「走り」志向のクルマでなくても楽しめるお手軽ラリー
ラリーというと砂漠を走る「ダカールラリー」や、パワフルなターボ四駆が爆走する「WRC」のようなガチの競技を思い浮かべるかもしれない。だがラリーとひと口に言っても、FIAやJAFが主催する本格的なものから、仲間うちで行う小規模な「草ラリー」まで、じつにさまざま。
近年は日本でも、クラシックカーの遊び方のひとつとして「ヒストリックカーラリー」が定着しつつあり、全国各地で多彩なラリーが開催されるようになってきた。今回、埼玉県の皆野町で「皆野サンデーラリー」が初めて開催されることとなり、わずかなラリー経験しかない記者も軽い気持ちで参加することに。ところがフタを開けてみれば、そうそうたる名車の数々が集結して戦々恐々……。それでも健気に走ったリポートを通じて、ローカルなラリーの楽しみ方をご紹介しよう。
1950年代~70年代までの名車36台で約3時間の戦い
埼玉県秩父郡皆野町で12月12日(日)に初開催された「皆野サンデーラリー」は、「コマ図」の指示に従って一般道路を制限速度内で走って、数カ所のチェックポイントを通過するタイムの正確さと、特定区間では指定速度をどれだけ守れるか、それにクイズの成績も加わる、レジャー要素の強いミニラリーだ。
今回エントリーしたクルマは1955年式モーガンから1974年式フォルクスワーゲン・ビートルまで36台。スタート地点の「ヘリテイジ美の山」に、朝7時前からエントリー車が続々と集まってくる。しかもこの日は「雲海」が秩父平野を広く覆い、晩秋の風情あふれる絶好の朝景色から始まったのだった。
記者(竹内)は愛車の1963年式フォルクスワーゲン・カルマンギアで参戦。もともとスポーツカーではないし、走り方向のチューンは一切していないノーマル仕様。普段はほかのクルマがほとんどいない早朝の箱根や伊豆スカイラインを流している、競技とは無縁のクルマである。
自身のラリー経験は、2年前に岩手県で開催された「ツール・ド・みちのく」に一度参加したことがあるのみ。そこでコ・ドライバー(ひと昔前はナビゲーターって言われていた)として、Auto Messe Web編集部の米澤氏を抜擢した。彼のヒストリックカーラリー参加歴はこれまで2回、記者より倍の経験を持っているので心強い(?)。
ルールをよく理解するのが勝利へのセオリー
皆野サンデーラリーは、スタートからゴールまで約3時間、約64kmの道のりで、コマ図では28番まで区切られている。さらにこの行程が5つのステージに分かれている。
【ステージ1】第1チェックポイント(以下CP)まで平均時速34.8km/hで走行。ただし第1CPがどこにあるかは秘密。
【ステージ2】第1CPから第2CPまでを80分で走行。
【ステージ3】第2CPから第3CP(道の駅みなの)まで25分で走行。道の駅で買い物をして、レシートに刻まれた時間が第3CPのゴール時間となる。
【ステージ4】コマ図の16番から17番の間を時速38km/hで走行。途中のどこかでスピードガンで速度を計測する。
【ステージ5】最終ゴールの皆野町役場にてスタンプをもらいクイズに答えよ。
といったルールで、決められた時間や速度に近ければ近いほど良いシステム。最後のクイズだけは出たとこ勝負となるが、それ以外は、コマ図と時計とトリップメーターを見ながら、なるべく規定どおりに走るようにペース配分するのが勝利のカギなのだ。
ところで、わがカルマンギアにはトリップメーターなんて気の利いた装備もないし、速度計はマイル表記で、内側に申し訳程度のkm表記もあるけれど視認性が低くてほぼアテにならない。なおかつアナログ時計は1日に5分遅れるスローライフ仕様で、つまり競技の役にはまったく立たない。
ラリー熟練者は競技用トリップメーターをクルマに装着したりしているが、わがチームはスマホにラリータイマーのアプリをインストールして代替することにした。GPSで速度や距離を測定してくれるので、ポンコツなメーターよりは精度が高い。
コマ図の指示地点ごとにトリップ1をリセットすれば、次の地点までの区間距離を目安に走れるわけだ。ただしトンネルなどでGPSの電波が途切れると誤差が大きくなるため、その都度、誤差を修正していくのがコ・ドライバ―の腕の見せどころ。
とはいえ今回はそこまで本気のラリーでもないので、神経質にならず、コマ図の指示を間違えてミスコースしないことを最優先に、あせらずのんびり行く方針だ。
数々の名車たちとともに自然と風土をゆっくり味わえる
朝8時からゼッケン順に「ヘリテイジ美の山」をスタート。各車、1分の間隔をあけるので、先頭車両と最後のクルマではスタートが30分以上も違うわけだ。われわれはゼッケン番号31だったので、スタート直後のクラシックカーの数々を趣味で撮影しまくった。その写真はギャラリーでご覧いただきたい。
やがてわがカルマンギアもスタート。秋から冬へと向かいつつある朝の秩父路は、気温も寒すぎず、旧車のエンジンにちょうどよく、格好のドライブ日和だ。スピードを競うラリーではないし、愛車のエンジン音が機嫌よさそうなペースで流していく。
信号などもあり、次第にいくつかのカタマリができていくのは公道ラリーのお約束。第1チェックポイントのあたりでそれは顕著になる。自分の前を行くクルマがいると、ルートを間違える心配が減って安心できるし、先導車は先導車で、間違えてはいけないプレッシャーを感じてしまったりする。集団で何台もまとめてミスコースしてしまうのも、公道ラリーのあるあるなのだ。
そんな心理的な駆け引きもありつつ、しかしさまざまなクラシックカーたちと連なって走るのは、やはり楽しい! たとえば「サンビーム・スティレット」(ヒルマン・インプのクーペ版)や、「トヨタ・パブリカ・コンバーチブル」、「ホンダ1300クーペGTL」、「ボルボP1800S」といった名車の数々が走っている姿を、挙動を含めて間近でじっくり見られるのだから最高だ。
ツーリングのイベントだとどうしても似たジャンルのクルマ同士になりがちだが、ヒストリックカーラリーなら、「動く自動車博物館」をその群れのなかで鑑賞できる。これも醍醐味のひとつだろう。コース沿いでは地元の人たちがラリーの列を見物しながら手を振ってくれる。こちらも手を振り返して交流する。
ゴール後はクルマと「秩父音頭」をのんびり鑑賞
コースを順調に進み、第3チェックポイント「道の駅みなの」では軽く休憩しながら、地酒「秩父錦」を一升瓶で購入してレシートに打刻。25分の指定のところ、24分だったのでまあまあ、悪くない。その先、スピードガンで「38km/h」に近いのか計測しているポイントでは40km/hだったので、これも上々と思うことにしよう。
ゴール地点の皆野町役場で提示されたクイズは、「コマ図の16の信号から18の信号までの数は幾つあったでしょうか?」という内容で、10秒制限! 覚えているわけもないと思ったが、コ・ドラの米澤氏は意外とちゃんと記憶していて、正解との誤差たった1。
戦績は、36台中19位と、悪くもないけれど、なんともコメントしづらい順位……。上位はヒストリックカーラリーの経験が豊富な方たちが多かったので、次回に参加する機会があれば、もう少し意識を高くもって向き合い、ベスト10を目指したいところだ。
皆野町役場の駐車場には、皆野サンデーラリーのクルマを見に来たギャラリーのクルマも続々。しかも希少な「シムカ1200S」が2台も来ていたり、こちらもまたディープな面々だ。エントリー車とともにちょっとしたクラシックカー・ミーティングの様相を呈し、旧車オーナーや地元の人たちとで賑わったのだった。
エントリー車が展示された駐車エリアは円形で、もともと、皆野町発祥の「秩父音頭」を踊るための場所なのだとか。エントラントがランチのお弁当を食べ終わったころに、地元の皆さんが演奏を披露してくれた。
日曜の朝に集まって、昼過ぎにさっと解散するスタイルのイベントは、帰りの渋滞を心配する必要もなく、とてもスマートな大人の遊びといえる。
さらに参加したオーナーたちは、皆野町の自然も人々も好きになって、また来たいと思って帰路につく。地域おこしの新たなあり方のひとつとして、こういったヒストリックカーラリーが今後も全国各地で盛り上がっていくと期待したい。
コ・ドライバー米澤のインプレッション
ヒストリックカーラリーに参加するのは、これが3回目。コ・ドライバーの役割は、コマ図と呼ばれるルートブックを見ながらドライバーにルート指示をしつつ、競技の時間管理をする重要なものです。例えば「1.5km先、信号右折。手前に看板あり。その先、道狭し!」なんてことを言いながら、ゴールを目指します。
初めて横に乗るカルマンギアに興奮を抑えきれず、ドライバーを務めた編集部・竹内に質問攻めをしていたら、うっかり……なんてこともありましたが(コ・ドラ失格)、なんとか乗り切ってフィニッシュ。
敷居が高いと思われがちのヒストリックカーラリーですが、機会があればぜひ参加してほしいイベントのひとつです。あっ、でも、あくまでも遊びなので、競技に勝つためにセカセカしたり、イライラしたりしないで景色を見ながら楽しんでくださいねっ。