BMWはシリンダー数よりも
エンジン搭載位置が魅力
BMWといえば、シルクのような滑らかな回転フィーリングからシルキー6と呼ばれる直6が代名詞だ。今では遠くなったバブル期に「六本木カローラ」と揶揄されたE30型3シリーズがそうであるし、後継のE36型やE46型でも直6エンジン搭載車が主流だった。
ところがBMW=直6という常識を覆すモデルがあった。それがMT仕様でE36型に設定されたクーペの318iS(1.8L/後期型1.9L)やE46型の320iである。これには当然、BMWジャパンの戦略(どれが売れて利益を出せるのか)もあるのだと思うが、BMWの直4モデルには直6モデル以上の魅力があるのだ。それはエンジンの搭載位置に関係している。
BMWには直4から直6、V8やV12まで幅広いエンジンをラインアップがあるが、基本的にエンジンの搭載位置は車体中央、室内側に張り出した位置に搭載されている。つまり直4であればフロントミッドシップでフロントサスペンションよりもキャビン側に収まるように搭載される。
重量物をより車体中央に積める
直4はハンドリングに優れる!
これは直6を積んでも前後重量配分が50:50になるための搭載方法なのだが、エンジン本体がコンパクトな直4なれば、フロントサスペンションよりも前にエンジンという重量物を置かなくて済むこと。このメリットは大きくクルマの前方に重量物があれば慣性の法則で運動性能が損なわれるからだ。
もちろんFFであれば、前輪にトラクションがかかりやすくて直進性能が高まるといったメリットも出てくるだろうが、FRのBMWであればハンドリング面においてデメリットしか出てこない。つまりBMWの直4はできるだけ重たいものを車体中央に位置することで、優れたハンドリングを実現するための手段となるわけだ。
それゆえにE36型ではローパワーの直4にスポーティな走りを楽しめるMTを設定したのであろう。こうした判断は正しく、確かにE36型の直4はMT仕様の人気も高かったし、後継モデルのE46型やE90型でも直4モデルのMT仕様が設定されていた。つまりBMWが考えるMTスポーツは、重量物が車体中央にあってこそのMTであることが伺える。
極端なことを言えば、前後のバンパーに重りを積めば前後重量配分50:50は実現できる。しかしこの方式だと前述したとおり慣性の法則が働いて、スポーティな走りは叶わないだろう。それゆえ、BMWは車体中央に重量物を詰め込んだ50:50こそ、BMWスポーツの神髄だとラインアップを続けてきたワケだ。
もちろんデメリットもある。同クラスのFF車と比べれば室内は狭くなる。同じFRでも、エンジンを車内側に近づけるほどトランスミッションが張り出し、室内は狭くなる。だがBNWは頑なだ。すでに過去のキャッチフレーズになってしまったが「駆け抜ける歓び」をアイコンとして発信し続けたBMWは、車体の前方や後方を軽くして重量物を車体中央に集めた重量バランスで、運動性に優れたスポーツサルーンを作り続けてきた。
フロントミッドへのこだわりがBMWの真髄
BMWは一貫してこの法則を続けている。それは現在発売されているモデルにも通じるし、おそらくトヨタがスープラの共同開発にBMWを選んだ理由でもあるだろう。現在はEVやハイブリッドに注目が集まり、BMWもiシリーズやハイブリッドモデルもラインアップしている。だがそんななかでもスポーティなブランドイメージを確保し続けているのは、速さだけではなくドライブが楽しいと言えるドライバーの要求に応えているからだろう。
これは余談だが、BMWはドイツの有名なサーキットであるニュルブルクリンクで開発テストを続けているが、なんとBMWはニュルのとあるコーナーをBMW車が走行してコーナーを立ち上がる際の姿勢を評価する役員がいるらしい(編集部注:諸説あり)。コーナーを駆け抜けるときのクルマの姿勢(見え方)にもこだわる。これが真実であれば、ブランドというのは本当に細部に宿るのだと感じさせてくれる。