伊藤かずえさんの愛車がレストア完了
雑誌やネット、さらには普段はクルマを取り上げないようなスポーツ新聞まで関心を示して大いに盛り上がったのが、女優・伊藤かずえさんのシーマだ。
ご存知の方も多いとと思うが、このシーマは1990年に新車で購入して以来乗り続けている、30年以上モノ。今まで、長年に亘ってブログをウォッチし続けてきたが、エンジンを積み替えたり、予備のパーツをストックするなど、“ただのクルマ好き感”が強烈に漂ってきて、好感を持っていた。そこに出てきたのが、日産(オーテックジャパン)によるレストアだ。
SNSを中心に「シーマのレストア、やっちゃえ日産」という声が高まったのを受けて、日産が検討を開始。社内の有志によってプロジェクトチームが結成され、実際にレストアすることが決定したというのが経緯で、実際の作業はオーテックジャパンが担当した。
ちなみにオーテックジャパンは日産記念庫(日産ヘリテージコレクション)のレストアも手がけていて、個人の車両は初めてとはいえ、ノウハウや技術、設備は当然のことながら心配ないだろう。
もちろん無事にレストアは完了してお披露目となったのだが、素晴らしい、とてもきれい、新車みたい! な感想はあふれているので、今回は置いておいて、日々、趣味として愛車のレストアに勤しむプライベーターの視点でその仕上がりについての感想を紹介しよう。
オーテックジャパン入魂のレストア
まず当然のことながら、真のフルレストアを見せつけられたというのは大きな衝撃だった。一般的にフルレストアは専門店レベルが行ったとしても、限界があることが多い。当然、ちゃんとやったのかという不信感もつきまとう。
工賃を考えれば当然で、今回のシーマは約8カ月かかっていて、6人のメンバーがサポートしつつ、作業自体はひとりが付きっきりで行ったとのこと。時間工賃を安く見積もって1万円として、1日8時間作業し、これを1カ月20日間稼働したとすると、160万円。さらに8カ月なので、1280万円にもなる。これに部品代や塗料などの材料代がプラスされるといくらになるやら。
お披露目会では具体的な費用についての明言は避けられたものの、新車当時の価格で1台は買えると言っていたが、実際はそんなレベルではないのは確実だろう。参考まで伊藤さんのシーマは最上級のタイプIIリミテッドで、当時の価格は510万円だ。1000万円オーバー、もし500万円だとしても、専門店でフルレストアでは、ここまでの費用がかけられるお客さんがいるわけもなく(いるかもしれないが)、妥協する部分がどうしても出てきてしまう。
微に入り細にわたる丁寧な作業
さらにパーツの調達もさすがメーカーで、他車流用の情報は自動車メーカーだけに得られやすいとしても、バックオーダーになっているものも上手に入手しているのはさすが。それゆえ、シーマ最大の関門であり、注目していたエアサスも新品になっている。
さらにシート生地は取引のあるメーカーが特別に作ってくれたもので、シートベルトも同様だ。
とくにシート地は直接目に入り、触れるところだけにでき上がりの最重要ポイントのひとつ。当時もののシート地が手に入ることはマレなだけに、この点はうらやましい限りではある。
シートベルトについては関係者もさすがに無理だろう、ということで諦めかけていたポイントとのこと。ただ、レストアラーのなかでは、ラベルが縫い付けられていることもあってシートベルトの質を重視する人は多いだけに、よかったと思った対応だった。
テストドライバーも走行チェック
また、念入りというか、さすがメーカーが手がけたと思わされたのは、走りについてオーテックのテストドライバーがチェックしたということ。なんとなく、「いいんじゃない?」レベルではなく、素人はわからない細かな振動やそれに伴う取り付けまで洗い出したという。たとえばプロペラシャフトの振動で、ダイナミックバランスを取っていないのかと思い質問すると「取ったうえでの話です」と返ってきたのは驚いた。
一般的にはダイナミックバランスを取ることも絶対ではないし、振動が出ていても「こんなものですよ」で終わってしまうこともあるだけに、さすがのひと言だ。
最後に気になったところはというと、仕上げのレベルの問題。聞けば内張りなどはあえて以前の名残りを残したとのこと。完全に仕上げないで、走りの傷的な部分はあえて残すのが、欧米も含めて現在のレストアのトレンドではある。その点、今回のレストアもわかっているな、と思ったが、実車を見てみると、かなりピカピカで名残り的なところは正直わからなかった。ただ伊藤かずえさんだけがわかればいい問題でもあるので、とやかくいうことではないし、少々気になったのはこの程度である。