けているのだ。
さらに現在進行形の新たな試みとして、ホンダの社内ベンチャー「株式会社Ashirase」が、視覚障がい者のための歩行ナビゲーションシステム「あしらせ」を開発していて、2022年の発売を目指している最中だ。
これは靴のなかに立体型の振動デバイスを入れてスマホのアプリと連動させ、あらかじめ移動ルートを設定しておくと、右左折地点ではそれぞれ片側の靴だけが振動。前進するときは両足の前側だけが振動し、止まるべきところでは全体が振動する、といったように、進行方向を直感的に理解できることで、より安全に歩くことができるようになるとの発想だ。
「すべての人に移動する喜びを」との社是にもとづいて、クルマやバイクに限らず、人間の移動にかんするあらゆるシーンを視野に入れて取り組んでいるホンダ。
一つひとつのマーケットは小さいかもしれないが、そこにいるユーザー一人ひとりをおろそかにしない姿勢にこそ、ホンダのプライドが感じられるのである。