モトコンポ・コンテナサイドカーを乗車型サイドカーにしてみた!
前回のリポートで完成して、難なく走行テストまで済んだモトコンポ・コンテナサイドカーですが、それでめでたく終わりということではありませんでした。
もう少しで完成というところで交わしたAuto Messe Web編集部加藤氏との電話。
阿「あとフレームを塗装すればついに完成ですよ」
加「いよいよですか!」
阿「結構かっこいいコンテナに仕上がって、荷物もいっぱい積めそうなんだ」
加「えっ、僕は乗れないんですか?」
阿「だって原付だからサイドカーでもふたり乗りはできないんだよね……」
と、ひととおり原付サイドカーと原付二種以上のサイドカーの違いなどを説明して会話は終了しましたが、確かにサイドカーといえば横にもうひとり乗って、会話しながらの楽しいツーリングを想像します。
でも50cc以下は、たとえサイドカーが付いていても搭載できるのは荷物のみで、せいぜいペットの犬やネコなら荷物扱いでOKといったところなのです。その電話のあとでコンテナサイドカーを仕上げながら、「乗車型のサイドカーも作ってみたいし、なんとかできないかなー」と頭のなかはバージョンアップのことでいっぱい。
「そうだ、サーキットならふたり乗りで走れるじゃないか!」という無理筋な結論に達するまでにあまり時間はかかりませんでした。しかも「モトコンポサイドカー・筑波アタックバージョン」という大それた計画も立ち上げました。パッセンジャーは自分と同じくらいの体格の加藤氏に決定。サイズ合わせなど、セッティングが自分基準で簡単にできますから。そうと決めたら即、工作開始といきましょう。
早速制作開始! イメージは「レーシングカート」
シャーシもサスペンションも完成しているので、乗車部分を作るだけです。
イメージとしてはレーシングカート的な地を這うような低さで、車体は体重移動ができるようにオープンタイプとすることに。ステップはバイクのタンデム用の折りたたみ式のものを取り付けました。
ハンドルもバイク用を短めにカット。シートもバイク用のシングルシートを利用してフレームにボルト留めにします。モトコンポのハンドルを収納したあとでフタの役目をするトップカバーの機能美が好きなので、デザインの決め手としてカウルの正面にキーロックでセットすることにして、はめ込むためのフレームを塩ビパイプとFRPで作ります。
塗装後にアクセントの小さなスクリーンをセットしたら、ちょっといい感じになってきました。
サイドカーの必需装備、ステアリングダンパーをどこに付けるか悩みましたが、トップカウルの内部に収めることにします。ハンドルを収納してもジャマにならず、ハンドルの動きを細かく制御できるいい位置が見つかりました。トップブリッジ側には特殊な形のボルトを作って固定しています。
サイドカー側のブレーキは本体側のリヤブレーキと連動させます。リヤのブレーキワイヤーにフックを付けてサイド用ブレーキワイヤーを連結して、ワイヤー後端をサイドブレーキまで延長。サイドのブレーキパネルにはスイングアームに噛み合うようにストッパーを加工しました。左ブレーキレバー1本でリヤタイヤとサイドタイヤのブレーキが同時に利きます。もちろんパーキングブレーキも両輪に掛かるので坂道駐車も安全です。
リヤウイングは便座カバーを流用? エアロパーツ制作
このころから加藤パッセンジャーから細かな注文が届くようになりました。「フロントカウルは外見も大事だけど、ダウンフォースを効かせるようにしてね」などなど。パッセンジャーあってのレースサイドカーですから、意見は聞き流せません。スクーターのタイヤをグラインダーで切断して内面にFRPを貼り付けて、フロントスポイラーの左右部分を2個作ります。空缶の内部のRを利用して作ったスポイラー中央部と合体させて、パッセンジャーの靴底をカバーできる空力効果の高い形に仕上げました。
完成と同時にすかさず届く注文その2は「サイドポンツーンもあったらいいなー」とのこと。さあ何から型を取ろうかと車庫を探したらいいものを発見、「ゼロクラウン」のヘッドライトのクリアレンズです。モトコンポと比べると随分大きなヘッドライトで、さすがはクラウンといったところ。レンズ内面に離型剤のPVAを塗布したら、コーナーなどガラスマットが入りにくい部分に樹脂パテを盛ってからガラスマットを積層していきます。硬化するとほとんど修正のいらないきれい曲面のパーツができました。
リヤウイングはパッセンジャーの背中に隠れてしまい空力効果が薄いものの、レーシーな視覚効果で勝負。これの型はなんと便座カバーです。もちろん使用しなくなったもので、車庫の物置にはいろんなものが出番を待っています。微妙なカーブと面取りの角度が気に入りました。さすがTOTO製だけあって精巧な作りです。PVAを塗布してガラスマットを貼り込み、硬化したらセンターで合わせてFRPマットで接合、グラインダーと手作業で整形します。
スポイラーの裏にステーを取り付けるアルミのベースをガラスマットで埋め込みます。乾燥待ちの間にアルミ板をドリルの連打で三角形に切り抜き、ギザギザの切断面をフライス加工で整えると、シャープなGTウイングが完成です。
ここでまた加藤パッセンジャーからの注文、「バットマンデフューザーもぜひ!」。それいきますか! F1のマクラーレン・ホンダMP4シリーズのスーパーエアロです。当時、鈴鹿サーキットへ観戦に行ったなあと懐かしみつつ探し出したのは、ヤマハのスクーター「マジェスティ」のヘッドライトのパーツ。横にカットして裏返すとそれだけでバットマンっぽいので、塩ビパイプを型にして作ったFRPのフード(こちらカーボン製)を内側に貼り付ければ楽勝で完成です。
サイドカー側のサススプリングをコンテナ用の柔らかいものから、硬いものにチェンジ。体重約60~65kgくらいを想定してセッティングを変更します。これも自分基準で微調整できるので便利です。電球を仕込んだ三角形のストップランプはエルフのテールレンズを塗り分けただけで、下はリフレクターになっています。細かいところですがサイドポンツーンの上面を跳ね上げ加工してみました。全パーツの塗装が終わり組み立ててみると、可愛らしかったコンテナサイドカーから、100km/h超えも狙えそうなサーキット仕様サイドカーに大変身できました。
最終仕上げとして、カッティングシートでストライプやゼッケンを貼って、スポーツサイドカーらしさを演出します。さあこれで出撃準備はすべて整いました。
ついに筑波サーキットで全開走行!
そして2021年10月、ついに念願の筑波サーキットデビューの朝がやってきた! CARトップ誌伝統のガチンコ新車斬り企画、あの「筑波アタック」に番外編として登場します。名付けて「CTおバカ筑波アタック2021」ちょっと残念な企画ネーミングですが、過去にはこの部門で「電動アシスト・ママチャリ(5’42”399)」や「トゥクトゥク(2’06”547)」、「セグウェイ(6’20”872)」、「人間・駆け足(8’47”620)」などが大真面目にアタックしています。はたして1年がかりの連載で作り上げたモトコンポサイドカーが、どんなパフォーマンスを見せるのか、何分何秒で駆け抜けるのか、はたまた分解してリタイヤしてしまうのか、心が躍ります。
相棒の加藤パッセンジャーと気合を入れて、いざスタート! ピットロードが地平線まで続くかのようにはてしなく長く見えます。焦らずゆっくりと走りながらマシンをチェック。新車同然のエンジンはもちろん絶好調で、シャーシもよし。ハンドルがブレたり左右に取られることもなく、脇を締めてギュッと固定しているだけで素直に直線を進む。どうやらアライメントも問題はなさそうです。
ラップタイムはモトコンポ+サイドカーの世界最速!? を記録
第1コーナーは体重のかけ方を探りながら大きく曲がります。「今、20km/h出てるよ」「ヒーッ!」「今で、30km/h」「うお~っ!」なんて声を掛け合って走る。レーシングカート慣れしているはずの加藤パッセンジャーも、自分でハンドルを操れない地面スレスレはスリル満点みたいです。体感速度60km/hくらいでしょうか?
第1ヘアピンの左カーブを少し加速しながら切り抜け、ダンロップコーナーの右カーブは減速気味に通過します。アクセル操作だけでブレーキは使いません。サイドカーらしい走りになってきました。カーブの走行ラインを探っているので、いつくぐり抜けたの? みたいにダンロップアーチも目に入りません。
80Rを過ぎ第2ヘアピンを回るころには、ふたりの呼吸が合ってきて、スピードに乗ったまま内側の縁石を舐めるようにトレースできるまでになりました。最終コーナーをほとんど一定速度のまま通過して、ジワリと加速しながら2周目に突入します。少しだけ攻撃モードに切り替えましたが、アタック本番は3周目ということでまだ慣熟走行に集中します。
モトコンポの非力な2.5psエンジンでも、ふたり乗りのサイドカーが安定して元気に走りますね。ステアリングダンパーと2名分の体重バランスが奏効しているのか、ハンドルが少しもブレず、安心感は大きいです。もしかしてバットマンデフューザーもひと役買っているのかも(まさか?)。今度はダンロップアーチも確認できました。裏ストレートでモトコンポサイドカーとしては最高速かなと思う40km/hちょっとまで出してみたけど、まだまだ余裕で伸びそうですね。行けるぞ!
最終コーナーをハイペースで走り抜け、アクセルをひねって3周目の本気アタックを開始! さあこれからだ、というところで、カウルのボルトが浮き上がってプルプルと震えているのを発見しました! なんてことだ、小さなネジとはいえコース上に落とすわけにはいかないので、すぐにメインストレートをUターンしてアタックは終了となりました。
1速しかないモトコンポは、ローだけで最高速度まで走っているような状態なので、2ストの高周波振動が車体全部をビビらせます。サーキット走行対策としてすべてのボルトをセルフロックナットで締めてきたはずなのに、カウルのボルト2本だけナットを付け替え忘れていました。
結局2周目のタイム、4分10秒876がベストラップということに……。もう1周走りたかったな~残念無念。でも楽しすぎるモトコンポサイドカーの筑波サーキットアタックでした!
パッセンジャーの乗ってみた感想(加藤)
阿部さんが制作した「モトコンポサイドカー」。最初は冗談で「え、乗れないの?」「いやー筑波を走るならフロントのエアロがないと」「バットマンディフューザーも欲しいなあ」なんて言っていたら本当に作ってくれる阿部さん。あれ、どうやら本気だぞ……と気がついた時はもう引き返せない状況で、筑波サーキットで僕も乗るハメに。
サーキットテスト当日、現場に持ち込んだバラバラ状態のモトコンポサイドカーを厳かに組み始める阿部さん。試走してみたんですか? と聞いたところ「庭を走らせただけです」と。まあ、そりゃそうだよな。コースインして1コーナーでバラバラに分解しても困るので、パドックで試走してみることに。
なんというか、感想はただひと言「怖い!」(笑)。阿部さんは運転してるので感じなかったのかもしれませんが、パッセンジャー側は前足の下にタイヤがないので「宙ぶらりん」感がハンパないんです。グリップは付いているものの、剛性感はまるで豆腐のよう。シートもフカフカ。というかグラグラ?
試走も終えて、ついにコースイン。スピード感はとてもあるのに、いつまでたっても馴染みのコーナーに辿り着きません。いつもの筑波サーキットが3倍以上におっきくなっちゃった……悪い夢を見ているのでしょうか。
今までサイドカーのレースはなんとなく見たことがありましたが、パッセンジャーが体重移動をしているを見て「そんな大袈裟な」と思ってました。ですが、このモトコンポサイドカーは、僕も積極的に体重移動しないと、僕の本能が「横転するぞ!」と訴えかけてきます。まさか40近くになって、今まで聞いたことのない本能の叫びを聞くことになるとは(笑)。一生懸命体重移動します。右コーナーだと、一瞬「チュンッ」と運動靴の踵が擦れます。
タイムは前述の通りですが、体感的にはもっと長く、20分くらいかかっていたのではないか、と思ったので想像以上の速さだと思いました。貴重な経験をさせていただきました。次の目標は鈴鹿サーキットですね、阿部さん!