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「減速」に「500万円」ってクルマ買えるじゃん! 深すぎるブレーキいじりの世界

モノブロックキャリパーのイメージ

確実な安心感を得るために大事

 ブレーキをいじっても速くなるわけじゃないのに……。にも関わらずキャリパーキットは前後で100万円以上することも珍しくない。しかし、じつはしっかり止まるからこそアクセルを踏める。そんな安心感を手に入れるための高級ブレーキとはどんなものなのか。

パッドを押し出すピストンが増える

 ブレーキチューンといえばパッドとローター。そのパッドを押している装置をキャリパーと呼ぶ。油圧ピストンが内蔵されていて、ペダルの圧力をここに伝えてピストンが押し出され、パッドをローターに押し付けてブレーキは利く。どんなクルマでもブレーキは標準装備されているのに、なぜ社外品は高価なのか。

 まず、高性能キャリパーはそのピストン数が増える傾向にある。純正キャリパーの多くは1POTで、キャリパー内に油圧ピストンがひとつある。片押しキャリパーという方式で、ひとつのピストンで内側パッドがローターと接触し、そのそこからステーがスライドして外側のパッドがローターに押し付けられる仕組み。

 しかし、高性能キャリパーとなると、このピストンが内側と外側にある。両側から同じように押すことで効率がよくなるのだ。さらにピストン数も増える傾向にあり、4POTは当たり前で今や6POTが普通なくらい。

 ペダル側のマスターシリンダー(ブレーキフルードに圧力を掛ける装置)が同じなら、キャリパー側のピストンの面積も同じでないといけない。ピストン数を増やして圧力を受ける面積を増やすと、押し付ける力が弱くなってしまうのだ。なので、ピストン数が増えるとその分ひとつのピストンは小さくなる。これがじつはメリット。ピストンのひとつあたりが小さくなることで、ローターの外側を強く押せるのだ。輪軸の原理で、ローターは外側を押したほうがブレーキが利きやすい。だから高級キャリパーは6POTや8POTになっていく。

ハイエンドはアルミを削り出すタイプも存在

 そんなキャリパーは純正では鉄製が普通。高級キャリパーでは軽さを考えてアルミ製。リーズナブルなモデルは2ピース構造で、ふたつのボディをねじで締め付けてある。高価なモデルはモノブロックと呼ばれる一体構造となる。この方がキャリパーの剛性には圧倒的に有利だが、ピストンが入る部分を90度曲がるドリルで切削しなければいけない。そのため製造には高価な切削機械が必要で、おのずとコストが上がってしまう。

 しかも、最高級モデルは鍛造アルミのブロックから削り出すと呼ばれる手法で、四角いアルミをひたすら切削してキャリパーのカタチにしていく。最新の5軸マシニングセンターでも1日2~3個ほどしか作れないため、必然的に高くなってしまうのである。

F1も採用するカーボン製ローターは最高峰!

 ローターもカーボン製となると、さらに天文学的な値段になる。普通は鉄製ローターと金属成分入りのブレーキパッドが組み合わせられるが、レーシングカーや最高級モデルとなると、ローターがカーボン製になる。カーボンは熱に強く、レギュレーションで許可されているレースでは、おのずとカーボンローターが標準になる。F1もカーボンローターだ。パッドもカーボンを積層させたようなもので、カーボン同士が擦れ合うようなイメージ。

 またカーボンは軽いので、ローターが軽くなるとバネ下重量が低減され、足まわりの動きが良くなる。同時にカーボンの軽さは回転慣性も減るので、ブレーキの利きもよくなりやすい。ハンドリングパーツでもあるのだ。

 しかし値段は圧倒的。ポルシェのメーカーオプションで選ぶと200万円弱。エンドレスのR35/LC500用キットだと前後セットで約500万円となる。ぶっちぎりに高価だが、圧倒的に安定した利きがレースでの連続ラップを支えてくれるのである。

 高価なキャリパーは剛性が高く踏んだときの踏み応えもすごい。ペダルストロークが少なく、扱いにくい(!?)と思うかもしれないが、短いストロークのなかでじつに繊細な調整ができる。ブレーキチューンならサーキット走行や、ワインディングを攻めなくても、街乗りの交差点などで止まるときから体感できる。高性能ブレーキは普通に止まるときにも使いやすい。いつでもどこでもその価値を堪能できると考えると、パワーチューンよりもいつでも体感できる分、高くてもアリかもしれない。

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