国産のみならず輸入車においても直列の名機は多い
日産のRB26、トヨタの3Sや4AG、ホンダのF20CやB18C、三菱の4G63……名機と呼ばれるエンジンには、直列エンジンが多い。一方で、国産だけでなく世界的にも80年代後半からは、FF車の急増と衝突安全性の影響(クラッシャブルゾーンを稼ぐため)で直6エンジンが廃れ、V6エンジンが跋扈してきたのはよく知られている。V12気筒やV10気筒は別として、直列とV型が混在する6気筒で比較すると、BMWやベンツの直6をはじめ、名機は圧倒的に直列に偏っている。どうしてだろう?
直列はスムースなエンジンの吹き上がりに有利
エンジンは多気筒化=マルチシリンダーにした方がスムースで力強いものになる。単純に考えても、クランクシャフトを1回転させるのに爆発回数が4回よりも6回、6回よりも8回、8回よりも12回と増えれば増えるほど、単位時間あたりの仕事量=馬力が大きくなって、回転も滑らかになる。
しかし、直列エンジンで気筒数を増やすとエンジン長が長くなるので、場所をとる。V型なら6気筒でも直4並の長さで作ることができ、横置きのFF(ミッドシップ、4WD)にも搭載できるため、FF車が増えるに従いV6エンジンが増えてきたわけだが、V6エンジンは振動特性に短所がある。
ピストンは気筒数に関係なく、上死点と下死点で一旦停止したあと、反対方向に動き出す。このとき慣性が働き、振動の原因になる。これが一次慣性力。直4エンジンの場合、1番と4番が上死点のとき、2番と3番は下死点になるように設計されているので、お互いに慣性力を相殺するので一次振動は発生しない。また単気筒エンジンであっても、カウンターウエイトを付ければ、一次振動は相殺できる。
ただ、エンジンはピストンの上下運動をコンロッドを介して回転運動に換える機械なので、コンロッドは、上死点と下死点以外では斜めに傾きながら動いている。そのため、ピストンが最高速度に達するタイミングはストロークの中間よりも上死点に近いところになる。4気筒エンジンでいえば1番と4番が爆発して下降=最高速点に達したときの慣性力は、2番と3番の上向きの慣性力を大きく上まわるので、ここで二次慣性力が発生し、振動を生じてしまう。アイドリング時に感じやすいのが、この二次慣性の振動だ。
この一次振動と二次振動を同時に消すには、ピストンの上下運動が重ならないように、爆発の間隔を3等分すればOK。直6エンジンの場合、クランクピンの位相を2気筒ずつ、3等120度間隔に配置できるので、振動の問題は解消するのだ。気筒数が多く振動が出ないので高回転化が可能になり、力強く、スムースな名機が作りやすいというわけだ。
直4と生産を共通化できて効率も良い
それに対し、V6はクランクシャフトの関係から等間隔爆発は難しい。エンジン長の面で有利なので、ボアを広げることはやりやすいが、高回転化は苦手……。使いやすいいいエンジンというのは中低速のトルクが大きく、レスポンスのいいエンジンなので、高回転までまわらなくてもトルクが大きければいいエンジンともいえる。だが、気持ちいいエンジンとなると、高回転の伸び感は絶対に必要。排気音にしても、1秒あたりの爆発回数が多い方が周波数は高くなるので、甲高いエキゾーストノートが得られる。
この音の問題もけっこう重要で、レーシングカーのエンジンで聞き比べると、いい音のランキングは、1位:V12、2位:V10、3位:直6、4位:V8、5位:直4、そして最下位がV6というのが定番だ(もちろん一例でありこれが答えではない)。もっとも、F1だって現在のパワーユニットは1.6L V6ハイブリッドターボだし、日本が誇る日産GT-R(R35)のVR38DETTエンジンも、3.8L V6ツインターボなので、V6=実用エンジン向きというわけではない。
また、また直6エンジンは設計も部品も構造も(生産工程)も直4と共用できるのが大きい。昨今、環境性能が重視されるなか、ダウンサイジングターボが増えてきて、かつての3L(6気筒)クラスのクルマに、直4直噴のターボエンジンが積まれるようになってきた。こうなると、直4といろいろ共有できる直6も作りやすくなるわけで、ベンツやBMWが直6を復活させてきた事情はこうしたところにもある。ちなみにV型は、シリンダーブロックもヘッドもふたつ必要なので、コストも高い。
というわけで、省スペース性ではV6に軍配が上がるが、振動特性、高回転化、部品・設計の共用化、コスト、エキゾーストなどの面では、直列エンジンが優れている。その結果、直列エンジンに名機が多いというのがこれまでの歴史が物語っている。古い高級車は、エンジン縦置きのFRばかりだったのも大きな理由だ。ただ、スムースネスな点では、内燃機関では手も足も出ないEVの時代が来ると、どうなっていくのか? 今後の動向に注目したい。