欧州では4WDでなくても走れる環境が整っている国も
欧州でも積雪の多い北欧はどうかと言えば、ボルボには4WDもあるにはあるが、2WDで十分という特殊な事情がある。それは、スウェーデンなどの北欧諸国では今もスパイクタイヤが生産され、冬季には多くのクルマに装着されている事実がある。粉塵被害よりも(もちろん研究されている)、乗っている人の命を守るスリップ事故防止の観点を優先する考え方だろう。
もうひとつの理由は、日本のクロスオーバーSUVブームが端を発した、街乗りSUVの世界的波及である。SUVが道なき道を行くためのクルマではなく、街乗りシーンでステーションワゴンのように便利で、視界が高く運転しやすく、またオシャレなクルマとして捉えられ、人気だからである。
VWでもっともコンパクトなSUVであるT-Crossを見ても、今の時代、ABSはもちろん、ESCと呼ばれるエレクトロニックスタビリティコントロールは全車標準装備で、積雪路でもスタッドレスタイヤを履いていれば、4WDに迫る走行性能を発揮してくれる。雪の少ない欧州の地域では、価格的にも安い2WDで、1年中安心して走れることになる。
最後に、これはあくまで推測だが、欧州に旅行に出掛け、レンタカーを借りて走ってみるとわかるのだが、欧州の人は老若男女問わず運転がうまい。かつて、スペインへ新車試乗会で訪れた際、延々と続く山道で、こちらの高性能車の先を、負けじと飛ばす1L級のヤレたFFコンパクトカーがいた。峠を下りた駐車場にお互いが入ったところで、どんな人が運転しているんだろうか、まさかレーシングドライバー? と思い、覗いてみると、なんとフツーのお婆ちゃんだった……というエピソードがそれを象徴しているかもしれない。
ゆえに、滑りやすい路面×2WDでも、欧州の中級以上のドライバーなら、そこそこ走りきれてしまうのではないだろうか。あるいは、高性能でも2WDのじゃじゃ馬的な走りをより好むのかも知れない。
そうしたいくつかの要素がからまって、欧州ではガチな4WDはメルセデス・ベンツGクラスやレンジローバーなど、特別なクルマを除き少ない。スポーティなクルマの高性能やトラクションを担保するための、悪路走破性とは異なる目的のハイパフォーマンス4WDとして使われることが多いのだろう。