RV帝国ホンダが送り出した変化球SUV
初代オデッセイ以降ヒットを連発していたホンダが、1998年に発売したJムーバー・シリーズ第二弾がHR-Vだ。ホンダはかつてスポーティ路線で人気を集めたが、バブル崩壊後はマルチに使えるRV&ミニバンが求められて販売が低迷。しかしこの「ムーバー・シリーズ」が大ヒットして(CR-V、ステップワゴンやライフ、キャパなど)完全に息を吹き返し、HR-Vもそれに続くヒットが求められていた。
HR-Vは全長3995×全幅1695×全高1590mm、ホイールベース2360mm、最低地上高190mmのシティRVで、当時流行りの丸形ヘッドライトの下部をバンパーに組み込ませた、2代目オデッセイのようなフロントマスクが特徴のモデル。
スタイリングには泥臭さは微塵も感じられず、最小回転半径は5.0mであり、取り回しに優れたコンパクトSUVと言えばわかってもらえるだろう。
パワートレインは得意のVTECも用意
エンジンは全車1.6Lの直4で、ともにSOHCのD16A型16バルブが最高出力105ps/6200rpm、最大トルク14.1kg-m/3400rpmを発揮。同じD16A型VTEC16バルブ仕様が125ps/6700rpm、14.7kg-m/4900rpmとなっており、もっとも車両重量が重たいモデルでも1200kg(4WDのサンルーフ付き)ということもあって、軽快な走りを楽しむことができた。発売当初はSOHCがFF&4WDと5速MT&CVTがあり、VTECは4WDのCVTのみ。
エンジンの特徴は出力だけでなく、環境性能にも優れていた。吸気マニホールドの形状を見直したことでエンジン始動直後から安定した燃焼でCOやHCの排出を低減。付着燃料補正空燃比制御をPGM-FIに行わせて綿密に空燃比をコントロールしている。表面積が広くとられた床下型600セル・キャタライザーに排ガスを導く排気マニホールドは、薄型でCO、HC、NOxを低減。10・15モード、11モードでも国内排ガス平均規制値の10分の1というレベルを達成し、LEV(ロー・エミッション・ヴィーグル)として優れた性能を誇った。
組み合わされるトランスミッションはオーソドックスな5速MTと無断変速CVTのHMM-S(ホンダ・マルチ・マチックS)を設定して、スポーティでスムースな走りを達成。
路面の勾配に対応して変速する、プロスマチック機能付きのCVTモデルにはスポーツモードをいち早く備えて、Dレンジを基準に街乗りスポーティの「S1」と山道スポーティの「S2」を用意。それぞれアクセル全開時やハーフスロットルでも、実際の車速が異なる綿密な制御で使い方に合わせてキャラクターを変えられる先進性を持たせていた。
ちなみに0~100km/hのモードでの違いは、Dレンジが12.7秒。S1が12.2秒、S2が11.7秒と異なり、ホンダらしい操る楽しさも追求したことがわかってもらえるだろう。
4WDはデュアルポンプ式を採用
サスペンションは前輪がストラット式、後輪が5リンク式(4WDはド・ディオン式)ながら、ピロボールジョイント付きスタビライザーや前輪にストレート・ビーム、後輪にパイプ・パナールロッドを加えることで、サスペンション自体の剛性を確保。当時このクラスとしては大きな195/70R15(オプションで205/60R16)を履きこなすサスペンションに仕上げられている。
4WDシステムはホンダ得意のデュアル・ポンプシステムで、通常はFFで走り、悪天候や雪道では4WDに切り替わる、前後ふたつのポンプの油圧差で多板クラッチを用いたシステムを採用。軽量低コストの4WDシステムで本格的な雪道は得意としないが、普段は雪道を走らない都市部のユーザーが、大雨や多少の降雪をスタッドレスタイヤで走るときに保険となる性能を確保していた。
それでいてFFとほぼ変わらない燃費を得られることから、現在の4WDではないSUVよりも実力は高かったかもしれない。当時はライト・クロカンなどといった呼び方が一般的だったと思うが、時代を先取りしたSUVと言えるだろう。
インテリアの使い勝手は現在でも通用する
インテリアは2トーンカラーのインパネとブルー基調のメーターパネルが特徴的だが、視認性や操作性は定番と言える造形で、少し高めの着座位置がもたらす広い視野を広いガラス面積でサポート。デザイン上の特徴となるリヤの三次元ガラスも視界確保に貢献して、扱いやすさに貢献した。
5:5分割可倒式リヤシートは、身長180cmの人でも頭が当たらい高さのリヤゲートもあって積みやすく、身長150cmの人でもゲートに手が届くようにインナーハンドルを採用。使い勝手のこだわったことがわかる。
ほか前席用と後席用のインテリアランプやコンソール・ランプ、上下のツイン・グローブボックス、コンソール・ポケットなど、当時としては充実した収納などを備えてSUVらしいマルチ性にこだわっていた。オプションでエアコン・フィルターも用意されており、全面高熱線吸収ガラスもあって、その装備は現在のモデルに引けを取らない。