軽キャブトラックをベースに“ぶっ飛び誕生”した新ジャンル
最近の軽乗用車はハイトワゴンが人気と見るや、各社が軒並みハイトワゴンを投入。それもスズキやダイハツ以外ではそのどちらかのOEMだから、すれ違うのは同じようなハイトワゴン、ということも珍しくありません。まぁそれは小型乗用車においても全世界のメーカーでSUVに力を入れているから似たようなものですが……。
それに比べると、かつて1960年代から70年代にかけての軽自動車はバラエティに富んでいました。以前に紹介したフェロー・バギィもその典型ですが、今回紹介するバモス・ホンダはもっと“ぶっ飛んで”いました。軽キャブトラックから発展したものでしたが、それまでの常識では例えようがないほどの新ジャンル。あえて言うなら早すぎたレクレーショナルビークル(RV)な1台でした。今回は、そんなバモスを振り返ります。
フロントウインドウとモノコックフレームだけのスケルトンボディ
1967年に発売が開始されたホンダのN360は、それまでの常識を覆す軽乗用車でした。とくにライバルが20ps前後だった最高出力が31psもあり、パフォーマンスでもライバルを一蹴していました。
そんなN360のパワーユニットを利用して、同年11月には軽のキャブトラック、TN360がデビューしています。N360は前輪駆動車でしたが、そのパワーユニットをボディ後方……正確に言うとリヤアクスルの直前にマウントしていましたから、言うなればミッドシップの後輪駆動でした。しかも、トランスミッションとデフがエンジンと一体式になっているために、リヤサスペンションはリーフスプリングで吊ったド・ディオン・アクスル式とされ、リーフリジッドのN360よりも高度なメカニズムで纏められていました。
そんなTN360の、タイミングを考えるなら70年の1月に登場したTNⅢ360の派生モデルとして、同年10月にデビューしたのが今回の主人公、バモスホンダです。
TNⅢ360からパワーユニットやサスペンションなどの主要コンポーネントを流用していましたが、ボディパネルは一新されています。具体的にはフロントウインドウを含めたフロントパネルと、平板なボディ(モノコックフレーム)で攻勢されたスケルトンボディがバモスホンダ最大の特徴でした。
なんでもこなすお助けのバモス
そのボディにシートをふたつ装着したバモス2と、4座のバモス4に加えて、ボディ後端まで幌でカバーするフルホロの3タイプがラインアップされていました。
ガードパイプが用意されていましたが何れもドアはなく、フロントセクションを除けば完全なオープンエア。どう形容すべきか迷うところですが、ホンダのリリースには『あらゆる用途に巾広く機動性を発揮する、画期的なくるま』であり、『乗る人のアイデアによって、用途の範囲が無限に拡がる車』だとされていました。
また『移動を ともなう屋外作業、配達など機動性をとくに必要とする仕事にピッタリ』として『警備用、建設現場用、工場内運搬用、電気工事用、農山林管理用、牧場用』などの用途を挙げていました。
RV(レクリエーショナル・ビークル:Recreational Vehicle)が人気を呼ぶようになるのは80年代になってから。その概念もなかった70年代では販売的に苦戦したのも理解できるところで、以前に紹介した同じホンダのライフ・ステップバンやダイハツのフェロー・バギィなどとともに、登場が早すぎた悲運のクルマだったのでしょう。
個人的には所有したことはないものの、フリーになったころのわが家の庭に、友人のバモスを預かっていたことがありました。その脇にはホンダのライフ4ドアとエスハチがあり、家内に言わせると「とても堅気の家(の駐車場)には見えない」風景が広がっていたことを、時折、懐かしく思い出したりしています。
ホンダの「昔の名前で出ています」パート3
バモスホンダは73年に生産終了となり、4年のモデルライフを終えることになりました。ですが、ベースとなったTNⅢ360は72年にマイナーチェンジでTN-Ⅴとなり、さらに75年にはTN-7に移行しています。
ここまで、N360用のN360Eから発展した空冷2気筒エンジンを搭載していましたが、77年には水冷エンジンにコンバートされ、新しい軽自動車規格に則ったホンダ・アクティへとバトンタッチしています。そのアクティの三代目は99年にデビューしていますが、5月に登場したセミキャブトラックから1カ月遅れでセミキャブバンの、乗用車モデルとしてバモスが登場することになりました。
アクティの初代と2代目にも乗用車モデルが存在していましたが、それらはストリートの車名でしたが、この三代目でバモスに名称が変更されたのです。
以前に紹介したライフもそうでしたが、このころのホンダはブランドをカムバックさせることが続き、まさに二代目バモスも“昔の名前で出ています、パート3”となりました。ちなみに、パート2は二代目バモスが登場する1年前にデビューした二代目Zでした。Zと言えば、個人的には初代Zに思い入れMAXなのですが、この二代目もミッドエンジンを搭載するなど興味深いモデルでした。2台はまた、別の機会に紹介することにしましょう。
N-VANやN-BOXへと変幻自在バモス・スピリットの帰結
それはさておき二代目バモスです。初代が“ぶっ飛んだ”コンセプトだったのに対して二代目は180度方向転換、コンサバなマイクロミニバンに変身していました。しかしそこは独創のホンダらしく、ライバルとは一線を画してハイルーフ仕様ではなく、ノーマルルーフで戦線参入しています。ただし、4年後にはハイルーフの派生モデルのバモスホビオを投入しています。
ラインアップは乗用モデル(5ナンバー)のターボとM、Lに加えて、商用モデル(4ナンバー)のProが登場したのも見逃せないエポックでした。
何度目かのRVブームの追い風を受けて健闘したバモス/バモスホビオでしたが、衝突安全基準が強化されたことで新登場のN-VANにバトンを渡し、18年に生産を終了しています。N-VANは全車が4ナンバーの設定で、5ナンバーの後継としてはN-BOXということになるのでしょうか。
ともかく二世代のバモスたちは、数奇な運命を辿ることになりました。