第2世代GT-Rの中古車相場高騰の勢いはまだまだ止まらない
1990年代スポーツカーの中古車相場の高騰、なかでもトップクラスの人気を誇るのが第2世代と呼ばれるスカイラインGT-R……という文章をこれまで何度書いただろうか。しかもその傾向は強まるばかりで、勢いにいまだ陰りは見えない。
さらにスポーツカーの高騰は2000年代のクルマにも飛び火。人気薄だったZ33フェアレディZやNB、NCロードスターなども軒並み上昇中と、「格安スポーツカーで遊ぶ」という選択も年々難しくなりつつある。トータルで見れば、現行車もしくは代替わりをした直後のスポーツカーを買うのが一番賢い遊び方かもしれない。
いまから購入して楽しむなら高額な維持費は覚悟すべし
話をスカイラインGT-Rへ戻そう。「クルマは高いし、維持していくのも大変か」と聞かれれば、これから買うのであれば「高すぎる」との回答になる。では維持はどうか? これから買って、コレクションとして保管するのではなく、走って楽しむならば「覚悟はしておいてください」となり、古くから所有しているならば、これまでのメンテナンスや今後の乗り方にもよるが、「年々部品が高くはなっているけれど、大きなリフレッシュがなければ、そうはかからない」となる。
まず、中古車相場だが、2021年12月時点では長男のBNR32(8代目/1989~1994年生産)が450~1000万円、次男のBCNR33(9代目/1995~1998年生産)が450~1000万円、三男のBNR34(10代目/1999~2002年生産)に至っては、1300~3500万円といったところ(※ちなみにR35は550~2300万円だ)。
いずれの車両も当時の新車価格を超え、BNR34に至っては2倍以上となっている。昨年の同時期と比べるとR32&R33が約100万円、R34に至っては200万円ほど下限価格がアップするなど、異常なほどの上昇っぷりだ。
スカイラインGT-Rは趣味で所有するにはいいクルマだが、現状価格はすでにプレミアの域を超え、さすがに適正とは言い難い。個人的にはそこまで出して買うクルマではないと思っている。ただ、輸出も進み国内から個体数も減り、「待っていたらいいクルマが2度と手に入らない」のも確か。本気で欲しい人、手が届く人に買わないほうがいいとは言えないのがなんとも歯がゆいのだが……。
価格高騰でメンテ歴が確かな個体でも売却される機会が増加
また、マーケットにある下限のクルマは事故歴あり、距離不明、程度難ありのものも存在し、第2世代GT-Rが底値だった平成24年(2012年)なら手を出すのを誰もが躊躇した、いわゆるハズレが混じっている可能性は高い。
とくにエンジンの不具合(本体、補器類、電装系など)、車体の劣化(腐食、事故の不完全修理など)などはパッと確認しただけではわかりにくいもの。見た目がキレイだからと購入したらトラブル続発、ボディ下が錆に犯されていたりなど泣く泣く手放したという話も聞く。それが100万円以下ならまだ諦めもつくが、450万円となったらそうはいかないし、安易に手を出すと痛い目を見る。もし買うなら、GT-Rをよく知る人と見に行くことをオススメする。
さらに、GT-Rに精通していない一般販売店で買うのもリスクが高い。任せられるメンテナンスショップを確保し、個人的にもGT-Rに精通して個体を判断できるならいいが、スカイラインGT-Rには見えにくい固有のトラブルも多く、一般販売店ではそれを知らず、見落としている可能性は大いにある。つまり、アフターフォロー、トラブル対応などは期待できない可能性が高い。つまり専門店で買うほうがいいと言われる理由はそこにある。
ただ、高騰によるメリットもある。以前は「そろそろお金がかかりそう」「維持が難しくなった」とマイナス面で手放すケースが多かったが、いまが高く売れるからという理由で売却する人も増え、メンテナンス履歴のしっかりした個体が市場に出ることも増えた。こうしたクルマを買えば、今後の維持費用は比較的抑えられるので総合的に得になる。
車齢は20年落ち以上であることをしっかり理解しておきたい
次は維持の問題。まず、大前提として考えてみてほしい。第2世代スカイラインGT-Rは2022年でもっとも新しいBNR34で20年落ち、もっとも古いBNR32になると生産終了からなんと33年を迎える。もはや立派なヒストリックカーだ。走行距離が短く、タイヤを外してジャッキスタンドをかけ、日光を当てずに一定の室温管理。エンジンも定期的に始動し、台上でミッション、ドライブシャフト、デフなどの機関をしっかりと動かすような環境でもない限り、経年劣化は免れない。
普通に使用されてきたクルマならば、駆動系、電装系、ボディ、ゴムパーツを含めて各部には最低でも20年分以上の疲労や劣化が蓄積されている。動かされずに保存していたボディ極上の低走行車の場合であっても、走らせるとなれば、機関や足まわりなどは動いていなかったがゆえに起こりえるトラブルもある。
簡単にいえば運動不足のお年寄りに、いきなり激しい運動をさせるようなもの。どうなるかは読者諸氏にも理解できるだろう。こうした場合は念入りな準備運動整備が必要だ。つまり、つねにクルマを動かしており、履歴がしっかり残っているクルマ以外はどこから不具合が起こるかは特定しにくい。まさに時限爆弾を抱えている状況なのだ。
ちなみに長く乗り続けている方は(定期的なメンテナンスや車検ごとの部品交換などが行われている場合なら)すでに部品を交換するサイクルが確立されている可能性が高く、次はどの部品が壊れるかはおおよそ判断、予想がつくようになっている。エンジン本体など大物部品のリフレッシュがなければ、早め早めの消耗部品のサイクル交換を行うことで、不具合が起こる可能性は少なくなるだろう。これは他車種でも長く乗れば同じことが言えるため、メンテナンス費用はべらぼうに高いわけではない。
部品は揃うが事故になると再起不能になることも
ただ、純正部品については中古車同様に高騰している。2017年から日産とニスモによるヘリテージ事業のスタートにより、純正部品の復刻が始まった。さらに純正部品では再生産されないパーツをアフターパーツメーカーがリプロ品を製造したりと、クルマを動かすことについてはプロペラシャフト以外は概ねなんとかなる。これは同年代他車種に比べて環境はかなり恵まれている。
ただ、メーカー&ショップで再生された純正部品/リプロ品は現役当時と比べると少量生産であり、量産効果が薄く、どうしても販売価格は高くなる。また、いまなお生産が続けられる純正部品も保管料、人件費を含めて、毎年4月、10月の改定で倍々ゲームのように値段が上がっているのが現状だ。作ってももらえるだけありがたいが、オーナーの負担は大きくなっている。
その影響もあり、現在は社外品のほうが純正部品よりもリーズナブルな設定となり、代用できるものは社外品を使用。エンジンブロック、シリンダーヘッド、ゴム製品、各種センサー、駆動系部品など替えがきかない場合のみ純正部品を使うのがいまの流れ。ただ、注意すべきは事故で、骨格を構成する部品、外装パーツなどはほぼ製造廃止のため、大破となれば復活は相当難しいし、仮に復活できても相当な費用は覚悟しなくてはならない。長く乗りたいなら絶対に無茶は禁物だ。
全てを良好な状態にするにはトータル600万円ほどの予算が必要
加えて、中古車市場&純正パーツの高騰にともない、各メーカーのチューニングメニュー&整備費用も値上がり傾向にある。例を挙げるとNISMOのS2エンジンメニューは2014年は約230万円~(税込)であったのに対して、2021年は約511万円~(税込)と8年間で2倍強までアップしている。もちろん、当時とは使用するパーツの交換点数、部位などが増え、製作までに時間を要するなど理由はさまざまあるが、一般ユーザーにはなかなかハードルの高い金額となってしまったのは間違いない。
ちなみに、一般的な費用の目安はエンジンオーバーホールが周辺の補器類まで含めると250万円~。シャーシオーバーホールは150万円~(ダンパー&ショック別)、ウインドウ脱着してのオールペン100万円~。その他、デフやミッション、ブレーキなどを含めてプラス100万円の予備費は見ておくべきだろう。
もちろん、1度に全プランを行う必要はなく、健全な部分を1パート、1パートずつ作っていくルーティーンで進めていくのもあり。自分に合ったGT-Rとの付き合い方は走りながら見つけていくしかない部分もあるが、すべてを良好な状態に戻すためのトータル予算は600万円ほど必要だと頭に入れておいた方がいい。つまり工業製品なので、走り始めた瞬間から劣化が始まる。仮にフルレストアを施しても完成ではなく、新たな付き合いの始まりでしかない。
さらに法定費用も税金は自動車税、重量税ともに重課税対象車。また、車両保険は価格を決める型式別料率クラスはR32/R33が13、R34が14(最高は17)と高い部類となるなど高額だ。とにかく、いまからクルマを買って健康で維持し続けるにはよほどアタリを引かない限り、お金が掛かる可能性は大。もはや第2世代スカイラインGT-Rは一般のユーザーが安易に乗れるクルマではなくなった。添い遂げるには相当覚悟が必要だ。
距離を延ばさず楽しむなら大損せずに長く乗れる可能性大
長く乗り続けるためには「あばたもえくぼ」の精神で高い法定費用、車両保険、多少の不具合や劣化には目をつぶり(完璧を求めない)、ルーティーンで修理しながら乗っていく(ただし、本来のGT-Rの性能はなかなか味わえないが)。もしくは、最初にお金はかかるが思い切って機関をフルリフレッシュして、あとは定期的な整備点検で不具合が出そうな部品を先んじて交換しながら維持していくかの2通りが基本だろう。
ただ、五感を刺激しまくるエンジン、チューニングに対して伸びしろもあり、手を加える楽しさは抜群。走りの実力は最新のマシンに対しても引けを取らないなど、パフォーマンス面はいまだ魅力的であり、モータースポーツ、チューニングシーンで歴史を彩ってきた最強マシンを所有しているという満足度も高い。
しかも、いましばらくは相場が安定しているので、よほどハズレを掴まず、大きな事故しをない限り、長く乗ってもかなりの高値で売却できるなど、かなりコスパがよいなど手に入れるメリットがないわけではない。現在、日常の足として使っているオーナーは少なく、趣味のクルマとして年間走行距離が1000km以下の方も増えている。そのような使い方なら保管方法にもよるが経年劣化は少なく、より長く楽しめるのではないだろうか。
繰り返しとなるが、いまから買って長く乗るのであれば大事なのは良質な個体選び。走行距離ではなく、直近までしっかりメンテナンス履歴が残っており、下まわりに錆、腐食が少なく、手が加えられすぎていないノーマル然としているクルマが理想だ。買えるだけの財力があることが前提となってしまうが、コンディションのいいクルマさえ手に入れられれば、満足できるカーライフが待っているのは保証する。これほど走る喜びに溢れ、クルマを通じた出会いを生む国産車はほかにはないからだ。