「猫足」の起源をもとめて古カタログでタイムトラベル
石畳、マロニエの葉、アルプスやピレネーの山岳道路……キタキタァ、である。じつは今回、とある理由(詳しくは後ほど)で手元にあるプジョーのカタログを見直す作業を行いつつ、いかにもフランス的な語彙が散りばめられたカタログの中の文面をちらちらと読みながら、フランス車であることを強調するため、当時のカタログ制作会社や担当者の苦労が偲ばれるなぁ……などと思ったのは余談。
作業は日本版の古い……といっても、せいぜい西武自動車販売が手がけていた当時の「504ディーゼル」が最古だから、1970年代半ばあたりのカタログから現代に向かって時代を追いかけながら目を通していた。そんなに大量に所有してはいないが、昔のカタログは、ほとんどの輸入車がそうだったように、おそらく本国のものをベースに、日本語をあてがって作られたようなシンプルな体裁。それはそれで素朴な味わいのようなものがあり、眺めていてもホノボノとした気持ちになれる。
クルマ業界で当たり前に使われている決まり文句だが……
ところで何でプジョーの古いカタログの点検を始めたのか? というと、編集部から「お題」をいただいたからにほかならない。
プジョーの「猫足」について解説せよ、というのである。確かにプジョーの足まわりの表現で「猫足といいわれる……」はいわば常套句。いつの間にか、何の疑問も抱かずに自分でも使ってきたような気がする。さらにいつから使われ始めたのか? と問われたところで、自分のことではないから「それは高校3年の夏からです」などと明確にも答えられない。筆者自身の受け身の経験でいえば、いつかどこかのタイミングで、どれかの自動車雑誌でどなたかがレポートの中で使っているのを読んで知ったのが、「猫足」に触れた最初だったと思う。けれどそれがいつだったのかは、昨夜の夕食に何を食べたのか思い出せないのと同じくらい(違う?)、わからない。
では、プジョー自身のカタログで「猫足」を使うようになったのは一体いつからだったのか? この際、愚直に調べてみようと思い、飼い犬に邪魔されながら床にカタログを広げ、半日かけて探してみた。
すると、意外にもあっさりと見つかった。手元で確認できたのは、車種でいうと「205」、「306」、「106」のカタログ。表記を抜き出すと、「猫足と呼ばれるしなやかな乗り味」(205)、「205以来の伝統となった“猫足”と評される足回り」(106XSi)、「“猫足”と形容されるしなやかなサスペンション、ネコ足と評される足まわりの完成度」(306)など。
さらに1997年10月発行の総合カタログの中では、「106 S16」と「306 S16」をまとめて紹介したページがあり、そこには「ストロークの長い粘りの効いた、いわゆる猫足」と書かれている。まさしく筆舌を尽くすまでもなく、端的に“猫足”がどういうものかをスパッと表現したのがこの一文。猫足とは、そういうものなのだ。