車いすユーザーと介護者の双方に寄りそった介護車両
介護車両では、「N-BOX」を改装した「車いすスロープ」仕様と、「フリード」の「助手席リフトアップシート」を体験した。車いすを使用する状況の場合、車両への乗降が大変で、それを介護をする方の負担も大きいものと思う。
N-BOXの車いす仕様は車両の特性をよく活かしたもので、なおかつ外観からは、ほとんどノーマル車両と見分けがつかない。自家用車として保有する場合、「いかにも介護車両」と見えてしまうものを嫌う人も多いそうだ。
実際、リヤゲート形状もノーマルのままなので、ゲートを開かないと、そこにスロープが設置されているとはわからない。しかも、ふだんは後席まで含めて、日常用途にまったく影響を及ぼさない仕立てなのに驚かされた。
スロープは手動で引き出すが、軽量で作業はラク。車いすにウインチベルトを引っ掛けて、電動ウインチで車内へと引き上げるものだ。車いすに座った状態で車内に引き上げてもらい走行してもらったが、車いすの固定がしっかりできるようになっていることで揺れが少なく、3点式シートベルトが備わり安心できること、前方視界もよく景色がよく見られて疎外感もないなど、介護者と車いすユーザーの双方に身になって、よく考えられていると感じられた。
助手席リフトアップシートは、「フリード」のほか「ステップワゴン」にも設定されている。もともとホンダ車の多くは低床設計で乗降性には優れるが、障がいだけではなく体力低下などで、普通に車両へ乗りこむのが難しいということは珍しくない。ちなみに、筆者の母も晩年はそうだった。気分転換に出かけたがるのだが、クルマに乗るまでも降りるときも、当人も周りもなかなか大変だった。あのときにもこういう車両があれば随分と助かったと思う。
左フロントドアを完全に開けたうえで、シートに着座するための姿勢をつくるスペースも必要だが、電動でシートが外に出てきて低い位置で着座でき、また電動で室内へ引きこまれるものだ。ちなみに、助手席がドア側に回転するだけの助手席回転シート車もある。
「移動」にかかわるあらゆる分野でユーザーを支える
車両ではないが、スマートフォンからのアプリ情報をもとに、「靴のなか」の立体型モーションセンサーつき振動デバイスで右左折地点を知らせる、視覚障がい者向けのナビゲーションシステム「あしらせ」も興味深いものだった。
これはいわば、視覚障がい者の歩行移動ルートをアシストするナビだ。靴に振動を与えることで、交差点が近づいていること、そこを右折するのか、左折するのかを知らせてくれるというもの。想像の範疇でしか言えないが、視覚障がいがある方には、安心感が相当に増すのではないかと思う。ホンダの新事業創出プログラムによって生まれた「社内ベンチャー」第一号とのことだが、それが福祉にかかわるものであったところがまたホンダらしいと思う。
陸上競技用の車いすにも試乗させてもらった。まず驚くのが総重量が軽いこと。車体は当然カーボンが主体であるにしても、わずか7kg台だという。座って漕ぐには、とにかく前傾姿勢で荷重を前側にかけておかないとすぐ後ろにひっくり返る、と注意を受けながら、硬い身体でなんとか前傾に保ってみる。顔は完全に地面を向いているので前を見るのに必死。
インプレなどまったくおこがましいので、なんとか真っ直ぐ走らせました、という経験談に留めるが、要はこれが軽量化技術、車体剛性、走行抵抗の小ささ、漕ぐ力の解析など、先端技術の塊だということ。と同時に、これで微妙なコースどりをしながら最速で走らせるアスリートのスゴさを知った。
ホンダは、時に「こんなのとても儲かるまい」といったクルマを送り出してくることが度々あったが、同様に福祉に関連した商品も利益優先では生まれてこないだろう。いま変わろうとしているホンダだが、根幹にあるものは変わらないでいてほしい。そんなことも思わせる試乗体験だった。