7人乗りでもデザインと走りの質にこだわるならヨーロッパ車!
いくら帰省や成人式で若者がオラつく季節が過ぎたとはいえ、神社仏閣の両隅が反り上がったパゴダ屋根のような、日本車ミニバンの鬼瓦ばりのドメスティック・マスクに疲れてきたと個人的に感じる1月下旬。子どもの情操教育からヤンキー要素を排除したい! とか、親である自分がヤカラっぽく見られたくない! という要望が根強くなってきたか、新型「ステップワゴン」は、先代よりは傾奇モノっぷりを抑えてきたよう。でも「アルファ―ド/ヴェルファイア」のフルモデルチェンジは今年半ばか来年、日産「エルグランド」も来年といわれ、路上顔面バトルの行方は杳として知れない。
こまかな装備機能は充実していても、静的状態に力みのあり過ぎな和製ミニバンになじめない層は、一定数いる。今年は数年来、欧州モノスペースとしてスマッシュヒットを飛ばす「シトロエン・ベルランゴ」の7人乗りも入るとか。いま現在、正規輸入で選べる、もしくは中古市場でタマ数のあるチョイスを選りすぐってみた。
シトロエン・グランドC4ピカソ(2代目)/グランドC4スペースツアラー
先代、先々代と続いてきた「ピカソ」のペットネームが、ピカソ末裔との契約が終わってしまい、車名が「グランドC4スペースツアラー」に変更。それからどうも影が薄い感はあるが、いまだ現行モデルとしてラインアップしている。初期モデルでもとりあえず「グランド」と付いたら3列シート7人乗りだ。リッター20km前後は軽々というディーゼルらしい好燃費と、シトロエンならではの快適かつフラットで柔らかな乗り心地、採光たっぷりでソフトな雰囲気のインテリアは、旧さを感じさせない。
実際、「ベルランゴ」を見に行って7人乗りだったから考えをあらためこちらに決めた、というファミリー層も少なくない。リヤドアがスライド式でなく通常の前ヒンジである分、ベルランゴの7シーターが登場したらいよいよ新車はフェードアウトかも。日本では3台目「ヴォクシー」が元祖とされるLED日中走行灯を上段に、ヘッドライトを下段に分ける上下2段マスクを、ほぼ同時期に採用しつつ独特の哺乳類マスクというあたりも、彼我の美意識の違いとして興味深い。今や中古は100万円前半から。
プジョー5008(2代目)
今現在、クラス問わず7人乗り選手権を開いたら、「メルセデス・ベンツGLS」や「BMW X5」、「ボルボXC90」や「ランドローバー・ディスカバリー」といった高級ブランドを含めても、間違いなく動的質感で3本の指に入るのが「プジョー5008」だ。というのも5008は7人乗りのクルマとして、その体躯の大きさを忘れさせるほどの運動神経を誇る。ステアリングフィールが軽快で回頭性が鋭く、しかも荷物や人数をフル積載してもその感覚が持続する。無論、走っていてサイズなりのどっしり感はある。とくに2Lディーゼルの180ps/400N・m仕様なら、高速道路での燃費は20km/Lで目算が立つ。
初代5008は、スポ―ティなモデルしかラインアップしない、という方向性だった2000年代のプジョーが初めて手掛けたピープルムーバー、つまりミニバンだった。が、2017年からの2代目で「SUV」に進化、つまり「スポーツ」というキーワードが入り、「EMP2」という新開発プラットフォームを用いて俄然覚醒してしまった。とにかく週末の距離が伸びるというロングドライブ派のファミリーや、接待ゴルフ・エクスプレスを求めるビジネスマンに、ベストの選択肢だ。中古のディーゼルはまだ300万円オーバーだが、初期モデルの「アリュール」なら200万円台前半から狙えるようになってきた。
ルノー・グランセニック(2代目)
日本へは2000年代後半に輸入された「ルノー・セニックII」のロングボディが「グランセニック」だ。初代ことセニックIは本国でバカンス・エクスプレスとして、1990年代後半にルノーの日産買収の原資といわれたほどのメガヒット・モデルだった。その後継だからさぞかしすごいのかと期待し過ぎると、肩すかしに遭う。
ロングホイールベースに柔らかいが造りの良いシート、広大なグラスエリアによる見晴らし視界の広さに、忠実かつ適度な剛性感のステアリングフィール。2L・16Vのエンジンに与えられた「F4R」という型式は、同時代に過激化していった「メガーヌR.S.」の「F4R」とは別物の131ps/191N・m。だが、どこをどう切り取っても尖りがなく中庸な、しかしルノーならではの黄金律というべきバランス感に満たされる。この時代、ルノーはユーロNCAP衝突で5つ星を獲ることを至上命題としており、パッシブセーフティでも高い信頼性を得ていたバカンス・エクスプレスとして、日本ではツウを中心に好まれた。
フォルクスワーゲン・シャラン
初出は2010年のジュネーブ・サロンと相当に長寿モデルだが、輸入車では貴重なスライドドアを採用したファミリー向けの7人乗りミニバン。度重なる装備仕様の追加や改良を続けつつ、2015年にフィイスリフトして「ゴルフ7」や「ポロ」に準ずる現代的なフロントマスクとなったが、「ゴルフ8」がデビューしたいまや、少し古さは隠せない。
しかも長らく1.8tを超える車重、ダウンサイジングターボの権化のような1.4Lエンジンの150ps/240~250N・mというアンダーパワーということもあり、燃費が辛いモデルだった。だが、2年前よりVWのアキレス腱であったディーゼルエンジンを導入し、2Lディーゼル177ps/380N・mとようやく他の欧州ディーゼルに肩を並べるまでに。長距離ツアラーというより、近郊ドライブ向きという意味でも、日本車に近い感覚で乗れる欧州ミニバンだ。
フォルクスワーゲン・ゴルフ・トゥーラン
2015年に現行型は登場。MQBプラットフォームに基づき、「ゴルフ7」をベースとする、いわゆる欧州Cセグのモノスペース。「シャラン」よりひと回り小さく、リヤドアは非スライドのスイングドアとなる。日本市場でも初期フェイズからACC(アダプティブクルーズコントロール)を採用し、初代より格段に広くなった室内に、2列目シートのスライド量も大きく、3列目シートへのアクセスがワンタッチで済むイージーエントリー機能を備えるなど、VWらしい実直な造りが際立つ。
1.4Lのダウンサイジングターボ1本槍で、走りの面でパンチに欠けるところは否めなかったが、シートヒーターやADASパッケージの充実を重ね、2018年に待望の2Lディーゼル150ps/340N・mを追加。欧州車のなかでも相当に地味な存在ながら、2020年には1.4Lから1.5Lへ、6速DSGが7速DSGになるなど、ある意味、地味で誠実な熟成を旨とする昔気質のドイツ車でもある。
メルセデス・ベンツVクラス(2代目W639)
現行は3代目だが直4・2.1~2.2Lディーゼル一本鎗で正式輸入される「W447」に比べ、SOHCのV6を軸に日本で初めて正式導入された先代の「W639」が「古典的なメルセデスらしさ」という意味では一枚上手ともいわれる。当初はVクラスでなく「VIANO(ビアノ)」という車名だった。ちなみに欧州市場においてバンは「VITO(ヴィト)」を名のった。日本でビアノは基本グレードの「トレンド」、装備の充実した「アンビエンテ」と同ロングがラインアップされた。
ロングボディならゆうに全長5mを超える体躯にも関わらず、ピッチやロールの少ない低重心のFRシャシーによるビシッと芯を感じさせる安定性やハンドリングに、熟成を重ねたV6の力強くスムースなフィールは、まさしくメルセデス・ウェイだった。後期フェイスではV6ユニットは3.2Lから3.5Lへとスープアップされ、ヘビーなキャンパーの絶大な支持を得るなど、キング・オブ・ミニバンに君臨した。今や2014年までの年式なら200万円アンダーがゴロゴロしている。