交通安全のための白い粉も旧車乗りには悪夢の物質
真夏の大渋滞とともに旧車乗りを悩ませるのが真冬の「塩カル」問題だ。塩カルとは塩化カルシウムのことで、冬に路面が凍結したり雪が降り積もる可能性がある日本各地で、「凍結防止剤/融雪剤」として散布されている白い結晶みたいなモノがそれである。
新しめのクルマだと、フェンダーやホイールやマフラーなどに付着する白いモノというニュアンスでしか実感しにくいが、ウン十年前に生産された旧車の場合は、塩害によるサビで泣いたという悲しいエピソードが山ほど存在している。
通称「塩カル」といっても種類はいろいろ
路面に散布されている「凍結防止剤/融雪剤」のことを「塩カル」と呼ぶのが一般化してしまっているが、じつは塩化カルシウムのほかに塩化マグネシウムと塩化ナトリウムも使われている。これら「チーム塩カル」の使い分けは、使用時の気温、使用する地域の最低気温、そして、速効性が求められるのか持続性が必要なのか、といった使用時の状況などによって決められている。
散布時の適温を示した実用上適用温度というものも設定されており、塩化カルシウムは-15℃、塩化マグネシウムは-13℃、塩化ナトリウムは-8℃だ。極域の海水をイメージするとわかりやすいが、塩分や糖分をはじめとする不揮発性の物質が水に溶けると凍結する、温度が下がるという「凝固点降下」の現象が起きる。そのため、道路上に凍結防止剤/融雪剤を散布しておくと路面が凍りにくくなり、より安全に走れるわけである。
クルマのアンダーフロア、意外なとこにも潜りこむ!
しかし、恐ろしいことに凍結防止剤/融雪剤が溶け、塩分をたっぷり含んだ水がクルマに付着したままの状態で放置すると、大切な愛車がサビてしまうのだ。とくに車体下面の防錆処理が甘いことが多い旧車の場合は注意が必要で、あっという間に各部がサビサビになってしまうのであった。
ちなみに、サビは鉄の表面に付着した水分と酸素が反応して発生するが、このときに塩分が含まれていると水が電気を通しやすくなり、サビを起こさせる化学反応が速く進行するようになる。旧車は長年の走行によって、車体下面のみならず、サスペンションアームなどにも少なからずキズが付いているので、そういった部分に「チーム塩カル」の面々が入り込んでしまったらもう大変である。
各パーツが本来持つ性能や寿命を維持できなくなるだけでなく、塩害の影響でサイドシルなどに穴が開いてしまうことも考えられるからだ。
「チーム塩カル」にヤラれると旧車はこうなる
筆者の愛機である1974年式の「アルファロメオGT1600ジュニア」は、サイドシルの前端が袋状になっている。ここに入り込んだ「チーム塩カル」の面々が悪さをしたことによって、モノコックボディを構成している鉄がボロボロになってしまい、一度、壮大な鈑金塗装を実施した。
また、路上に設置されたキャッツアイを踏んでしまったときに、サビて弱くなっていたフレームにクラックが入ったことがあり、このときは溶接することになった。その際、車体下面が予想以上に腐食していたので、サビている部分をガリガリ削ってもらい、新品の鉄で補強しながらの壮大なるリペア作業を実践してもらった。
当記事の編集担当である竹内氏は、仙台で冬も日常的に乗り回していた1975年式フォルクスワーゲン・タイプ1(ビートル)の車体下面に、毎冬、防錆材を塗ってもらっていたらしい。だが、それも焼け石に水で、ある日「ん、カーペットの下から光?」と思ってめくってみたらサビでフロアに穴が開いていたそうだ。当時、彼は学生で、フロアがサビサビになったビートルを救う手段(=軍資金)が無く、泣く泣く廃車にしたそうだ。
雪道を走ったら下まわりの高圧洗車を
そういった事態にならないための一番イイ対応策は、凍結防止剤/融雪剤をすぐさま落とすことで、旧車で塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウムが散布された道を走ったら、即座に車体下面を高圧洗車するべきなのであった。新しめのクルマも塩害でマフラーがサビることがあるので、排気系に付着した凍結防止剤/融雪剤は、一刻も早く落としたほうがいいだろう。