世界に目を向けるWRXのとんでもないコンプリートカーがあった
スバル車のコンプリートカーといえばS209などの「Sシリーズ」がピンと来るだろう。だが世界に目を向けると、いろいろなコンプリートカーが存在する。 本稿では2010年にイギリスで発売された「インプレッサSTI CS400」をマリオ高野がレポートする!
初出:スバルマガジンvol.27(※一部加筆修正)
大パワーを受け止める調律の巧さはため息モノ
「コスワース」と言えば、F1のエンジンサプライヤーとしてあまりにも有名だ。いや、SUBARUファンにとっては、WRCグループA時代に戦ったフォード・エスコートRSコスワースを思い出すのではないだろうか。ベースはCセグのハッチバックなのに2L直4を縦置きにしたエボマシン。
クソ重い鋳鉄ブロックでフロントにトラクションかけながら、ギャレットの巨大なタービンで加速させていた。F1よりもWRCばかり観ていた筆者としては、コスワースといえば豪腕のエンジンチューナーというイメージが強い。
なのでコスワースがWRXのチューンドカーを仕立てたと聞いたときは非常に驚いた。WRCから撤退していたとはいえ、まだ黄金期の余韻が残る2010年の話だ。インプレッサSTI CS400は英国市場向けの3代目インプレッサWRX STI(EJ25ターボエンジン搭載)をベースに手がけたスバルUKのコンプリートカーで、 生産台数は75台。日本国内にはわずか2〜3台しか入らなかったと言われている。
搭載する「EJ25ターボ」は400psを発生
そんな激レア車ながら、わりと最近まで知り合いがこれを所有していた。去年手放してしまったようで、今回取材させてもらったクルマもてっきりそれだと思ったのだが、じつは別の個体だった。
エンジンは専用のピストンやコンロッド、タービンなどによりノーマル比100psアップの400psに強化。0→100km/h加速タイムは3.7秒とされ、歴代最速である。 一方で内外装の特別感は控え目でノーマルとの識別点は意外と少ない。
しかしエンジンルームは比較的スペシャル感が強く、とくにエアクリーナーがフロントフェンダー内に配置されるところはいかにもレーシングマシン的だ。ブレーキはWRCと縁のあるブランド、APレーシング製6ピストンキャリパーを採用する。
CS400と暮らした経験のある知人の話によると、低回転時から発生する底知れぬ極太なトルク感と、3700rpm付近から急激に立ち上がるハイブースト車ならではのピーキーなパワーの炸裂感は、過去に登場したどのWRXよりも強烈だったという。
身体がシートバックに張りつきっぱなしになる加速Gや、パワーの炸裂とともに高まるタービン音やブローオフバルブ音がもたらす快感も得がたい魅力だったと語る。
強烈なパワーを補完するシャーシ&ブレーキ性能も圧巻
2.5Lとはいえ、400psを絞り出しても街乗りのドライバビリティが確保されているところは特筆すべきた。 知人は、この強烈なパワーを受け止めるサスペンションや強力無比の制動フィールが得られるブレーキの圧倒的な信頼感など、クルマ全体の調律力の巧みさにもっとも魅了された様子。
それはまさに完成度の高いコンプリートカーと言える。 取材させていただいたショップに話を伺うと、消耗パーツは国内の純正品が使えるなど整備面の不安は少ないという。取材車両はすでに売約済みだが、現オーナーが手放せば再度、日本国内で販売される可能性は高い。なかなかお目にかかれない激レアWRXを発見したら、見逃すことなかれ!
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エンジンオイルだけ気をつければ整備性は問題なし
ハイチューンドながら英国スバル公認の市販車なので、取り扱いに特殊な要件は求められない。取材させていただいたショップいわく「メンテは普通」と語る。ただし、エンジンオイルは粘度指数が高めの熱に強い高性能なモノを選ぶ必要はあるだろうとのことだった。
いろいろなところにコスワースの証が!!
外観は専用のリヤスポイラーと18インチアルミホイールを採用し、フレッシュエアの吸入効率を高めるためグリル類はメッシュ化されている。走りのパフォーマンスの高さにしては地味で羊の皮をかぶった狼的。内外装のいたるところに「COSWORTH」のロゴが見られる。
大人しめながらエクステリアもレーシー
フロントのメッシュグリルはエアの吸入効率が高い仕様になっている。18インチのマルチスポークアルミホイールはガンメタルグレーカラーを採用。マフラーは純正がそのまま使用されている。
アイバッハ製スプリング採用、フロントはΦ355mmローターを装備
サスペンションはアイバッハ製スプリングとビルシュタインダンパーを専用チューンしたもので、 車高は10mmダウン 。APレーシングの6ポットブレーキからはWRCマシンの雰囲気が漂う。
室内装備は国内仕様のGRB型インプレッサWRX STIと同じ
室内パッケージングやSIドライブ、DCCDなど居住空間や室内の装備類は、基本的に国内仕様と変わらない。前席はレカロ製で、「COSWORTH」のロゴ入りハーフレザーとスエードのスケルトンスポーツシートが奢られる。乗り心地は硬めで高速域でフラットさが増す。
スバル車のコンプリートカーと言えば、モータースポーツ活動やスポーツパーツの企画・開発を行うSTI(スバルテクニカインターナショナル)のSシリーズやtune by STIシリーズ(のちのtSシリーズ)が有名だが、世界に目を向けるとこうしたレアなコンプリートカーも存在する。レーシングコンストラクターであり、名だたるエンジンビルダーでもあるコスワース仕立ての「インプレッサSTI CS400」。オーナーになるチャンスに恵まれたとしたら、それはまぎれもなく幸せなことに違いない。
■インプレッサSTI CS400 主要諸元
◯全長×全幅×全高:4415×1795×1475mm
◯ホイールベース:2625mm
◯車両重量:1505kg
◯エンジン:水平対向DOHC4気筒ターボ
◯排気量:2457cc
◯ボア×ストローク:99.5×79mm
◯最高出力:400ps/5750rpm
◯最大トルク:542Nm3/950rpm
◯最高速度:250km/h
◯トランスミッション:6速MT
◯サスペンション 前/後:ストラット/ダブルウィッシュボーン
◯ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク(355mm) ベンチレーテッドディスク(316mm)
◯タイヤサイズ:245/40R18