アストンマーティン・シグネット
当時ニュルブルクリンクのレースを走っていたアストンマーティンCEO、ウルリッヒ・ベッツとトヨタの豊田章男社長の、ピットでの友人トークから始まったといわれる「アングロ・ジャパニーズ」企画が「シグネット」。だが、欧州CAFE規制の厳格化を見越して、大排気量スポーツしか展開していなかったアストンマーティン側が、ラインアップ内での相殺オフセットできるモデルを検討していたことは確か。グローバル時代を象徴するような白羽の矢が立ったのが、非軽自動車枠の4人乗りスモールとして注目されていたトヨタの野心作、「iQ」だったのだ。
高岡工場で生産した完成車を英国に送って、分解してからアウターパネルや内装などをアストンマーティンが組み付けたため、ノーマルiQより生産コストは相当にかかっていた。マスクだけアストン化したように見られがちだが、じつは外観の共通部品はドアとリヤフェンダーとルーフのみ。遮音材が追加されエンジンマウントも強化されている。
欧州では2011年に市販され、価格は約3万1000ポンド(現在のレートで約486万円)だった。日本にも少数が導入され、475万円~という価格だった。2013年の早々に生産は打ち切られるが、5年後の2018年、アストンマーティンのビスポーク部門である「Q byアストンマーティン」の手により、4.7Lの480psユニットをスワップした「V8シグネット」も製作されている。
ミニ・インスパイアード・バイ・グッドウッド
2011年に上海モーターショーで発表された。先代「ニューミニ」ことR56世代をベースに、同じBMWグループ内のロールス・ロイス・モーターカーズのデザイナーや職人が仕上げた、まさしくテイラーメイド・ビスポーク的なミニだった。内外装にロールス・ロイスでしかありえない特徴が数々施されている。
まず外装色のダイヤモンド・ブラック・メタリックからして、いかにもロールス・ロイスな、英国式アンダーステイトメント(ここでは豪華だがごく控え目であること)。ベースは「クーパーS」なのにボンネットはわざわざクーパーDのエアスクープ無し、つまり地味なものが採用されていた。エンジンは1.6Lツインスクロールターボの184ps/240N・mで、オーバーブースト時に260N・mというスペックはクーパーS同様だった。
目を見張るのは内装で、足元はまずラムズウールの毛足の長いカーペットに、ダッシュボードやドアハンドルにはウォールナット・バーというロールス・ロイスならではの最高品質のウッド、そしてブラックのフルグレインレザー張り。シートやドアの内張りレザーには、コーンシルクというこれまたロールス・ロイス専用色で、温かみあるナチュラルなベージュの諧調だった。しかも天井はカシミア張りである。
発表の翌年2012年に全世界1000台限定でオーダーが受け付けられ、日本での価格570万円は、ベースのクーパーSの2倍だった。