そもそもバケットシートって何? 装着する理由とは
スポーツドライビングを支える装備のひとつであり、その代表格といえるのがバケットシートだ。昔から数多くの製品が国産・輸入を問わず販売されているが、これから装着を考える人もすでに愛用している人も、あらためてバケットシートの種類や構造、メリットとデメリットなどを一緒に考えてみよう。
リクライニング機構の有無でフルバケとセミバケに分かれる
まずは「どんなシートがバケットなの?」という基本から。純正シートは車種による違いこそあれど、乗り降りしやすさやを重視し、ホールド性にこだわった形状とは言いがたい。街乗りならとくに不満を感じないかもしれないが、身体に大きなGがかかるサーキット走行では話が違う。
そこで必要となるのが太ももや肩に接する部分を大きくし、ドライバーを深く包み込むような形状のバケットシートだ。大きく分けてバケットシートにはふたつの種類がある。
ひとつは純正と同じリクライニング機構を備えつつ、ホールド性を高めたセミバケットシート。もうひとつはレーシングカーで使われるような、リクライニング機構を廃したフルバケットシートだ。
ホールド性には劣るが乗降のしやすさなど実用性があるセミバケ
まずは両者のメリットとデメリットを挙げていこう。セミバケットシートの最大の長所は、すでに説明したリクライニング機構を持っている点だ。街乗りでは少しリラックスしたポジションに変更したり、ドライバーの体格や好みで微調整できるのは非常にありがたい。
また2ドアもしくは3ドアの車両に装着したときは、純正シートのように背もたれを前倒しできるため、後席への乗り降りもストレスなく行える。デメリットは可動部があるゆえの重量増と剛性感の低さ。とはいってもそれらはフルバケットシートと比べての話で、対象が純正シートであればとくにデメリットとは言えないはず。
ガッチリ包み込んで強烈な横Gでも身体がブレないフルバケ
一方、フルバケットシートは何といっても、圧倒的なホールド性と剛性感が魅力だ。サイズさえ間違わなければ強いGがかかったときも、ステアリングにしがみ付く姿勢になったり、腰や太ももを抑えるため余計な力を入れることもなく、スムースかつ正確なドライビングが可能だ。
そしてフルバケットの素材はFRPやカーボンが多く、純正シートやセミバケットと比較しても非常に軽量なのだ。ただし角度の調整が一切できないことや、後席への乗り降りが面倒なマイナス面も忘れてはいけない。
ちなみにバケットシートはモータースポーツ用という印象が強いせいか、長時間の運転には向かないと誤解したままの人がいる。ところが実際は身体がズレにくく踏ん張る必要がないことや、背骨などの角度が矯正されて正しい運転姿勢を取れるため、逆に疲労の軽減に繋がるアイテムだと考えてもいい。
もうひとつのメリットはサーキット走行の必需品である、4点式シートベルトを確実に取り付けられること。バケットシートの背もたれにはほぼ間違いなく、4点式シートベルトを通すための穴が開いている。仮に凄まじいGを受けたとしても肩ベルトがずり落ちることはなく、ホールド性のさらなる向上に加え、クラッシュしたときの安全性も高まるのだ。
それが純正シートならどうなるか。確かに4点式シートベルトだけでも身体を押さえる効果はあるが、バケットシートには遠く及ばないうえベルトの固定にも不安が残る。4点式シートベルトの性能をフルに引き出すには、バケットシートとの併用が欠かせないだろう。
基本的に車検OKだけどフルバケは条件次第ではNGに……
最後は車検に関して。リクライニングするセミバケットなら話はカンタンで、保安基準に適合したシートとシートレールであり、そのふたつが同一メーカーであれば問題ない。ブリッドやレカロに代表される大手メーカーの製品で、大きなヘッドガードを持つサーキット専用品でない限りは、さほど心配する必要はないと思われる。
フルバケットシートもシートとレールが保安基準適合で、同じメーカー同士の組み合わせが前提なのは変わらず。注意したいのは後部座席があるクルマであれば、背面に緩衝材を装着しなければいけない点だ。要は事故を起こしたときの乗員保護が目的で、各メーカーから発売されている専用品や、荷物の梱包に使うエアクッションでも問題はない。
また、後部座席があるクルマにおけるもうひとつの注意点は、運転席か助手席の片方がリクライニングできること。左右どちらもバケットシートに交換するのであれば、運転席はフルバケで助手席はセミバケというのがベターだろう。