ミクロン単位で精度を向上したまさにスペシャルなエンジン
まずはR35 GT-R NISMO Special editionでコースイン。R35 NISMOでサーキットを走るのは’19年6月に十勝スピードウェイでMY20に乗って以来。先の軽量化と高精度バランス取りを施したエンジン以外はとくに仕様は変えていないとのことだったが、前にも増してボディが強靱になっていると感じた。長年作り続けていることで職人の技と経験値が上がり、自然と精度が高まっているという話も聞いていた。これらはカタログ上の数値には表れないモノだが、もしかしたらそういった「塵も積もれば」がまとまって押し寄せてくると、実際のドライブフィールとしても違いが体感できるのかもしれない。
Special editionの最大の注目ポイントと言えるのが、高精度バランス取りの専用エンジンである。もともとR35のVR38DETTは「匠」と呼ばれる専任の職人が一基ずつ手作業で組み上げているだけに、量産車としては異例とも言えるレベルでバランスが整っている。それをさらにミクロン単位で突き詰めていったというのだが、その違いが乗ってわかるレベルなのかどうか、じつは少し心配していた。
だが、慣熟後にアクセル全開加速を試みると、明らかにエンジンの回転感が軽く、タコメーターの針は淀みなく7000rpmまで弾けていく。しかも、エンジンのメカニカルノイズ自体が通常のVR38DETTよりも小さく感じる。気のせいかとも思ったが、後に乗ったT-specのエンジン音のほうが明らかに大きく、荒々しく吹き上がるようにすら感じた。
ターボ本体を含めて、NISMOは専用チューニングのエンジンを搭載しているだけにイコールでの比較にはならないかもしれないが、「クォーン」と粒の揃った快音を響かせながら加速するさまは、完成度の高いフルバランス取りのチューンドRB26DETTを彷彿とさせる。
コーナリングとブレーキングのパフォーマンスは、ナンバー付きのノーマルカーとは思えないほど限界点が高く、高剛性のレカロ製バケットシートのお陰で身体が完璧にホールドされるため、どんな状況でもドライビングに集中できる。GT-R NISMOの真のポテンシャルを味わうなら、やはりサーキットに限ると再認識した。
街乗りだけでなくサーキットも満足させるT-spec
一方、プレミアムT-specはNISMOに比べると、ロール/ピッチングともに大きめではあるものの、動きに軽快感があって思いのほか安心して走行することができた。サーキット走行を楽しみたいなら間違いなくNISMOのほうが満足度は高い。一方で、タイムアタックのような速さではなく、自分のペースで安全にR35の性能を引き出したいという向きにはT-specという選択肢もアリだと思う。制動力の高さのみならず、基準車のスチールローターよりも圧倒的に「持ちが良い」カーボンセラミックブレーキの美点は公道はもちろん、サーキットでも生きてくる。
「GT」と「R」を突き詰めながら、双方の良いところ取りをしながら進化してきたR35。街乗り=T-spec、サーキット=NISMO と限定する必要はない。機会があれば、R35 NISMO Special editionをツーリングに連れ出してみる必要もありそうだ。