大ヒット作「ホンダN360」の派生モデルとして誕生
ホンダが1967年に、同社初の量販車としてリリースした軽乗用車のN360は、大ヒットとなりスバル360に代わって軽マーケットの王座に就きました。
そしてその王座をさらに確実にするために、さまざまな派生モデルが登場してきました。1970年に発売された「Z」も、そんな派生モデルの1台。ただし派生モデルというには、余りにも大きな可能性と広い多様性を持ち合わせていた1台でした。今回は、そんなZを振り返ります。
軽自動車初のスペシャリティ「スポーツワゴン」
ホンダNシリーズは2輪車のエンジンに範をとった4サイクルの空冷2気筒ユニットで、それをフロントに横置き搭載して前輪を駆動するレイアウトを採用。ホンダZも、このNシリーズと同様のパッケージングを採用していました。
サスペンションもフロントがマクファーソンストラットの独立懸架、リヤはリーフリジッドで基本Nシリーズと共通でした。ですが、フロントがプレスのIアーム+テンションロッドだったNに対して、Zではテンションロッドに代えてスタビライザーが装着され、前後方向の位置決めに加えて、アンチロール剛性を高めることも受け持つ構成となっていました。
エンジンはNシリーズと共通でベーシック仕様のACTとPROには1キャブ/31psユニットが、ハイパフォーマンス仕様のGTとGSには2キャブ/36psユニットが搭載されていました。さらに最上級モデルのGSには、いずれも軽自動車で初となるマニュアルの5速ミッションと、サーボ付きのフロント・ディスクブレーキが奢られていました。
愛称「水中眼鏡」を生む外観
ホンダZとホンダNシリーズの最大の相違点はエクステリアデザインで、またそれがZの最大の特徴となっていました。ノーズを低めてヘッドライトの間にグリルを突き出すシルエットは、前年に登場した日産フェアレディZにも通じるところがありました。ですが、絶対的なサイズが小さく、とくに長さと幅で限られていましたから、カッコいいというよりも可愛い、という印象をより強く醸し出していました。
サイドビューではリヤウインドウを小さく、Cピラーを太くして力強いシルエットを生みだしており、ルーフエンドの処理も独特でした。ルーフの後端を少し反り返して引き上げると、後端で少し斜めにストンッと切り落とす、いわばコーダトロンカ的な処理となっていました。
リヤエンドにはハッチゲートを設けていましたが、そのデザイン処理が特徴的。周囲を黒い樹脂フレームで囲ったハッチゲートは“水中眼鏡”に似ていると多くのファンの間で評判になり、それがそのままホンダZの愛称となりました。
快活に何処へも巡ってゆく これぞスポーティ
インテリアもNシリーズから一転、ダッシュボードもスポーティな造形を採用。ドライバーの正面には大径の2眼メーターが置かれ、その左側には小径のメーターが縦置きでふたつ…もっとも下のメーターホールはグロメットで塞がれて、のちに水冷エンジンにコンバートされた際に水温計がマウントされていました。
兄貴分の1300クーペのそれにも似たオーバーヘッドコンソールも、まるで航空機のコクピットをイメージさせるところがありました。フロントシートはシートバックの両サイドが少しせり出したバケットシート“風”なものでスポーティさを演出。リヤシートは平板なデザインでしたが、シートバックの裏側左右にあった回転式のロックを外すと簡単に折りたたむことができ、広いラゲッジスペースが誕生する仕掛けがありました。これに加えてリヤのハッチゲートが有効で、大きめのスポーツバッグなども簡単に放り込むことができ、スポーツワゴン的な使い方ができたのです。
個人的には学生時代に手に入れた人生初の愛車で、180cm前後の友人3人と一緒に乗り込んで四国を縦横無尽に走り回り、またモータースポーツ専門誌の特約リポーターとしてレースやラリーの取材に行く際には、リヤシートを畳んでカメラバックや寝袋を積み込み、と八面六臂の活躍をしてくれたことを記憶しています。