全部わかったらアバルトマニア確定
フィアットの小排気量のクルマをベースにチューニングを施した、ホットモデルを製作販売していたアバルト。1971年にフィアットに吸収され、以後はそのモータースポーツ部門を任されることになりました。そしてランチア・037ラリーやランチア・デルタS4、ランチア・デルタHFなどの開発を進めると同時に、アウトビアンキA112やフィアット・リトモをベースとしたコンプリートカーをリリースしてきました。
そんなアバルトは、1996年に事実上消滅してしまいますが、2007年に復活しフィアットのグランデ・プントをベースにしたグランデ・プント・アバルト1.4ターボをリリースしています。その後2008年にはフィアット500をベースにしたアバルト500とその発展モデルである695&595が追加され、2016年にはフィット124をベースにしたアバルト124スパイダーをリリースしています。ここでは、そうしたルネッサンス以後のクルマではなく、オリジナルのアバルトを1台ずつ、難解度に応じた偏差値をつけながら振り返ることにしてみましょう。
山椒は小粒でを実践したFIAT Abarth 595 SS:偏差値55〜70
まずは、オリジナル・アバルトを代表するモデルのひとつ、1963年に登場したFIAT Abarth 595 から紹介しましょう。ネーミングにベースモデルが示されていませんが、フィアットが1957年にリリースしたFIAT NUOVA 500(伊=フィアット新500)がベースになっています。
ルネッサンス版にもアバルト595がラインアップされていますが、オリジナル版では車名のとおり、エンジンが500ccから595ccに排気量を拡大したことに由来する。
ちなみにイタリア語では595のことを「cinquecento novanta cinque(それぞれ500と90、そして5を示す伊語)」と呼んでいます。パフォーマンス的にはノーマルの15馬力から8割方パワーアップして27psを発生し、最高速度も90km/hから120km/hにまで引き上げられていました。
さらに1964年にはFIAT Abarth 595 SSが登場しています。こちらは595ccの排気量はそのままに、圧縮比を高めるなどのファインチューニングを施し32psにまでパワーアップ。また同年、排気量を695ccに引き上げたFIAT Abarth 695も登場しています。
FIAT Abarth 595 SSの単体ならば偏差値55。FIAT Abarth 595からFIAT Abarth 595SS、FIAT Abarth695のシリーズ全体を知っているなら偏差値70、といったところでしょうか。
ラリーでの活躍で名を馳せたFIAT Abarth 124 Rally:偏差値50~65
続いては、世界ラリー選手権(WRC)で活躍したFIAT Abarth 124 Rallyです。ベースモデルは1966年にデビューしたフィアットの124スポルトスパイダーで、アバルトによってWRC用に仕立てられ、グループ4のベースモデルとして約1000台が生産されています。
ベースとなった124スポルトスパイダーは、124ベルリーナのホイールベースを140mm切り詰めたシャシーにピニンファリーナがデザインしたオープンボディを架装したもの。エンジンはベルリーナ用を排気量アップするとともにベルトドライブのツインカムヘッドで武装しています。
直接のベースとなったのは1970年に登場した124スポルト1600スパイダーで、こちらは110psを発生していました。FIAT Abarth 124 Rallyではさらに1756ccまで排気量を拡大するとともに圧縮比を高めるなど、さらなるチューニングが施されて128psにまでパワーアップ。
同時にリヤサスペンションを、3リンクをコイルスプリングで吊ったリジッドアクスルからストラットを逆Aアームとトレーリングアームで支え、コイルスプリングで吊る独立懸架に変更するなどシャシーも強化されていました。
さらにボンネットフードやトランクリッドなどをFRP製に置き換え、ボディも部分的には肉厚の薄いものと交換するなどして軽量化を徹底。車重945kgとベースモデルからは大きくシェイプアップしていました。FIAT Abarth 124 Rally自体は偏差値50、ベースのFIAT 124スポルト1600スパイダーとの関係性まで知っているなら偏差値65、といったところでしょうか。
アバルトが仕立てた初のホットハッチAutobianchi A112 Abarth:偏差値60~75
3番目に紹介するのは、アバルトとしては初の前輪駆動車(FWD)となったAutobianchi A112 Abarthです。アウトビアンキ(Autobianchi )はイタリアで最古の自動車メーカーのひとつでしたが第二次大戦の後、経営悪化に見舞われた際にフィアット系列に入り、1995年にランチアに併合されたのち、ブランド自体も消滅してしまいました。
Autobianchi A112 Abarthのベースとなったのはアウトビアンキのコンパクトカー、A112です。これはフィアット500をベースに製作されたビアンキーナの後継というよりも、フィアットの新世代コンパクト、127のパイロットモデルという意味合いの方が強いモデルとなっています。
フィアットグループではアウトビアンキのプリムラ、フィアットの128、そしてアウトビアンキのA111に次ぐFWDの第4弾でした。アバルトが手掛けた最初のFWDであり、また最初のホットハッチということになります。
シャシーはベースとなったA112と基本的には共通……ということはフィアットの128/127とも基本的には共通で、サスペンションもフロントがストラット、リヤがウィッシュボーンを横置きのリーフスプリングで吊った4輪独立懸架を採用していました。
エンジンは、ともにフィアットの850から転用された直4のOHVですが、A112が903cc/44psであったのに対して、A112Abarthでは982㏄/58psに強化。74年にはさらに1049cc/70psにまで強化されることになりました。
Autobianchi A112 Abarth自体は偏差値60、ベースのAutobianchi A112 やA111、そしてフィアットとの関係性まで知っているなら偏差値75、といったところでしょうか。
フィアットのシャシーにオリジナルボディを架装したFiat Abarth 1300 Scorpione:偏差値80
ここからは、フィアットをベースとしながらも使用するのはシャシーのみ。ボディはカロッツェリアに依頼していたので、ベースとなったフィアットとはルックスがまったく異なるモデルとなり、偏差値も一気に高まります。
まずは1968年に登場したFiat Abarth 1300 Scorpioneから。基本パッケージから紹介しておくと、フィアット850のシャシーを改造。フィアット124用をボアアップし1197ccから1280ccにまで排気量を拡大した直4OHVエンジンを搭載するロードゴーイング仕様のGT、ということになります。
前後のサスペンションは横置きリーフで吊ったウィッシュボーン/コイルで吊ったトレーリングアームの4輪独立懸架で、ブレーキは4輪ドラムとフィアット850と基本的には共通。ただし、ホイールベースは15mm延長されていました。
1280ccにまで排気量が拡大されたエンジンは、ベースの124(60ps)に対して15psだけパワーアップされていました。ただし、コスト面を重視したのか、124シリーズのスポルトクーペ/スポルトスパイダーに搭載された125用の1438ccの直4ツインカム(90ps)を搭載していれば、と思わずにはいられません。
もっとも、のちにパワーアップしたSやSSも登場していたようで、余計なお世話ということかもしれません。こちらの難易度はぐっと高まって、偏差値80といったところでしょうか。
ベルトーネがスパイダーとクーペを手掛けたAbarth 750 Bertone:偏差値90
最後に用意したモデルは難解度MAXな1台、Abarth 750 Bertoneです。アバルトとベルトーネのジョイントワークとしてはスピード記録挑戦車が有名ですが、こちらは1956年にリリースされたロードゴーイングカーです。
クーペが初春のジュネーブショーでお披露目され、続いてスパイダーがフィアットやアバルトの本拠地であるトリノショーで登場しています。フィアット600から流用したシャシーに、ベルトーネが2ドアのクーペ&スパイダーと2種のボディを架装。
デザインを担当したのは2台ともに、当時のチーフデザイナーを務めていたフランコ・スカリオーネでした。ちなみに、彼は1956年には先に触れたスピード記録挑戦車も手掛けていますが、その前後1952年にはアバルト1500ビポスト、1953年にはフェラーリ・アバルト166MM/53を手掛けています。そのほか、1958年にはアルファ ロメオ=アバルト1000ベルリネッタ、1960年にはポルシェ356BカレラGTLアバルト・ベルリネッタなども手掛けていて、アバルトにもっとも深い関わりを持ったデザイナーのひとりです。
ちなみに、仏伊のラテン連合ではなく、アバルトがドイツのポルシェとジョイントした1960年のポルシェ356BカレラGTLアバルト・ベルリネッタについては、また別の機会に紹介することにしましょう。Abarth 750 Bertoneは、フィアット600用のエンジンを747ccに排気量を拡大し最高出力も24.5psから41psまでパワーアップして搭載していました。
エクステリアデザインではポップアップ式(リトラクタブル)のヘッドライトと、テールに生えたフィンが大きな特徴となっていて、これらはクーペとスパイダーに共通していました。難易度は大きく跳ね上がっていて偏差値90といったところでしょうか。