大きなテントだけでなく「着替え用テント」も
大きなテントはまだ「レジャーキャンプ」専用ではなく、軍用や、狩りなど屋外スポーツなどにも使う汎用のものだった。例えばサークル形のテントは、いちばん小さな円周24フィート(7.3m)、すなわち直径約2.3mのサイズのもの(図左上)でも5ポンド11シリング(約6万6000円相当)とお高め。大きな傘の周囲に幕を垂らすだけの簡素なもの(図中央上)だと38シリング3ペンス(約2万3000円)なのだが、どう見ても宿泊できるほどのものではない。もっと簡素なものは「Bathing Tent」で、キャンプだけでなく水遊びなどでも使える着替え用テントだ。
もちろんこういった大きな設備でのキャンプでは、地面にマットだけ敷いて寝るということはなく、簡易ベッド、今でいう「コット」を持っていって寝ていた。当時のカタログでは「ベッドステッド」や「キャンプベッド」との名でラインナップされていて、フレームは木製か鉄製。価格は格安品の12シリング3ペンス(約7500円)から、42シリング9ペンス(約2万6000円)までピンキリだ。
ひとり用テントはあったが携帯性はイマイチ
大人ひとりがすっぽり収まってアウトドアで眠れる、「寝床」に特化したひとり用テントはこの当時「Sleeping Valise」と呼ばれていたようだ。「Valise」は「旅行カバン」や「スーツケース」の意味で、「中で寝ることもできる旅行カバン」といったニュアンスである。図右の製品は、移動時はなかに荷物をたくさん詰めて、コンパクトに(?)まとめて運べるのがアピールポイント。かなりかさばるのは間違いないので、馬車に積む前提だったのだろう。これらのお値段はおおむね50~90シリング(3万円~5万4000円)だ。
カトラリーはミリタリー仕様からピクニック用まで多彩
この「アーミー&ネイビー・ストアーズ」ならではなのかもしれないが、アフリカでも使えると謳う軍隊推薦のカトラリーセットなるものもラインアップしている。ヤカンとフライパン、3人分の皿とコップとナイフとフォークとスプーン、さらに塩・砂糖・オイルの容器まで付いて28シリング9ペンス(約1万7000円)だ。
もちろんそんな剣呑なものばかりではなく、バスケット入りの食器セットも多数販売されているのでご安心を。こちらはピクニック用なので耐久性はさほど考慮されていないが、幌馬車で運ぶ分には問題ないだろう。2人用のもっともシンプルなセットが22シリング6ペンス(約1万3000円)で、12人用の超豪華セットでは19ポンド(約23万円)! という高級品も掲載されている。
アウトドアでも身だしなみをバッチリ決めるのが英国流
ほかにも折り畳み椅子やハンモックなど多数あるのは画像ギャラリーをご覧いただくとして、最後にご紹介しておきたいのがコチラ、「キャンプ・ドレッシング・ケース」。
植民地インドの当局お墨つきの、屋外で身だしなみを整えるためのセットだ。キャンバス地のケースの中に、ヘアブラシ、歯磨きセット、せっけん、ハサミ、ヒゲソリ、ヒゲソリを研ぐ革、ヒゲソリ用ブラシ、洗濯ブラシ、くし、そして鏡まで含まれ、一式そろって28シリング3ペンス(約1万7000円)なり。
百貨店がキャンプ用品のなかにこういったアイテムをしっかり揃えているところに、100年以上前のイギリスのキャンパーたちの品格を感じてしまうのだった。