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個性的なモデルが多いのになぜ? 欧州SUVに「ガチ4WD」搭載車が少ない理由

VW T-CROSSの走り

日本では軽自動車などでも4WD設定がある

 日本車では、SUVは当然として、軽自動車から乗用車にまでラインアップされている四輪駆動=4WD/AWD。スバルのように、ほぼAWDしか用意されていない自動車メーカーさえあるほどだ。

 一方、欧州車を見てみると、メルセデス・ベンツGクラス、ジープ、レンジローバーといった軍用車派生車種、砂漠のロールスロイスと呼ばれるような一部のオールラウンダーを除き、乗用車はもちろんSUVでも2WDのクルマが多いのも事実。

日本で買える輸入SUVではFFのみというモデルも多い

 例えばVWポロがベースのT-Cross、T-RocといったクロスオーバーSUVも、日本で売られているラインアップは現時点でFFのみ。フランス車に至っては、4WDはほぼ皆無の輸入車となっている。もちろん、日本に輸入されていなくても、本国で4WDを用意する車種もあるにはある。だが、あっても悪路走行のための4WDというより、VWの「R」シリーズなどの高性能車にあるように、4WDはランサーエボリューションから今に引き継がれている三菱のS-AWCを見ればわかるとおり、走行安定性やダイナミクスを高める目的で使われているケースが多いのである。

 とはいえ、今、欧州車にガチな4WDが少ないのには、ほかにも理由がある。まずは広大な欧州では一部の山岳地帯を除き平地が多く、そして雪を降らせる原因のひとつの山が少なく、積雪量が多くないことが挙げられる。とくにイギリスあたりはまわりの海が暖流で偏西風が暖かい。経度のわりには温暖で、雪が降りにくい環境なのである。

 そして雪質の違いもある。湿度が低い国が多く、雪質がサラリとしていて、2WDでもここ最近はほとんどのクルマに装備されているトラクションコントロールなどで事が済むのである。

 次に価格である。4WDになると2WDに対して価格が上昇するのは当然で、クルマが特別な存在ではない自動車先進国ではあくまで実用品であり、めったに威力を発揮しない4WDの価格アップを容認しないということだ。

欧州では4WDでなくても走れる環境が整っている国も

 欧州でも積雪の多い北欧はどうかと言えば、ボルボには4WDもあるにはあるが、2WDで十分という特殊な事情がある。それは、スウェーデンなどの北欧諸国では今もスパイクタイヤが生産され、冬季には多くのクルマに装着されている事実がある。粉塵被害よりも(もちろん研究されている)、乗っている人の命を守るスリップ事故防止の観点を優先する考え方だろう。

 もうひとつの理由は、日本のクロスオーバーSUVブームが端を発した、街乗りSUVの世界的波及である。SUVが道なき道を行くためのクルマではなく、街乗りシーンでステーションワゴンのように便利で、視界が高く運転しやすく、またオシャレなクルマとして捉えられ、人気だからである。

 VWでもっともコンパクトなSUVであるT-Crossを見ても、今の時代、ABSはもちろん、ESCと呼ばれるエレクトロニックスタビリティコントロールは全車標準装備で、積雪路でもスタッドレスタイヤを履いていれば、4WDに迫る走行性能を発揮してくれる。雪の少ない欧州の地域では、価格的にも安い2WDで、1年中安心して走れることになる。

 最後に、これはあくまで推測だが、欧州に旅行に出掛け、レンタカーを借りて走ってみるとわかるのだが、欧州の人は老若男女問わず運転がうまい。かつて、スペインへ新車試乗会で訪れた際、延々と続く山道で、こちらの高性能車の先を、負けじと飛ばす1L級のヤレたFFコンパクトカーがいた。峠を下りた駐車場にお互いが入ったところで、どんな人が運転しているんだろうか、まさかレーシングドライバー? と思い、覗いてみると、なんとフツーのお婆ちゃんだった……というエピソードがそれを象徴しているかもしれない。

 ゆえに、滑りやすい路面×2WDでも、欧州の中級以上のドライバーなら、そこそこ走りきれてしまうのではないだろうか。あるいは、高性能でも2WDのじゃじゃ馬的な走りをより好むのかも知れない。

 そうしたいくつかの要素がからまって、欧州ではガチな4WDはメルセデス・ベンツGクラスやレンジローバーなど、特別なクルマを除き少ない。スポーティなクルマの高性能やトラクションを担保するための、悪路走破性とは異なる目的のハイパフォーマンス4WDとして使われることが多いのだろう。

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