タイヤのグリップ力は縦+横の合計で表される
タイヤの使い方やタイヤの性能を語るとき、「縦のグリップ」「横のグリップ」というフレーズをよく目にしたり耳にするはずだが、一体どういうものなのか。解説してみよう。
直進状態で加減速しているときが縦グリップ
簡単にいうと「縦のグリップ」は、クルマが直進状態のときのブレーキやトラクションを左右するグリップ力のこと。
例えばフルブレーキで縦のグリップ力を使い切ると、そのままではタイヤがロックして滑ることになるのでABSが働き、ロックと解除を繰り返して最大限の制動力をキープしようとする。また加速時でも急なアクセルオンでホイールスピンを起こすとき、あるいはTCSが働いたときも「縦のグリップ」を使い切ったことになる。
旋回時に必要となるのが横グリップ
一方、「横のグリップ」はコーナリング時に、遠心力に抗するグリップ力のこと。「横のグリップ」が足らなくなると、ハンドルを切っても曲がらない=アンダーステアが発生したり、テールが流れたり、スピンしたり、ESCが介入してくる。
クルマの運転が難しいのは、「縦のグリップ」と「横のグリップ」には限りがあり、しかもそれがトレードオフの関係にあるからだ。この季節、アイスバーンを走ればわかりやすいが、ツルツルの路面ではハンドルを切りながら発進しようとしてもなかなかスタートしづらいし、ハンドルを切った状態でブレーキを踏むとABSが利いたとしても制動距離がかなり伸びてしまう。最短距離で停止するには、ハンドルは真っ直ぐにしておく必要があるし、坂道発進ではできるだけハンドルは真っ直ぐにしておきたい。
またコーナーを曲がるときは、手前で曲がれる速度まで減速し、ハンドルを切り始めるときにはブレーキを抜いておかないとなかなか思うようには曲がってくれない。
縦グリップと横グリップはフリクションサークルで表される
そのタイヤの「縦のグリップ」と「横のグリップ」の関係性を模式図化したのが、いわゆる「フリクションサークル」(摩擦円)。正確に言えばフリクションサークルは真円ではないのだが、わかりやすくまん丸に描かれることが多い。この円の中が、タイヤの運動性能を発揮できる範囲で、ここから飛び出すとスリップすることになると思えばいい。
これを見ると、円の半径が10だとしたら、グリップ力を横方向に10使うには、縦方向をゼロ=つまり加速も減速もしていない状態を造り出さないといけないのがわかるはず。具体的には、舵角一定、速度一定で、アンダーステアが出るギリギリ手前をキープするのが、本当の意味での「最速のコーナリング」ということになる。
この場合、ブレーキは完全にオフなのはもちろん、アクセルオフもエンジンブレーキ=「縦のグリップ」を使うことになるのでNG。加速も同じくNGなので、同じ速度を維持するためのアクセル(ハーフスロットルあるいはパーシャルスロットル)が必要になる。実際のコーナリングでは、コーナーのクリッピング付近でこの状態になるのがひとつの理想だ。
逆にいえばコーナーへのアプローチ、減速時は直進状態でフルブレーキ。ターンインを始めるときはそのブレーキを戻しつつ、ブレーキを抜いた量に比例してハンドルを切り足していき、立ち上がりでは逆にハンドルを戻しながら、それに合わせてアクセルを踏み足していく。つねにフリクションサークルからはみ出さないよう、なおかつフリクションサークルの縁を沿うようにコントロールしたとき、タイヤの性能を100%使い切ったことになる。
この「縦のグリップ」と「横のグリップ」は大雑把に言うとほぼ同等の力で、ABSが作動するようなフルブレーキ時の減速Gが1Gのタイヤは、コーナリングフォースが最大のときの横Gも1Gぐらいだと思えばいい。
細かく言うと、最近の高性能タイヤは「横のグリップ」よりもわずかに「縦のグリップ」が勝る傾向があるので、コーナリングラインも旋回時間が長いU字ラインより、レの字ラインの方がより速いともいわれている。